トランプ「不支持」はヨーロッパにとどまらない「欧か米か」の時代の予感・最終回

林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・トランプ氏の大統領就任から100日、ロシアによるウクライナ侵攻は停戦への道筋すら見えてこない。
・ヨーロッパ諸国では米国製兵器の導入を見直す動きまで出ている。
・トランプ大統領の支持率は、過去70年間の歴代大統領の中で最低となった。
(ところで、ウクライナの和平問題はどうなったのか)
最近では、メディアもネットも、いわゆる「トランプ関税」の話題で持ちきりだが、ふとそうしたことを考えたりするのは、私だけであろうか。
ロシアによるウクライナ侵攻は、大方の予想を裏切る長期戦となって今や4年目に入った。
トランプ大統領は選挙期間中、自分が就任したらこの紛争は
「24時間で終わらせる」
と豪語していた。
2022年に紛争が始まった時点では、
「自分が大統領だったら、戦争など起こさせなかった」
などと繰り返し述べていたことは、ご記憶の読者も少なからずおられよう。
しかし現実はご案内の通りで、トランプ氏が大統領に就任してからすでに100日にもなろうというのに、戦争終結どころか停戦への道筋すら見えてこない。
さすがに「24時間」とは、支持者に向けたリップサービスだったのだろうが、それにしても、ウクライナに対してこれまでの軍事援助の見返りに、同国のレアアース(希少鉱物資源)の利権をよこせと迫るなど、本気で平和を望んでなどいなかった、と言われても仕方のない態度ではなかったか。
本連載でも以前、不法移民への厳しい対処から、パリ協定(評価はまちまちだが、地球温暖化対策の国際的な枠組みではある)からの離脱、果ては紙ストローを廃止したことまで取り上げてトランプ大統領を賞賛していた人たちが、関税の問題が浮上した途端に口をつぐんでしまった感がある、と指摘した。
ロシアによるウクライナ侵攻についても、外務相の情報分析官であった人までが、前述のような大言壮語を真に受けて、トランプ氏が大統領だったら戦争は起きなかっただろう、などと述べていた。
ならば、そのトランプ大統領が、ロシア・ウクライナ双方が言うことを聞かないものだから、和平の仲介から手を引くことまで示唆しているのは、一体どういうことなのか、正確に分析して情報を開陳し、皆が納得できるような説明をしていただきたいものである。
そもそもトランプ大統領が提示した「和平案」なるものは、ロシアによるクリミア半島などの実効支配は認めた上で、再びロシアが軍を動かすことを牽制すべく、軍事援助を再開してもよい、といったものだ。これまで多大な犠牲を払って領土の奪還を目指してきた国の指導者が呑めるものかどうか、考えるまでもない。
これに対して英仏はじめ、これまでウクライナに対する支援を継続してきたヨーロッパ諸国は、ゼレンスキー大統領による、
「まずは完全な停戦の実現。そして再侵攻しないという保証。その上で領土問題は交渉による解決を目指す」
という提案を支持する姿勢を崩していない。
公正を期すために、ロシアによる侵攻再開を阻止すべく、平和維持軍を派遣するという案に関しては、国によって温度差があることは明記しておく。
いずれにせよ、トランプ大統領のこうした態度が、ロシアの脅威を深刻に受け止めているヨーロッパ諸国の目には、いい加減極まると映って、各国の国防関係者の間からは、
「米国はもはや信頼するに足る同盟国ではない」
との声が漏れ聞こえてくるようになり、米国製兵器の導入を見直す動きまで出ていることは、すでに述べた。とりわけ耳目を集めたF35については、上中下3本に分けて記事にさせていただいたが、他にもMLRS(多連装ロケットシステム)なども、導入見直し論議の対象になっている。
F35は今のところ唯一次戦配備されている第5世代戦闘機だが、MLRS、とりわけプラットフォームを6輪駆動トラックに変えて機動性を増大させたHIMARS(高機動ロケット砲システム)については、ウクライナに供与されて大いなる戦果を挙げてはいるものの、イスラエルや韓国が同様の兵器をすでに開発しているので、代替が困難ということもない。
日本もそろそろ、米国に頼り切りの国防戦略を見直すべき時期に来ているのでは……というのが今次のシリーズの主眼だったのだが、その結論を導き出す前に、就任100日を迎えた時点(4月29日)でのトランプ大統領の支持率が、過去70年間の歴代大統領の中で最低の数字となった、という報道に接することとなった。
CNNが実施した世論調査によると、大統領に対して「強い支持」を表明したのは22%で、消極的な支持を含めても41%にとどまり、これは前述のように、1953年~61年に大統領の座にあったアイゼンハワー氏以降(第一期目のトランプ政権を含む)最低の数字である。一方、「強い不支持」は45%と、就任時に比べて倍増したという。
3月の中旬あたりまでは、一連の関税政策が発表され、経済混乱の兆候が見られたにもかかわらず、比較的高い支持率を示していたのだが、その混乱が予想以上のものであったことや、インフレ対策に見るべき成果が出ていないことなどから、急速に支持を失ったものと見られる。
一般に就任100日目までは「ハネムーン期間」と呼ばれ、在任期間中を通じて高い支持率を示すことが多いのだが、今回、FOXなど保守系メディアまでが厳しい評価をくだしており、これでは本当に先が思いやられる。
もちろん、未だ就任から100日目だ、と言われればそれまでの話で、政権の功罪を論ずるためには、今しばらく時間が必要であることは間違いない。
とは言え、時間を与えればよい結果が期待できるだろうか、と問われたならば、然りと即答できる人はさほど大勢いないのではないだろうか。
このような大統領に依然としてするよって、とにかく関税率を下げてもらおう、という日本政府の態度は、いつか重く罰せられるであろうと、私は考える。
トップ写真)2025年4月26日、バチカン市国バチカンのサン・ピエトロ大聖堂で行われた教皇フランシスコの葬儀で、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領(右)がアメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領(左)と会談する様子
出典)Office of the President of Ukraine via Getty Images