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経済  投稿日:2016/5/1

三菱自「パジェロゲート事件」5つの違和感 その2

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遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

【違和感① 燃費

カタログ燃費と実際の燃費に大きな差があるのは誰でも知っている。面白いのは、日本自動車工業会がわざわざ26ページにも渡る解説書を作成、カタログ燃費と実際の燃費には3割程度の開きがあると明言している点だ。

工業会によれば、カタログ燃費(現在はJC08モード、以前は10/15モード)はある一定の条件下・走行パターンに沿って、室内で車を固定して計測するので、実際に外で様々な異なった条件下で走れば、燃費は違ってくる、というもの。またエアコンやライト、オーデイオなどは全て使用しないベースで計測し、ドライバーの上手・下手が差の半分を占める、そして、“カタログ燃費が良い車ほど、実走行燃費との差が大きい”と、はっきり明記している。

正直と言えば正直だが、それではそもそも、何故30%も違うモードや走行パターンで燃費を図って、それをわざわざカタログ燃費として公式に示すのか。何故、工業会はわざわざこのような説明書を作らなければならないのか。消費者からのクレーム対応、訴訟リスクの軽減であろうことは容易に想像がつく。

今回問題になった三菱自動車のeKワゴン、及び、日産デイズ。カタログ燃費はJC08モードで30Km/Lである。これに対する実測燃費は実際どうなのか。実測の燃費等を公表している“e燃費”というサイトがある。それによると、eKワゴンは16.85Km/L、日産デイズは16.7Km/Lとなっている。これをそのまま鵜呑みにすれば、カタログ燃費に対し、実際の燃費はeKワゴンもデイズも共に約56%ということになる。30%どころか、44%の差額となる。世間でいうところの“下駄を履いた”燃費である。

国交省も日本自動車工業会も、JC08モードという走行パターンで図った燃費と、実際の燃費の間に、“けたたましく”大きな差があることはご存知である。工業会の解説書に明記されている30%の差、ないしは、前出の“e燃費”による40%以上の差、どちらにしてもけたたましい“差額”で、下駄を履いている。

例えば米国ではどうか。新型プリウスの燃費であるが、日本では37.2Km/Lとなっているが、米国では22.8Km/L換算である。14Km以上違う。何故なら計測のモードが違うからである。スピードが違う、米国の方が高速で測定する、速度が高ければ空気抵抗が増えて燃費は悪くなる、それでは、プリウスの実燃費はどうかというと、前出の“e燃費”によれば、21.2Km/Lである。ほぼ米国のカタログ燃費と同じではないか。

つまり、実測の燃費は、日本ではカタログ燃費の57%であるのに対し、米国では93%ということになる。従来から米国の方が日本に比べて、圧倒的にカタログ燃費と実測燃費の差が小さいと言われている。何故かと言えば、その差が大きいと、本当に訴えられるからである。

今足元での新聞論調は、三菱自動車は組織ぐるみの隠ぺい体質、今回の法令違反で企業存亡の危機的な影響が出る、それも自業自得で倒産も仕方がない、云々といった向きが多いが果たしてそれで良いのか。

事の始まりは、国交省と日本自動車工業会が、30~40%の実燃費とカタログ燃費の差に気付いていながら、それを放置しており、カタログ燃費は下駄を履いた非現実的な燃費である。三菱自動車の場合も、このeKワゴンで、5-10%の燃費をごまかしているとされた。つまり、カタログ燃費30Km/Lは嘘で、本当は27Km/L程度だと。しかし本来の実測燃費は16.8Km/Lなのである(e燃費によれば)。

第3社機関が既に16.8Kmだと世間に公表している中、お役所やマスコミが、お前は不正を働いた、カタログの燃費を30Kmから27Kmに変えて皆に謝れ、いやそれでは済まなくて、経営陣は総退陣で会社存続の意義すらないのだ、と言われても、筆者には多大なる違和感が残るのである。

もう一度言う、筆者は三菱自動車をかばっているのではない、法令順守は当たり前の話である。ただ、今回の“パジェロゲート事件”、本当にこれは、従業員3万人、下請けを含めれば10万人とも言われる会社を、倒産に導くほどのことなのかと言われれば、はなはだ疑問が残るのである。

その1の続き。その3に続く。本シリーズ毎日07:00配信予定)

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この記事を書いた人
遠藤功治株式会社SBI証券  投資調査部 専任部長兼シニアリサーチフェロー

1984年に野村證券入社、以来、SGウォーバーグ、リーマンブラザーズ、シュローダー、クレディスイスと、欧米系の外資系投資銀行にて活躍、証券アナリスト歴は通算32年に上る。うち、約27年間が、自動車・自動車部品業界、3年間が電機・電子部品業界の業界・企業分析に携わる。 その間、日経アナリストランキングやInstitutional Investors ランキングでは、常に上位に位置2000年日経アナリストランキング自動車部門第1位)。その豊富な業界知識と語学力を生かし、金融業界のみならず、テレビや新聞・雑誌を中心に、数々のマスコミ・報道番組にも登場、主に自動車業界の現状分析につき、解説を披露している。また、“トップアナリストの業界分析”(日本経済新聞社、共著)など、出版本も多数。日系の主要な自動車会社・部品会社に招かれてのセミナーや勉強会等、講義の機会も多数に上る。最近では、日本経団連や外国特派員協会での講演(東京他)、国連・ILOでの講演(ジュネーブ)や、ダボス夏季会議での基調講演などがあり、海外の自動車・自動車部品メーカー、また、大学・研究機関・国連関係の知己も多い。2016年7月より、株式会社SBI証券に移籍、引き続き自動車・自動車部品関係を担当すると供に、新素材、自動運転(ADAS)、人口知能(AI)、ロボット分野のリサーチにも注力している。

東京出身、58歳

遠藤功治

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