"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

限界商店街を再生した立役者

出町譲(経済ジャーナリスト・作家、テレビ朝日報道局勤務)

「出町譲の現場発!ニッポン再興」

【まとめ】

・新潟市古町「上古町商店街」若い感性での店づくりで生まれ変わる。

・迫一成氏の仕掛けた活動実績は、96%の補助金へつながった。

・街づくりではなく、みんなで儲ける「攻め」の姿勢が商店街を変える。

 

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大型ショッピングセンターの進出の結果、シャッター街が生まれる。全国至る所で見られる光景である。これは一面の真実であるが、時代の流れとして諦めるべきなのか。いやそうではない。志があれば、事態は改善する。商店街自体が奮闘すれば、賑わいが再び戻ることもある。今回は、そんなケースを紹介したい。

新潟市の古町と言えば、北前船の寄港地として栄え、明治に入っても、日本海側で屈指の繁華街としてにぎわっていた。

しかし、大型ショッピングセンター進出で、古町は閑古鳥が鳴いた。2008年には4軒に1軒は空き店舗となり、中心街の百貨店も閉店となった。動いたのは、親子ほどの年の差がある2人のキーパーソンだった。

そこは、「上古町商店街」、通称「カミフル」と呼ばれる商店街だ。全長500メートルほどの長さで、現在は、110店舗ほどのうち、空き店舗は2店だけとなっている。次々にテナントが入る。佐世保バーガーで修業したという店主が営むハンバーガーショップ。行列ができるほどのチョコレート店。麹の専門店もある。器などを扱うショップもオープンした。30代、40代の若手が次々に店を出している。若い感性での店づくりは商店街に潤いを与える。コンビニやチェーン店は見当たらない。

旗振り役は迫一成。「ヒッコリースリートラベラーズ」という雑貨店を営み、上古町商店街振興組合の理事も務める。もともとは福岡県出身で、たまたま新潟大学に進学した。

卒業後は、就職せず、仲間と一緒に、Tシャツを製造販売していた。転機となったのは、2003年に空き店舗に出店したことだった。

▲写真 迫一成氏 出典:著者提供

ちょうどそのころ、老朽化したアーケードの付け替えが課題となっていた。住民らのアンケートでは、「明るいアーケードがほしい」という意見が多数を占めた。ただ、総事業費はおよそ7億円だ。

そこに登場するのは、「百貨さかい」を経営する酒井幸男だ。酒井ら商店主らは、アーケードかけ替えの補助金を獲得するため動いた。まちづくり推進協議会を立ち上げた。特筆すべきは、バラバラだった古町1番町から4番町をまとめたことだ。新たに、「上古町」が誕生した。

迫は、商店街の会合などに出席すると、いろいろアイディアが沸いてきた。「年配の人たちは町おこしといえば、祭りをやり、焼きそばやヨーヨーのお店を出せばいいという考え方でしたが、僕は『カミフル』という名称を売り出すため、情報発信が大切だと感じました」と振り返る。そして、「商店街のロゴは、誰に頼まれたものではなく、僕が勝手に作ったものです」。そのほか、地図を作ったり、ミニコミ誌を発行したり、イベントを開催したりした。酒井はいつしか、迫の後見役となった。旧態依然の商店主から反発があっても、「弾除け」を買ってくれたのだ。

▲写真 酒井幸男氏 出典:著者提供

結局、上古町商店街は、迫が仕掛けた活動実績などが評価され、最終的には96%国と市から補助を受けた。

そのアーケードの設計に関しては、色彩、照明、景観、街づくりの4人専門家にも協力を仰いだ。酒井は「雨露をしのぐだけではなく、歩行者のことを考え、滞在時間が伸びるようにした。また景観にも配慮した」と語る。

私自身、歩いてみて驚いた。歩道では、とにかく、人が優先されているのだ。車いすも十分通れる幅があり、ベンチもある。シールの貼ってある店舗では、トイレを借りることも可能だ。店舗の外ではなく、店舗内にトイレを設置すれば、お客さんは店に入ってくれるという。酒井は「たぶん迫くんが商店街に来なかったら、限界商店街を通り越して、存亡の危機だっただろう」と語る。

一方、迫は「ぼくは『街づくりをしよう』とあまり言いたくない。それよりは、『みんなで儲けましょう』という言葉が好きだ」と本音を語る。

全国至る所で、シャッター街が生まれている。商店主は、廃業しても、かつて儲けた時の預金や年金があり、十分生活していくことができるという話をよく聞く。ここ新潟でも、同じ現象が起きていた。しかし、それを覆したのは迫さんという「異分子」の存在である。そして、迫の「盾」となった酒井の男気である。

大型ショッピングセンターが進出しても、「受け身」の構えではシャッター通りとなるばかりである。「攻め」に転じることができるかどうか。商店街の度量が問われている。

トップ画面:新潟市古町「上古町商店街」 出典:著者提供