CSもDHも慎重な議論が必要だ たまには野球の話でも その3

林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・プロ野球のCSは、ペナントレース終盤の観客減対策としてパ・リーグで導入され、下克上の面白さでセ・リーグにも広がった。
・CSはシーズンを圧倒的な成績で制したチームの存在意義を揺るがす一方で、負け越したチームにも優勝の可能性を与えるため、その制度の公平性が議論されている。
・2027年からのセ・リーグDH制導入には、采配の醍醐味をなくすという反対意見もあることから、ファン不在の運営には警鐘を鳴らしたい。
シリーズ冒頭でお伝えした通り、プロ野球のセントラル・リーグ(以下セ)では阪神タイガースが優勝した。
パシフィック・リーグ(以下パ)の報は、この原稿を書いている20日の時点で、ソフトバンク・ホークスにマジック10が点灯している。2位の日本ハム・ファイターズだが、ゲーム差が4.5で残り試合が3なので(ソフトバンクは残り4)、逆転はかなり難しい。
この結果、セでは阪神と2位のDeNA横浜ベイスターズ(以下、横浜)、パでは前述の2チームがクライマックスシリーズ(以下CS)進出を確定させている。
セの3位は読売ジャイアンツ(以下、巨人)で、未だ確定はしていないものの、4位の広島カープには7ゲーム差をつけており、ここでも逆転はまずなさそうだ。セはどうやら上位と下位の戦力差がなかなか埋まらない「三強三弱」時代が始まった感がある。
ここでCSについて見ておかねばならないが、これはもともと、パが2004~06年シーズンにかけて導入した「プレーオフ」制度から始まったものだ。
どこかのチームの優勝が確定すると、残りのシーズンは「消化試合」となってしまい、観客動員数ががた落ちになる。これではいけないと、シーズン上位3チームがトーナメント方式で最終的な優勝を決める、という制度が考え出された。
これが興行的に大成功を収めただけでなく、2005、06の両年は、シーズンを1位で終えられなかったチームがプレーオフを制し、そのままの異本シリーズも制して日本一になるという「下剋上」が実現したことにより、注目度も非常に高くなった。
この結果、セでも導入を待望する声が出て、2007年からパと同様のシリーズが始まったのである。クライマックスシリーズという名称は、公募で決められたそうだ。
この決定に伴い、ペナントレースはレギュラーシーズンと呼称を改められた。CSが終わるまでは、優勝ペナントの行方が分からないからである。つまり、現時点では、阪神はレギュラーシーズンで優勝したに過ぎず、セを本当に制して日本シリーズに出場できるか否かは未だ分からない。
前にトーナメントと述べたが、出場3チームであることから、正確にはステップ・ラダーと呼ばれる仕組みになっていて、具体的には、まず2位と3位のチームが3試合制で戦い、勝ち越した方が一段上のステージに進出する。読者ご賢察の通り、ステップ・ラダーすなわち「一段勝ち上がり」と呼ばれる所以だ。
引き分けもあり得るが、1勝1敗1分(もしくは3分)となった場合は、2位チームが勝ち上がる。
これがファーストステージで、勝った方はシーズン1位のチームを相手に、6試合制のファイナルステージに臨むこととなるが、ここでは1位のチームにあらかじめ1勝のアドヴァンテージが与えられるので、2位もしくは3位のチームは、1位チームが3勝する前に4勝しなければならない。だから7試合でなく6試合制なのだ。3勝3敗担った時点で、1位チームにアドヴァンテージの1勝が加算され。自動的に価値となる。
ただ、導入に際して反対意見がなかったわけではない。
今年の阪神などもそうだが、2位に大差をつけてレギュラーシーズン(=ペナントレース)を制したような場合でも、CSで「仕切り直し」ということになると、シーズンの存在意義そのものが問われることにならないか、というわけだ。
さらに言えば、20日の段階で、セの2位に潰えている横浜は、66勝64敗で残り試合は5。3位の巨人は66勝66敗で残り試合は3。
つまり、どちらも最終的には負け越してシーズンを終える可能性がある。
いくらなんでも負け越したチームに優勝争いのチャンスが与えられるというのは……という議論が出てくるのは当然だろう。
19日にはセのコミッショナーが、今年のCSは従来通りの方法で実施することがすでに決まったと公表し、レギュラーシーズンで優勝チームが2位に10ゲーム以上の差を付けた場合、ファイナルステージのアドヴァンテージをひとつ増やしては、というファンの声に対して、今後検討する、としながらも、
「2位に10ゲーム以上の差をつけての優勝は、過去にも例がある」
などと、あまり積極的ではないことをうかがわせるコメントにとどまった。
私見ながら、ここは改革を望むファンの声に一票を投じたい。
たしかに昨シーズン、セの3位に終わった横浜が、CSを制して日本シリーズに射出場し、ついには日本一になったように、下剋上の面白さは捨てがたい。ただ、逆に言えば、圧倒的な強さを示してレギュラーシーズンを制したチームが、CSでペナントをさらわれてしまう、という可能性もあるわけで、だからこそ面白いと考える向きもあろうが、敗者復活戦の在り方としても、いささかアンフェアではないか、というファンの心情は至極もっともだと思えるのだ。
もうひとつ、2027年のシーズンから、セも指名打者(以下DH:
designated hitter)の制度を導入することが決まった。
DHとは読んで字のごとく、打順が回ってくれば打席に立つが守備にはつかない、という選手のことである。一般的に、投手に代わって打撃に専念する存在と考えられているが、打順はむしろ上位や中軸になることが多い。
1973年に米アメリカン・リーグで採用され、2022年からは全試合で導入されている。これまた
「投手に打順が回れば、1アウト取れると計算できる」
というセオリーを覆して、試合をよりエキサイティングなものにしようという、人気てこ入れ策であった。
やはり私見だが、こちらについては、もう少し慎重に議論を重ねてもよかったのでは、と考えざるを得ない。
そもそも論から述べると、今のセになんらかの人気てこ入れ策が必要なのか、ということがあるが、セとパ、さらには日米で野球の形態が少々異なってもよいではないか、と思う。
人気てこ入れ策との表現にこだわって、さらに言えば、阪神の岡田彰布・前監督が述べていたように、
「投手の打順でどうするか、という、そういう(采配の)醍醐味がなくなる」
との意見に私は賛成する。
そこまで野球に造詣が深くないので、あまり偉そうには言いたくないが、打撃が得意な投手も結構いるし、送りバントか強攻策か、それとも代打か、というように、展開を予測するのも、野球観戦の大いなる楽しみなのではあるまいか。
総じて言えることは、興業や運営の都合だけでファンの声をないがしろにするようでは、やがて停滞しっぺ返しを暗いことになる、ということだ。
写真)東京ヤクルトスワローズ戦の8回、投球する読売ジャイアンツの大勢投手:2025年5月10日
出典)Photo by Sports Nippon/Getty Images
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この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト
1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。












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