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.社会  投稿日:2025/10/4

観戦と応援の在り方について(下)たまには野球の話でも 最終回


林信吾(作家・ジャーナリスト

林信吾の「西方見聞録

【まとめ】

・近年、ブラスバンドもチアリーディングも高校生レベルでは日本の活躍がめざましい。

・昭和時代は、メディアカメラマンまでがチアの女の子を下から撮影する光景が普通に見られた。

・彼女たちのチアリーディングはスポーツの応援で、パンツ見せ集団の興業ではない。

 

前回、ブラスバンドもチアリーディングも米国が本場だと述べたが、高校生レベルではここ数年、日本の女子高生の活躍がめざましい。

まず、2009年に福井県立福井商業高校のチアリーディング部〈JETS〉が、全米チアダンス選手権大会で優勝を果たしたこの話は『チア☆ダン』という映画に描かれ、2017年に公開された。映画のサブタイトルは「女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話」である。

ブラスバンドでは京都橘高校吹奏楽部が、国内のみならず米国や台湾に招待されてパフォーマンスを披露し、YouTubeでもよく取り上げられている。女子高ではないが、映像で見る限り9割方女子が占めているようだ。

それだけの結果を足すためには、当然、厳しい練習に耐えているわけで、映画『チア☆ダン』では、広瀬すずらが演じる部員たちを前に、開口一番「恋愛禁止」を申し渡す鬼のようなコーチを天海祐希が好演していたし、京都橘高校吹奏楽部の練習量については、同校の卒業生だという人がYouTubeのコメント欄に書き込んでいたが、

「朝練は暗いうちからやってるし、休み時間はお昼(昼食)も食べないで練習してるし、放課後はまた暗くなるまでやってる」

というほどのものであるという。

ただ、いずれも独立した部活で、それぞれ大会を目指しての練習をしているわけで、高校野球の応援に参加したという話は聞いたことがない。

今回取り上げるのは、甲子園の応援席でパフォーマンスを披露するチアリーダー(以下チア)だが、これまたYouTubeなどで映像を見ると、教員らしき人が前列に陣取り、中には「盗撮禁止」と書いた紙を掲げている例まであった。

当然と言えば当然の処置ではあるが、いつ頃からこうなったのかな、とは思った。

昭和の時代には、カメラ小僧などと呼ばれる若者だけでなく、れっきとしたメディアのカメラマンまでが応援席の最前列に陣取り、それもグラウンドに背を向けてチアの女の子を下から撮影する、という光景が普通に見られた。

名前を言えば誰でも知っている週刊誌の巻頭グラビアに1頁ぶち抜きで、チアが脚を高々と上げ、スカートの中が丸見えになっている写真が掲載されたこともある。

駅構内や電車内で、女性のスカートの中を盗撮したら、れっきとした犯罪になるのに、こういうことは報道の自由の範疇に入るのだろうか。

私も昭和世代の男なので、こうした写真を撮る側の理屈は、ある程度は想像がつくのだが、端的に言えば、写真を撮られるのが嫌なら、あんな短いスカートで踊らなければよいではないか、といったところではないか。

それに、スカートの中と言うが、下着が見えるわけではなく、体操着の下のようなもので、それを撮影してはいけないのなら、そもそも女子種目の撮影ができないではないか、という理屈も、一応は成り立つと考えられていた。

かなり控えめな表現になるのは、昭和の時代でも、一種のグレーゾーンだという認識はメディアの内部でも共有されていたからで、前述の週刊誌の写真でも、女子高生の顔は判然としない(高々と上げた脚に隠れていた)構図になっていて、よくも悪くも上手に撮ったな、などと、妙な具合に感心させられたのを今でも覚えている。

ただ、忘れてはならないのは、彼女たちは皆、普通の女子高生で、年頃の女の子たちだということである。

プロのエンターテイナーであれば、たとえばAKB(光陰矢のごとし、今年20周年ですと笑)が当初、一部からとは言え「パンツ見せ集団」などと呼ばれた例もあって、短いスカートで踊る以上は、それなりの覚悟も求められるかも知れない。

たとえそうであったとしても、一応はプロとしてステージに立つ女の子と、高校野球の応援に来ている女子高生を同列に扱うことはできないが、ひとつの現実には様々な側面があるのだということは、知っておくべきだろう。

関東のある高校では、ここまで述べてきたような盗撮被害を防ぐべく、チアの衣装をショートパンツに変更した。しかし、他ならぬ女子生徒の間から、

「やっぱり(伝統的な)青いミニスカートの衣装が着たい」

との声が多く聞かれたため、元に戻したそうだ。

前にビーチバレーについて述べたことがあるが、元日本代表の女性が、あの競技では、

「水着が小さい方が強そうに見える、という共通認識がある」

と語ったことがある。

ただ「強そうに見える」水着を好んで着用することと、試合中にカメラの焦点をお尻に合わせた上でシャッター音が響いてくるというのは、まったく別問題だ。

高校野球のチアもこれと似たところがあるので、彼女たちのスカートが短いのは、動きやすいし可愛く見える、という共通認識が、まず間違いなくあるのだろう。

だからと言って野球の試合に背を向けてスカートの中をカメラで狙われたのでは、本当にたまったものではない。

そもそも論から言えば、野球の試合に背を向けてチアのスカートの中を撮影しようとするような手合いは、球場に来る資格がないと思う。どう考えても観客ではないのだから。

地元の代表あるいは贔屓チームを鳴り物入りで応援したくなるのも、どうせ応援するなら可愛い衣装で人前に出たいと考えるのも、ごく当然の心理ではある。

ただ、どこまで行っても良識に反する行為は許されないのであって、

「若い女の子が短いスカートで闊歩するから、性犯罪が減らない」

などという論理が許容されないのと同様に、

「写真を散られるのが嫌なら、短いスカートで踊るべきではない」

という理屈も成り立たない。

彼女たちのチアリーディングはあくまでもスポーツの応援で、パンツ見せ集団の興業ではないのである。

トップ写真:アジアプロ野球チャンピオンシップのオーストラリア対日本戦(2023年11月18日東京ドーム)出典:Gene Wang/Getty Images




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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