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.政治  投稿日:2024/3/6

「高岡発ニッポン再興」その138札幌市に学ぶ「スピード復興」


出町譲(高岡市議会議員・作家)

【まとめ】

・被災地復興に向けては、被災自治体から学ぶ必要がある。

・札幌市では地震発生から一週間後に住民説明会が開催された。

・高岡市も緊急性のない事業は先送りし、震災復興に全力で取り組むべきだ。

被災地復興に向けては、被災自治体から学ぶ必要があります。地震はどこで起きてもおかしくないのです。そこからの復興の歩みが大切なのです。高岡市も2月27日から液状化の深刻な伏木や吉久などで、始めましたが、もっと早くすべきですね。スピードこそが大切なのです。

「早く復旧したほうが、コミュニティーの維持につながる。早さにこだわった」というのは、札幌市建設局の職員の言葉です。北海道胆振東部地震(いぶりとうぶじしん)が2018年9月6日に起きました。里塚地区では震度5強の揺れに見舞われ、液状化で深刻な被害を受けました。140の住宅のうち、80戸以上で被害があったのです。

札幌市の秋元克広市長は即座に、清田区里塚地区を対象にした市街地復旧推進室を立ち上げました。道路や測量、建築の分野から人材を集結させ、早期復旧に向けた体制を整えたのです。東日本大震災や熊本地震で被災した自治体関係者に話を聞き、スピードを重視すべきだと判断したのです。

私がさらに驚いたのは、住民説明会開催の時期です。札幌市では、地震が起きてから1週間後の9月13日実施したのです。住民500人が参加して、行政サイドが、住民の生の声を聞きました。「住民からは、かなり厳しい声をいただきました。私たちは、説明できる材料もありません。ただ、住民の思いを聞くのに終始しました」(建設局職員)。市側は区長や局長、部長などが対応しました。

生活再建には、資金が欠かせません。国の被災者生活再建支援金だけでなく、市独自に支援制度も設けました。上限200万円の宅地復旧支援事業です。擁壁や家の傾きなどを直すのに、半分近くを支援する内容です。

そして、10月18日の第2回説明会では、秋元市長が出席。各種支援制度のほか、復旧の方針を提示しました。11月15日の第3回は副市長が参加。薬液注入を主とした地盤改良案を提示しました。12月19日の第4回は、秋元市長が再び参加し、適材適所の地盤改良案を提示しました。その上で、住民と協議、対策工事については、合意を得ました。

また、被災者がわざわざ役所に来ても、市役所内部の部局が多数あり、大きな負担になるのは避けられません。いわば“たらしまわし”です。そこで、現地に仮設の事務所をつくりました。各種支援制度の相談、申請、さらには、住宅再建の方法の相談や復旧工事などを「ワンストップ窓口」にしたのです。

地震発生から3カ月で、地域再生に向けてのロードマップが合意形成されました。その後、水道・工事、さらには、地盤改良工事などを実施し、2021年9月にすべての工事を完了しました。地震発生からちょうど3年です。

ハードとして、街を再生するのではなく、地域コニュニティーを再生するのにこだわったのです。総事業費は55億円。そのうち、国の補助事業は50億円です。

さて、高岡市です。被災者向けの説明会は2月27日の「伏木地区」を皮切りに4回行われました。説明会では、市長や部長らは出席しません。出席したのは、課長や次長です。権限がないだけに、踏み込んだ発言はできません。市は具体的な復旧計画を早急に立てたいとしていますが、住民の間では、「将来のメドがたたない」「何を目標にやっていけばいいのか」など、不満が出ました。

先行きが見えません。地域コミュニティー崩壊の危機は、すでに数字に表れています。高岡市では今年1月の転入者から転出者を引いた数字がマイナス71人となったのです。深刻な「社会減」の実態です。ちなみに去年1月はプラス70。私はこうした状況を踏まえると、緊急性のない事業は先送りし、震災復興に全力で取り組むべきだと考えています。

私は3月11日に議会で質問しますが、こうした思いを訴えるつもりです。

トップ写真:高岡市内で行われた被災者を対象にした住民説明会 2024年3月1日 出典:筆者提供




この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家

1964年富山県高岡市生まれ。

富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。


90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。


テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。


その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。


21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。

同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。

同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。

出町譲

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