"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

危機管理意識欠ける防衛大臣と記者クラブ

清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】

・岸大臣が記者クラブと三密・馴れ合いオフレコ取材を継続。

・自衛隊員のコロナ罹患続く中、危機管理意識が欠如。

・当局と癒着して危機管理を危うくする記者クラブの存在は問題。

 

最近トランプ大統領が新型コロナに罹患し、また陸上自衛隊の朝霞駐屯地でも約30名の集団罹患が起こっている。現場では対策に気をつかっているが、隊員のコロナ罹患は続いている。また自衛隊は医療関係者に防疫を指導したり、ダイヤモンド・プリンセス号に派遣されPCR検査などに協力してきたりもしている。

岸防衛大臣は依然自衛隊での罹患者の発生が続いていることに対して、新型コロナ対策を厳とせよと大臣通達を出している。

だが、その岸大臣に新型コロナ対策に関する危機管理意識と当事者意識が欠除している。防衛記者会(クラブ)と三密状態のオフレコ取材に応じているのだ。

▲写真 新型コロナウイルスの集団罹患が起きた陸上自衛隊朝霞駐屯地 出典:Ebiebi2 (パブリック・ドメイン)

防衛省の大臣定例記者会見は火曜日、金曜日に行われる。主催は防衛記者クラブである。従来会見は防衛省A棟10階の会見室で行われていたが、新型コロナ対策として、現在では11階の大会議室、第一省議室で、大臣や記者の間隔を大きくとった形で行われている。A棟入館時にはマスクの着用や手指消毒が求められている。

問題は会見後に大臣が廊下で、三密状態で「囲み」とか「ぶら下がり」とよばれる記者クラブのオフレコ取材に応じていることだ。大臣と記者との距離は1メートルもなく、記者は団子になって大臣を取り巻いている。9月29日の囲み取材では岸大臣はマスクすら着用していなかった。

これは河野太郎大臣の時代から続いている。筆者は報道室のスタッフに5回以上止めるように進言したが全く聞き入れられなかった。このため筆者は10月6日の定例記者会見で岸大臣にこの件を質問した。

 

Q: コロナ対策についてお尋ねします。先ほどトランプ大統領の話であるとか、朝霞で30人ぐらい罹患者が出たという話があったのですけれども、いつもこの会見の後に記者会の皆さんと囲み取材を受けてらっしゃるかと思うのですけれども、あれは先週の火曜日お見かけした限り、非常に「3密」で、大臣、マスクもされていなかったと。それで、そういう形で隊員に示しがつくのか。もしくは、大臣通達で厳しく言うといいますけれども、トップがこのような調子で、下の隊員に示しが本当につくのでしょうか。いかがでしょうか。

A: 今おっしゃったところですね。前回の記者会見の後ですか。

Q: 記者会見の後に囲み取材受けてらっしゃいますよね。オフレコの。大臣会見の後に恒例でやっていらっしゃるかと思うのですけれども、前の河野大臣の時からずっとやってらっしゃるんですね。コロナの問題が発生してから、ずっと「3密」状態で、大臣もそうですし、内局の事務方の方もそうですし、記者会皆様もそうですし、自分たちはコロナにかからないというような、トランプ大統領のようなお考えをお持ちなのでしょうか。もし、これでクラスターが発生したら、どなたがどのように責任を取られるのでしょうか。

A: 今おっしゃっているような状況というのはよく分かりませんが、いずれにいたしましても、私もコロナを広げることのないように、また、コロナに感染することのないように、細心の注意を払ってまいりたいと思います。

Q: よく分からないとおっしゃっていますけれども、すぐそこで、先週の火曜日もやってらしたじゃないですか。非常に緊密に集まって。そういうことでOKであれば、別に、大きな省議室でやってる感を出すために記者会見をする必要はなくて、10階の会見室で会見してもよろしいじゃないでしょうか。

A: ぶら下がりの内容については記者会にお尋ねいただければと思います。

Q: 内容じゃなくて、「3密」でぶら下がり取材を受けることがどうなのかと、それはコロナに罹患する可能性はないのかということを伺っているのですけれども。

A: 「3密」は可能な限り避けなければいけないと思っています。

Q: 今後はそういう形でのぶら下がりはやらないというふうに了解してよろしいですか。

A: やり方については記者会の皆さんとご相談をさせていただきたいと思います。

 

大臣会見の直後の記者クラブとの「囲み」はオフレコであり、内容が外にでない。また筆者のような外国メディアなどの非会員は参加できない。筆者には1階のエレベーターホールに出るまで報道室スタッフの監視がつく。

この「囲み」ではざっくばらんに大臣の話が聞けるせいか、記者クラブの記者は殆ど会見では突っ込んだ質問をせずに、当たり障りのない質問しかしない。会見はある意味八百長のプロレスや相撲と同じ馴れ合いなのだ。つまり「囲み」取材は大臣と記者クラブの馴れ合い、あるいは癒着の場であると言えよう。

それでも平時ならばまだ許せる。だが現在、防衛省は全省一丸となって新型コロナ対策を行っている。そして大臣通達でよりそれを徹底せよと大臣通達を出している。その大臣が、記者クラブと三密状態で記者クラブと馴れ合いの「囲み」取材を続けては職員や自衛官に示しがつくまい。先の朝霞での集団感染も迂闊だと大臣は批判できるのか。もし批判するならば「他人に厳しく。自分に甘く」あるいは「二重基準」だ。

自衛隊の各部隊、組織が大臣と同じ程度の認識でコロナ対策をしていたら確実に集団感染は拡大するだろう。このような大臣の振る舞いは部隊の士気を著しく落とし、モラルハザードを生む可能性が高い。

この三密状態の「囲み」取材が問題ないならば、会見をわざわざ大会議室に移して行う必要もないはずだ。見方によっては会見はコロナ対策やっています感を演出するだけの、「やらせ」ではないか。そうであれば納税者を欺く行為である。

これでは危機管理官庁である防衛省としては失格だ。これで戦争などの有事に対応できるのか。大臣、大臣官房、防衛記者クラブともに危機管理意識や当時者意識が根本的に欠如している。

あるいはそれまでして防衛省は防衛記者クラブとの馴れ合い状態を維持したいのだろうか。防衛記者クラブは、2018年末にフリーランスの記者の大臣会見参加を認めたが、その後防衛省はセキュリティ体制を確立できていないとして、1年9ヶ月以上も参加を拒否している。その間この問題に対する検討の経緯も公開していない。

筆者は何度も大臣会見でこの件について質したが、いつになったらフリーランスが参加できるかを、未だに明言していない。役所の仕事で「締切」が存在しない仕事は存在しない。仮にこの程度の仕事ができないならばそれは無能だろう。そこまで官僚が無能なはずはない。そうであれば防衛省は防衛記者クラブに忖度してフリーランスが会見に参加して質問することを封じるために、作業をしているふりを延々と続けているのではないだろうか。

また筆者はいぜん防衛記者クラブの問題を書いた。(『防衛記者クラブの「台所事情」何とも厳しい実態』

防衛記者クラブは各幕僚監部との記者懇談会用としてビール券を購入し、2017年度は34万4960円を計上している。取材対象である自衛隊に現金同様のビール券を渡しているのか、宴会を行ったのか、行ったのであればそれは課業中か課業外か。かつて官庁の裏金問題でビール券が注目されることがあった。ビール券やタクシー券が通貨として役所内で流通していたのだ。懇談会用としてビール券を計上しているのは金銭が絡んだ癒着ではないかと疑いを持たれても仕方ないだろう。

筆者は河野大臣の時代、この件を会見で河野大臣に質し、大臣は事務方に回答させるとしたが、その後半年以上回答がなかったので改めて質問したが防衛省から依然回答はない。この件は記者クラブにも取材を申し込んだが、当時の幹事社はクラブの総会にかけると回答したが、同様に8ヶ月以上返答はない。であれば、回答できないような癒着関係があるということなのではないだろうか。

防衛記者クラブは記者の代表を自認して大臣、事務次官、各幕僚長の会見は、防衛記者会(クラブ)が主催している。記者クラブは会見、レクチャー、取材ツアーなどの取材機会を一手に握っており、記者クラブ非加盟の媒体やフリーランスがそこに入ることを制限しているケースが多い。

だが記者クラブは任意団体で、町内会などと運営形態は実質的に同じと言っていい。報道の代表というのも自分たちが主張しているだけだ。彼らは取材機会を独占することで、防衛省の情報を握っているだけではない。記者クラブ以外の媒体や記者、国民の知る権利から防衛省を守る防波堤の役割も果たしている。

今回のように大臣、大臣官房と癒着して防衛省の危機管理を危うくする「自称報道の代表」の存在は民主国家として異様であり、許されるべきものではない。

トップ写真:記者会見に臨む岸防衛相(2020年10月5日 防衛省) 出典:防衛省 facebook