"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

ワシントンD.C.の人々“悲喜こもごも”

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(11月21日-11月27日)」

米大統領選挙から二週間、現在ワシントンでは一体何が起きているのか。過去の常識は非常識となり、外国人が知らない人々が俄然注目され始めた。権力とはかくも儚いものなのか。首都ワシントンではこれから外交安保系シンクタンク人材の供給過剰が起こるだろう。ポストの数には限りがあるからだ。

まず、オバマ系の「都落ち」組が帰って来る。一方、共和党系専門家の多くはトランプ政権には入れない。トランプを思いっ切りこき下ろした書簡に署名してしまったからだ。だが、最も哀れなのは自称「ヒラリー側近」たち。4年前、ヒラリーと共に政権を去った彼らは彼女の大統領選勝利を確信していた。

4年前よりも上位のポストという彼らの夢はトランプ勝利で脆くも消えてしまった。つい最近まで「どのポストにしようか」などと皮算用していたヒラリー派の連中は雲散霧消するのか。日本にやってきては「ヒラリー勝利は確実」などと宣伝し、猟官運動まがいの動きをした人々もいた。こうなると哀れだ。

 

〇欧州・ロシア

APEC首脳会議で日露首脳会談が行われたことは既に報じられている。それにしても、日本のメディアは発想が面白い。トランプがプーチンを持ち上げただけで、「米露接近」の可能性大となり、それが日露交渉に与える影響を真剣に論じている。筆者には、なぜ米露関係改善が既定事実のように報じられるのか、どうしても分からない。

〇東アジア・大洋州

韓国大統領が窮地に陥っている。それにしても、韓国の人々はなぜ大統領をそんなに邪険に扱うのか。仮にも一国の元首であり、国民の象徴でもある人物を彼らはいとも簡単に葬り去る。大統領も大統領だが、彼女を選んだのも国民ではなかったのか。こんな極端に振れる政治が続く限り、韓国民主主義の成熟はまだまだ先のようだ。

一方、報道ではGSOMIA(General Security of Military Information Agreement:軍事情報保護協定)が今週中にも署名されるそうだ。22日の閣議で大統領が認めればという話だが、それが実現すれば韓国の国益にも適うのだが。今後の大統領の去就については諸説ある。早期辞任、特別検察官の捜査、大統領弾劾手続きなど、今も星雲状態だ。韓国政治の安定を祈るしかない。

〇中東・アフリカ

26日にイラクの人民動員部隊(PMF :People’s  Mobilization Forces)に不訴追特権を含む法的地位を付与する法案がイラク国民議会で審議される。これだけでピンとくるのは相当のイラク通だ。PMFはイラクシーア派宗教指導者シスターニ師が設立を呼び掛けたシーア派を主体とするミリシアグループのことだ。

この私的な軍事グループはイスラム国掃討作戦のために作られたものだが、それが事実上、正規軍と同等の免責特権を持つ戦闘部隊として認められるという。今彼らの主力は北部スンニー地域でモスール奪還作戦を戦っている。彼らの組織としての戦闘行為が「殺人」ではなく、「合法的活動」となるのだ。

この影響は計り知れない。現在モスール奪還作戦に従事するのは、正規軍以外では、シーア派系のミリシア(すなわちPMF)とペシュメルガ(クルドの武装組織)であるが、PMFが合法化されれば、彼らはモスールで何をやっても訴追されなくなる。これは既に十分複雑なモスール情勢を更に混乱させる。とんでもないことが起きそうだ。

〇南北アメリカ

今週トランプ政権の次期国防長官、国務長官候補者の名前が浮上し始めた。報道が正しければ、前者は海兵隊大将の中東での歴戦の勇士、後者は4年前の共和党大統領候補だそうだ。事実であれば、トランプ次期大統領はNSC補佐官と国防長官に「イスラム過激派」に厳しい退役軍人を起用するということらしい。大丈夫なのか?

昔ならともかく、最近ではあまり聞かない話だ。元大統領候補の国務長官就任は共和党の党内融和のためだろう。だが、あれほどトランプを批判した前候補が本当にポストを受けるだろうか。受けなければ党は更に混乱するが、仮に受けても、この国務長官は大統領のインナーサークルには入れない「お飾り」長官となる恐れがある。

〇インド亜大陸

27日にパキスタン軍の次期総参謀長が決まるらしい。前任者が辞任に追い込まれた結果らしいが、パキスタンはまだまだ安定には程遠いようだ。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。