"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

日産、三菱自を買収す その3

遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

3. 日産とは良縁だが、結婚生活には多大な痛みも

その経緯はさておき、日産と三菱自のコンビネーションはベストマッチである。日産の収益柱は北米と中国、欧州にも拠点があるが、中国以外のアジアは弱く、収益は赤字である。三菱自の利益頭は圧倒的にアジア・大洋州、特にタイ・インドネシア・オーストラリアが中心である。一方、北米は長期低落傾向で慢性的な赤字で昨年末にイリノイ工場を閉鎖、日本でも大手乗用車メーカー中、最下位のシェアである。電気自動車(EV・PHEV)では、その商品開発で最も積極的な2社と言ってもよかろう。

やはり“パジェロゲート事件”のコラムで説明したが、今回の不正問題で三菱自が受ける財務的なマイナス影響はまだ量的に把握がされていない。軽自動車のみならず、登録車でも不正をしていたということで、当面の国内販売台数は激減する恐れがある。型式認証を取り直し、販売が再開されたとしても、そのイメージダウンは大きく、国内販売の回復は不可能かもしれない。

元々世界で100万台の販売をしている三菱自にとって、国内販売は僅か10万台、これが無くなってもアジアが確実に利益を上げれば問題無い、という議論もある。その一方で、三菱車両保有者に対する燃料代の補償、中古車価格下落の補償、税金の補償、可能性だが買取請求された場合の対応、国内販社や部品会社に対する補償・援助、殆ど止まっている工場の固定費負担、国内販売激減による収入減、そして日産に対する補償金。全てを合計すれば、軽く1,000億円を超える、否、場合によってはそれ以上のマイナス影響が出るものと推計される。

三菱自の昨年度決算は純利益で890億円と、前々期比24%減益。今期の業績予想は今回の不正で合理的根拠が立てられないということで、未だ出していない。ただ、為替が昨年比では大幅な円高に転じていること、人件費・開発費といった固定費が上昇していること、アメリカの工場閉鎖の影響が残ること、などを考えると、この不正問題が出る前から、2桁減益は予想されていた。そこに上記の不正による減益要因が重なれば、今期決算は赤字に転落すると容易に想像できよう。日産にとって、三菱自は持分適用会社となり、営業外損益に反映される。そこが大幅な赤字では、日産も困る訳である。

ゴーン社長はあらゆる援助を惜しまないと表明している。ただ、三菱自が率先して自社で立て直しを図ることを期待しているとも言っている。三菱自の経営陣、役員11人のうち会長を含め4人が日産出資となる。この役員陣以外にも、ルノーが日産にしたように、多くの管理職が日産から三菱自に贈られる。そして彼ら日産出身者が中心になって、三菱自の収益を立て直す青写真が既に着々と進んでいると考えるのは自然の流れである。

それもなるべく短期間で出血を止めなければならない短期計画と、お互いの補完・共同開発・共同購買などを中心とした中・長期計画の両建立てでだろう。言わば前者は、“三菱自リバイバルプランby日産(MRP by Nissan)”であり、後者は、“Power 88 w/Mitsubishi”とでも言おうか。(筆者注:Power 88とは現在進行中の日産の中期経営計画。2018年までに世界シェア8%、営業利益率8%を目指すというもの)。問題はこの前者が、非常に厳しいものになる可能性が高いということである。

その4に続く。その1その2も合わせてお読み下さい。全5話)