"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

陸自の兵器開発は半世紀遅れ その2

清谷信一(軍事ジャーナリスト) 

現在の歩兵部隊で使用されているグレネード・ランチャーは、小銃など下部に装着することが多いが、モジュラー化されており、これに銃床を装備してスタンドアローンのランチャーとして使用する場合も多い。また南アフリカで開発された6連発のリボルバー式のランチャーや箱型弾倉を有するランチャーも使用されている。

近年では40×46ミリ弾より強力な中初速のグレネードが各国で開発されている。その最大射程は600~800メートル程度である。中初速弾にはもう一つメリットがある。初速が増すことによって低進弾道性がよくなり、弾道がより直線的になるし、風の影響を受けにくくなるので直接照準時の命中精度が向上することにある。

06式のような小銃てき弾を上記のようなグレネード・ランチャーを比較すると、その優劣は歴然としている。ライフル・グレネードは40ミリ弾に比べて重くかさばるので、射手は多くの弾薬を携行できない。また連続射撃に際してはいちいち銃口に装着するという作業が必要であり、連続した射撃による制圧ができない。

多数の弾薬を携行できないということは使用弾薬も限られる。グレネード・ランチャーでは、攻撃用の弾頭に加えて、発煙弾、照明弾などの多様な弾薬の使用が可能である。このため部隊の柔軟な運用に寄与できる。つまり煙幕を張って撤退したり、夜間の戦闘に際しては照明弾を上げて味方を支援したりできる。

更に催涙弾、ゴム弾などの非致死性、低致死性弾の使用が可能であり、これらはPKOや暴徒鎮圧などに有用である。また近年ではプログラム式の電子信管と火器管制装置を組み合わせて、正確に敵の上空で爆発して多くの敵を殺傷できる空中炸裂機能を有した弾種や、弾頭の先端にビデオカメラを装備し、射出後に落下傘で降下しながら偵察を行うための偵察用弾まで開発されている。これらの用途の複数の種類のライフル・グレネードを携行することは不可能だし、そもそも06式にはそのような弾種は存在しない。

小銃擲弾は実際に撃ってみるとわかるのだが、グレネード・ランチャーに比べて正確な射撃が行いにくい。ライフル・グレネードは放物線を描いて着弾するので、小銃の照準器ではなく、簡単なタンジェントサイトを利用するのだがその精度が低いためだ。小銃の銃床を地面に固定して撃つ場合もある。このため特に動いている装甲車輛などを狙うのは至難の業だ。また市街戦でも使いづらい。我が国ように人口密度が多い国では副次被害も発生しやすい。更に申せば、小銃てき弾は仕組みが複雑であり、調達単価が高い。事実陸自では06式てき弾の調達は遅々として進まず、多くの隊員が見たことも触ったこともない一種の「都市伝説」のようになっている。つまり06式てき弾は普通科部隊の火力増大に殆ど役に立っていないどころか、お荷物でしかない。

陸幕装備部はまったく諸外国の火器の動静に無頓着だったのだろう。装備と運用思想が70年代ぐらいで止まっているとしか言いようがない。思考が朝鮮戦争、よくてベトナム戦争で停止している。

時代遅れの06式てき弾を導入した理由は推測するしかないが、陸自内部の何らかの政治的な理由、40ミリグレネード・ランチャーを導入すると外国製品と競合するので、国産にするためにあえてライフル・グレネードにした、グレネード・ランチャーを調達するのと比べて「弾」だけだと見かけ上のコストが安く抑えられる、などの理由が考えられるが、まともな軍隊ではこのようなどんな理由をつけようとも、このような旧式兵器の採用は周囲から批判されて実現しなかっただろう。対して人民解放軍ですら携行用グレネード・ランチャーを採用している。因みに陸自は無人機や精密誘導砲弾の実用化でも人民解放軍に大きく遅れをとっている。

陸自は実際に戦争をする気がないのでは、とすら思える。だから外敵の来ない演習場で、それらしく使えるであろう06式てき弾を導入したのだろう。だが、このようなガラパゴス化した装備を有した火力の低い部隊が外国の軍隊と戦えば、大きな被害を被るのは明らかだ。

こうした装備の採用は隊員の命を危険に晒すだけではなく、納税者に対しても極めて不誠実である。仮想敵国を有利にしようとする工作であるとすら思える。陸自幕僚監部は当事者能力と当事者意識が決定的に欠けている。こんな組織が海外で「駆けつけ警護」などの戦闘行為をまともに行えるかどうか極めて疑問である。

このような装備を平気で調達する「軍隊」の他の装備、例えば10式戦車や機動戦闘車などの装備の実用性も疑われて然るべきだし、また島嶼防衛のリアリティも同様に疑われて然るべし、である。

陸自の兵器開発は半世紀遅れ その1の続き。全2回)

*トップ写真:南アリッペルエフェクト社の6連リボルバー式グレネードランチャー©清谷信一