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補正予算が第2の防衛予算に~政権批判しない野党とメディア~

清谷信一(軍事ジャーナリスト)

先の東日本大震災以来、次年度の国家予算と、当年度の補正予算が一体化している。これは震災やリーマン・ショックで落ち込んだ需要を官費で刺激してGDPをふくらませるためのものだろう。だが、これでは本来の予算の総額が分からない。

夏の終わりに公表される次年度の概算要求は財務省と折衝して、政府案予算となる、だが概算要求より大抵は減額される。その段階で落とされたものが、当年度の補正予算で要求されているのだ。これは本来の補正予算の使い方から逸脱している。

本来政府予算における補正予算とは、当初予算(本予算)成立後に発生した事由によって、当初予算通りの執行が困難になった時に、追加的に組まれる予算である。なお、財政法第29条で以下の場合に補正予算を編成できると規定されている。

 

1. 法律上又は契約上国の義務に属する経費の不足を補うほか、予算作成後に生じた事由に基づき特に緊要となった経費の支出(当該年度において国庫内の移換えにとどまるものを含む。)又は債務の負担を行うため必要な予算の追加を行う場合。

2. 予算作成後に生じた事由に基づいて、予算に追加以外の変更を加える場合。

 

補正予算は英語では、supplementary budgetだ。つまり追加の予算というわけで、この方が補正予算の性格をよく表している。

安倍政権は自ら掲げたGDP600兆円へ向けて、補正予算の本来のあり方を歪めている。GDPを膨らせるために、政府予算の相当分を本年度の補正予算に押しこむことで予算額を小さく見せかけ、財政によるバラマキのために補正予算を利用しているのだ。

防衛費を例に取ろう。先に成立した防衛の補正予算では以下の様な「お買い物」が要求されていた。

 

・航空機(OP-3C・EP-3)搭載電子機器部品等の調達等

・情報収集体制の整備

・その他、「テロ対応のための経費として41億円(戦闘装着セット、個人用装備品等の調達)を含む」

・CH-47JA、UH-60JA、UH-60Jの整備

・救難飛行艇(US-2)[1機] の調達

・軽装甲機動車[38両]、NBC偵察車[1両]、96式装輪装甲車[8両] の調達

・厚木飛行場から岩国飛行場への空母艦載機の移駐に伴う施設整備

・キャンプ瑞慶覧(西普天間住宅地区)の返還に伴う物件撤去等

・嘉手納飛行場における海軍駐機場の移転に伴う施設整備

 

これらの多くは概算要求で要求され、政府予算では落とされたものだ。だが本来の補正予算で許されているのは例えば原油が高騰したり、為替が大幅に変動して燃料費が高騰したり、当初予定した燃料費では賄えない場合とか、東南アジアで大災害が発生、派遣された自衛官の手当を含むその救援に使用した費用などが発生した場合など、予測できなかった費用を賄うものである。また先の東日本大震災では空自の松島基地でF-2戦闘機や多数の機材が被災によって失われたが、これらの場合に使用されるものだ。

だが現状は補正予算が実質的に第二の防衛予算となっている。補正予算での「買い物」は国会では「防衛予算」として審議されない。詳しくは筆者の以下記事を参照されたい。

防衛補正予算1966億円の買い物リストを検証

本年度の補正予算1966億円中、本来の意味での補正予算と認められるのは544億円だ。つまり防衛費の補正予算の本来の意味での補正予算は38%に過ぎない。残る62パーセント、1422億円は本来、来年度の防衛省予算の本予算で要求するべきものだ。この1422億円を来年度の政府案の防衛費と合わせるなら、来年度の防衛予算は5兆0400億円ではなく、2パーセント増えて、約5兆1800億円となる。

人件費・糧食費は予算の防衛費の約4割以上だ。更に燃料費や米軍への費用負担なども必要だ。これらの費用は大きく変えられない。これらの費用を除いた予算、特に装備調達費の総額からすれば、この約1400億円はかなり大きなパーセンテージの金額といえる。しかも、補正予算で調達される「買い物」から輸入品が排除され、ほとんどが国産品である。これは露骨なバラマキだ。

防衛省の本予算では、ティルトローター機オスプレイ、大型無人偵察機グローバルホーク、水陸両用装甲車AAV7など米国製兵器が気前よく買われている。これらは実は殆どまともにその必要性や運用が検討されていない。しかも今後の維持費が極めて高く、毎年の固定費用となって防衛費を圧迫することになるが、それも殆ど考慮されていない。

当然ながらこれらの装備の調達で多くの防衛予算が使用されている。その分国内からの調達は減らされている。本予算で国内調達が削られた分を、補正予算で補填しているように見られる。つまりは国内産業向けのバラマキとなっている。カローラに乗っていたサラリーマンが見えを張ってBMWの7シリーズを購入したので家計が足りず、親からカネを借りたり、サラ金でカネを借りて家賃やら子供の給食費を払ったりするようなものだ。こんなことで国家予算の規律が守れるのだろうか。また補正予算と、本予算を別途審議してまともな予算精査が可能なのだろうか。

この防衛予算のありようを国家予算全体に当てはめてみよう。先に成立した補正予算は総額3兆3213億円だ。これの本来の意味での補正予算の比率が防衛と同じであると過程するならば、本来の意味での補正予算は1兆2620億円に過ぎない。残りの2兆592億円は本来来年度の予算に組み込むべき金額となる。

来年度の政府予算は過去最大の96兆7218億円だが、この2兆592億円がオンされれば、実質的な来年度国家予算は約2パーセント増えて98兆7810億円となる。つまり、殆ど100兆円に近くなる。しかもこれまた人件費や国債利払いなどの固定費を除けば、そのパーセンテージは更に大きくなる。

ところが約2兆600億円という巨額の税金の使い道が、国会でまともに審議されているとは言いがたい。政策は最終的に予算に反映される。政策を具現化したものが予算とも言える。誤った予算の総額を元に論戦をしても意味がない。

本来あるはずの2兆600億円が事実上無いものとされ、第二の予算と化してGDPの嵩上げのバラマキに使われている。だが既に歴史が証明しているように公共事業など税金のバラマキは乗数効果が低く、民間の需要を拡大する呼び水になることはない。単に国の借金を増やすだけだ。現在の1,000兆円を超える巨額の国の借金はそのようなバラマキによって拡大されてきた。今年も補正予算の名を借りて2兆円以上のバラマキが行われ、国の借金をふやすことになるだろう。これは極めて悪質な印象操作である。

ところが不思議なことに、この「補正予算の第二予算化」を国会議員も新聞などのメディアも全く問題にしていない。補正予算を精査すれば、本来本予算で要求すべき予算の比率はもっと高いかもしれない。そうであれば来年度の国家予算は100兆円の大台を超えている可能性もでてくる。そうであれば、メディアで大きく取り上げられて、政府の財政規律やプライマリーバラスの適正化のへの姿勢が大きく批判される可能性もでてくるだろう。

当事者能力が足りないのか、あるいは「低減税率の対象にしてもらった恩義」があるためか、新聞は政府の「不都合な真実」について書かなくなっているではないか。このようないい加減な税金の使い方に対して納税者はもっと敏感になるべきだ。このような事実を報道しない新聞は読者の信用を更に失って読者数を更に減らしていくだろう。

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