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[古森義久]【日本の謝罪外交は完全に失敗】~歴史問題で和解する気のない中韓~

古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)

「古森義久の内外透視」

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安倍晋三首相の戦後70年談話での謝罪表明を求める先導役の朝日新聞が8月9日付社説になんとも興味を惹かれる主張を展開していた。

「聞く者の心に響かなければ談話を出す意味がない」

なんと情緒的な主張だろうと驚嘆した。「心に響く」とはどんな意味なのか。談話が聞き手の「心に響く」かどうかをだれがどう測るのか。そもそも誰の心のことなのか。「心に響く」という曖昧な表現では、歓迎もあるし、怒りも、反発も含まれるだろう。要するに一国の首相が内外に向けて出す談話のあり方の基準を決める際に「聞く者の心に響かなければ」などという主観的で、その実、粗雑な言葉の打ち上げはなんの意味も持ちえないのである。

朝日新聞の社説を書く人たちはこんな感情だけがぐしょぐしょの態度で日本の国のあり方にかかわる首相談話を律し、斬ろうというのだろうか。ただし朝日新聞の主張の結論はこの談話が「お詫び」などという表現での謝罪をはっきりと述べねばならないという点は明確だといえる。この点は中国と韓国の政府の主張とまったく同じである。謝罪を述べねば、中韓両国民の「心に響かない」というわけだ。ただし安倍首相がいくら謝罪を述べたとしても、「心に響かない」という反響がもうすでに用意されている感じもしてしまう。

アメリカのオバマ政権は安倍談話での謝罪表明は求めていない。公式の声明のどこをみても、日本の戦争行動への「反省」の表明くらいまでの期待は示唆しても、「謝罪」を求めるという言葉はどの政府高官も口にしていない。さらにアメリカ側の識者には日本は過去の戦争行動などへの謝罪はもう述べるべきではないと、明確に主張する声も存在する。オークランド大学の日本研究学者ジェーン・ヤマザキ教授は日本の謝罪を専門に研究し、2006年には「第二次大戦への日本の謝罪」という学術書にまとめて刊行した。

ヤマザキ教授は日本の謝罪は不毛であり、無意味だという結論を出し、これまでその趣旨の見解を何度も表明してきた。同教授は1965年の日韓国交正常化以降の日本の国家レベルでの謝罪の数々を列挙して、「主権国家がこれほどに過去の自国の行動を間違いや悪事だとして外国に対して謝ることは国際的にきわめて珍しい」と述べた。

そしてアメリカはじめ他の諸国が国家としての対外謝罪を拒む理由として(1)過去の行動への謝罪は国際的に自国の立場を低くし、自己卑下となる(2)国家謝罪は現在の自国民の自国への誇りを傷つける(3)国家謝罪はもはや自己を弁護できない自国の先祖と未来の世代の両方の評判を傷つける―という諸点をあげていた。

日本の謝罪についてはヤマザキ教授はその国家謝罪を外交手段とみるならば、完全に失敗だと断じるのだった。「日本は中国や韓国に何度も謝罪を表明してきたが、歴史に関する中韓両国との関係は改善されていない。国際的にも日本は十分に謝罪していない、とか、本当には反省していない、という指摘が多い」というのである。

ヤマザキ教授は日本の謝罪外交が成功するためのカギとして以下の点を強調していた。「謝罪が成功するには受け手にそれを受け入れる用意が不可欠だが、韓国や中国には受け入れの意思はなく、歴史問題で日本と和解する気がないといえる」アメリカ側にもこうした見解があることを知るべきだろう。

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