[清谷信一]C-2輸送機の開発遅延は人災①〜震災の補正予算で発注された輸送機の調達単価200億円は当初計画100億円の2倍!杜撰な計画で最大積載量も低下
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
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1月17日、防衛省は、開発中の次期輸送機C2の地上試験機で「与圧試験中に機体の一部が壊れた」と発表した。C-2は現用のC-1輸送機の後継で、計画当初は平成11年度末に開発を終える予定だった。だが、以前にも機体の強度不足などが見つかり、すでに3年遅れている。今回の件でC-2の配備は更に1〜2年は遅れる可能性がある。
だが防衛省、航空自衛隊は発完了のみ込みも立っていないC-2に6機の量産機を発注しており、そのうち2機は震災の補正予算で発注されているのだ。そんな予算があれば被災者に援護にでも使うべきだった。このような防衛予算の使い方に憤りを感じるのは筆者だけではあるまい。
しかもC-2の最大ペイロード(最大積載量)は30トン(C-1の3倍)を予定していたが、機体の補強などのために26ドン程度まで低下しているとされている。今回のトラブルで起きたドアの補強などで更に重量が増加し、ペイロードが低下する恐れがある。
陸自が現在開発している「装輪戦車」、「機動戦闘車」は重量が26トンを予定しており、C-2での空輸を運用の前提にしているが、ペイロードが低下すれば「機動戦闘車」を空輸できなくなる可能性もある。
開発予算もCX、PXは二機種で3400億円とされていたが、CXだけでも2045億円まで高騰し、調達単価も175.6億円と当初の100億円、平成24年度のライフ・サイクル・コスト管理年次報告書の示す単価である126億円からみてもかなり高騰している。調達単価には265億円と見込まれているが、これには初度費(ラインの構築費やジグなどの調達費用)が含まれていない。調達機数は30機(一部報道では25機)とも言われているが、初度費を含めれば調達単価は200億円近くに膨らむ。
無論軍用機において試作機は勿論、量産機でも初期不良はよくあることだ。それ自体を非難するつもりは毛頭ない。だがC-2の場合は計画自体が杜撰であり、数々の不具合とそれにともなう計画の遅延、開発・調達コストの高騰は「人災」の側面が大きい。C-2はCX(次期輸送機)として、海自の現用哨戒機であるP-3Cの後継のPX(次期哨戒機、現P-1)と一緒に開発された。二機種を同時に開発すれば、共通部分部品も増え開発および調達コストが低減できる、とされていた。
だがこれは机上の空論に過ぎなかった。
まず、我が国の航空機設計者はそう多くない。当時CX、PXの他に海自の飛行艇US-2、ボーイングの777の開発が同時に行われており、とても十分に設計者が時間を取れる状態になかった。しかも、C-1輸送機開発以来我が国の航空産業は独自の中型、大型航空機の開発経験がなく、C-1の開発担当者もその多数が既に退職しており、ノウハウが無かった。これはボーイングやエアバス、ボンバルディア、エンブラエルなど旅客機メーカーと較べて大きなハンディを持っていることになる。
これらの事情を鑑みれば、C-X/P-Xの同時開発は完全に日本の航空産業界のキャパシティーを超えていた。設計が「やっつけ仕事」になり、不備があっても当然だろう。実際に両機とも構造強度の不足などが多々露呈し、開発が難航し、実用化が遅れている。
筆者は当時から同時開発には反対で、まずC-1のリプレイスが待ったなしのCXの開発を行い、次いで必要があればPXの開発を行うべきだと主張してきた。P-3Cは十分な機体寿命があり、それでも足りなければ延命化を施せば少額の負担ですむ。実際海自はP-1導入の遅れでP-3Cの延命化を行っているが、これは1機あたり5億円に過ぎない。またP-3Cは主翼を新造品に取り替えれば、期待寿命は新造機とほぼ同等にまで延びる。これはカナダの企業などで行っており、カナダ初め多数の国が利用している。
海自はP-3Cの機体寿命を1万5000時間でこのため新型哨戒機が必要と主張してきたが、これは米海軍よりも相当少ない。海自の主張はじめに新型哨戒機の調達ありきだったとしか思えない。部品の共通化というが、CX、PXは機体の規模もサイズも全く異なる航空機でこれも無理があった。公式発表では機体重量比で約15パーセント、搭載システム品目数で約75パーセントの共通装備部品を使用しているとされている。
だが油圧装置など当初共通化すると言われたた、コンポーネントはそれぞれ別途に開発されている。先述のように機体サイズや形状も大きく異なっており、共用化は無理があった。当然ながら各コンポーネントの開発費、開発時間は余分にかかることになる。当然生産効率も半分になる。
だが、防衛省はこのような「不都合な真実」に関する情報公開には熱心ではなく、現在の共用化のパーセンテージは公表されていない。 【②を読む】
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