"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

対韓国強硬措置発動は逆効果

 宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2019#29」

 2019715-21

【まとめ】

・日本の友好国に対する厳しい措置とその長期戦略のなさ。

・韓国の伝統的な「バランス外交」には、強硬措置発動は逆効果。

・日本に必要なのは新たな戦略。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=46914でお読みください。】

 

今週は先週書けなかった問題を取り上げよう。日本が半導体製造に不可欠な化学物質3品目の対韓輸出管理体制を変更する方針を発表して早くも2週間が経った。先週韓国経済官庁の課長が二人訪日し、経産省で6時間近く「説明会」を行った。敢えて普通の(小汚い)会議室で、ご丁寧に「事務的説明会」という張り紙までしてあった。

これに対し、韓国では「日本側の場所の設定や基本的な応対で韓国に対する冷遇が強く感じられた」などと批判的に報じられた。あれだけ「あからさま」にやれば一目瞭然だろう。日本側担当者たちが意図的にああせざるを得ないのは理解する。それにしても、申し訳ないが、外交的には稚拙だ。筆者ならもっと「慇懃無礼」にやるだろう。

この問題については今週のJapanTimesに英文のコラムを書いた。日本語版はないので、ここで簡単に内容をご紹介する。全体の詳細は水曜日掲載の英語版をご一読願いたいが、要は、精緻に組み立てられたWTO協定と整合性のある貿易措置を発動するのは良いが、最大の問題はその目的と実現可能性だということだろう。

先ほど、今回の一連の動きは「外交的に稚拙」と書いたが、その意味は「ジャケットとネクタイがなかった」「会議室が汚かった」「お茶も出なかった」「名札もなかった」などといった形式的理由ではない。これだけのことをする以上、その最終目的が明確であり、それに至る流れについても事前に十分検討していたかどうかが気になるのだ。

日本が緊密な関係にある友好国に対して今回ほど厳しい措置をとるのは恐らく第二次大戦後初めてではないか。あまりに長い間「平和国家」を自任し強硬措置を自制してきたからか、どうやら日本は効果的な「喧嘩」の仕方を忘れてしまったのではないか。それが筆者の率直な印象である。一言で言えば、長期的戦略がないのだ。

そもそも、経済的圧力はあまり効果がない。そのことは今の米イラン関係を見ていれば一目瞭然である。昔なら、こうした措置を発動する可能性を示唆するだけで効果があったかもしれないが、今の韓国への強硬措置発動は逆効果となる可能性の方が高いだろう。その最大の理由はこの10年間で韓国外交が変わりつつあるからだ。

写真)文大統領
出典)Flickr; Republic of Korea

 

これまで何度も書いてきたことだが、中国の台頭と北朝鮮の核武装化により、韓国は冷戦時代の事実上の韓米日三国同盟による「基軸外交」から、より新しく、かつ自主的と言えば聞こえは良いが、何のことはない伝統的な「バランス外交」に回帰しつつある。このような韓国との付き合い方には従来とは異なる新たな知恵が必要だ。

日本が韓国と同様の「場外乱闘」をやって我々は一体何を得るのか。韓国大統領が自己の非在来型外交政策を正当化するために最も必要なのは「強硬で頭の固い日本」だ。一昔前の米国のネオコン、イスラエルの超正統派とイランの革命防衛隊最強硬派は不思議な「共存関係」にあった。このままでは日韓関係もそうなるだろう。 

米国は真面目に仲介する気はないだろうし、仮に試みても今のトランプ政権には実現不可能だろう。米国自体のクレディビリティが低下している時に、米国ができることは限られる。韓国は米国頼みのワシントン詣を繰り返すだろうが、あまり効果は期待できない。今の日本に必要なのは戦略であり、ワシントン詣ではないはずだ。

先週末は三連休だったので(?)、今週は短め、このくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真)安倍首相、文大統領、ペンス副大統領
出典)VOA