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陸自の兵器開発は半世紀遅れ その1

清谷信一(軍事ジャーナリスト) 

陸上自衛隊幕僚監部の装備部は20世紀に廃れた時代遅れの兵器、小銃擲弾をわざわざ21世紀になって開発、調達している。

陸自は普通科(歩兵)の手榴弾と81ミリ迫撃砲のギャップを埋める物として18年度末から06式てき(擲)弾、いわゆるライフル・グレネードの部隊配備を開始した。これは、98年度から05年度にかけて防衛省技術研究本部(技本)、ダイキン工業、陸自によって開発されたもので、開発費用は9億円である。生産の主契約社はダイキン工業である。

06式てき弾は全長270ミリ、重量570グラムで、小銃の先端に装着し発射する。通常のライフル・グレネードは射撃時に空砲を使用するタイプが多いが、06式の発射方式は空砲ではなく実弾を使うブレット・トラップ方式である。またライフル・グレネードとしては世界で初めて分離飛翔方式を採用している。このため、発射に際して後方に破片が飛びちらない。直径及び有効射程は公表されていない。

自衛隊が使用している旧式の7.62ミリの64式小銃、および5.56ミリの89式小銃両方で使用が可能となっている。弾頭は対人・対軽装甲用と練習弾の二種類がある。

陸自は世界の小銃てき弾では世界で初めて分離飛翔方式を採用したと自画自賛しているが、鉄道車輛メーカーが21世紀になって最新式の蒸気機関車を開発しました、と胸を張るようなものである。陸自にはそれがどのように珍奇なことなのか自覚がない。

ライフル・グレネードは第2次大戦頃に各国で開発され戦後も使用されてきたが、携行型のグレネード・ランチャーが台頭するに従って姿を消し始めてきた。1980年ごろまでには歩兵用の兵器としては旧式化しており、これを21世紀になってわざわざ開発して装備までした奇特な軍隊は他に存在しない。

現在西側では主流になっている歩兵用のグレネード・ランチャーは弾頭の直径が40ミリで、40×46ミリ擲弾と称されている。最初に40ミリの擲弾を導入したのは米軍である。ベトナム戦争で米軍は40ミリの据え置き型のグレネード・ランチャーを投入した。

開発を進めたのは陸軍ではなく、実は海軍である。河川の警備艇を沿岸のジャングルから攻撃してくる敵を制圧する目的で、高初速の40×53ミリ弾を使用するオートマチックのMk19が開発された。最大射程は2000メートル、発射速度は毎分40発程度で、言わば機関銃化されたグレネード・ランチャーであり、極めて高い制圧能力を有していた。40×53ミリ弾はHE弾(榴弾)の場合約半径15メートルの殺傷範囲を有している。

これは後に陸軍でもヘリや車輛、あるいは拠点防御用にも使用されるようになった。海軍に触発された形で陸軍では歩兵用の携行型グレネード・ランチャーが開発された。こちらはより低初速である先述の40×46ミリを採用した。ランチャーとしてはスタンドアローンのM97グレネード・ランチャー、やM16小銃のハンドガード下に装着する、いわゆるアンダー・バレル方式のM203グレネード・ランチャーを採用した。最大有効射程は350メートルでHE弾(榴弾)の場合半径5メートルの殺傷範囲を有している。40×53ミリ弾と40×46ミリ弾に互換性はない。

携行型のグレネード・ランチャーは手榴弾と迫撃砲のギャップを埋めるための兵器であり、小隊あるいは分隊レベルの小部隊の歩兵部隊、あるいは偵察部隊や特殊部隊に大きな火力を与えることなった。また従来の小銃から発射するライフル・グレネードに比べて取り扱いが容易である利点があった。

その後各国でこの規格の弾薬が採用されて、特に90年代から西側のデファクト・スタンダードとなった。対して旧ソ連では30×29ミリ弾を発射するSGS-17のようなオートマチック・グレネード・ランチャーやアンダー・バレル式のランチャーが採用された。

だが、ソ連崩壊後は西側の規格が優勢となった。これはチェコ、ハンガリーなど東側の旧ワルシャワ条約加盟国がNATOに加盟したこともあり、NATOに準拠した規格を採用したこと、世界の兵器マーケットが統合されたことなどの理由が挙げられる。中国はロシアのコピーの30ミリ弾、独自の35ミリ弾と、NATOに準拠した40ミリ弾を使用するグレネード・ランチャーをそれぞれ開発している。

陸自の兵器開発は半世紀遅れ その2に続く。全2回)

*写真1:L-86A2とグレネードランチャー©清谷信一

*写真2:06式てき弾©提供防衛省