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台湾を巡る米中戦争は必至か?

KEELUNG, TAIWAN - AUGUST 07: Navy personnel are seen on a Taiwanese Navy warship on August 07, 2022 in Keelung, Taiwan. Taiwan remained tense after Speaker of the U.S. House Of Representatives Nancy Pelosi visited earlier this week, as part of a tour of Asia aimed at reassuring allies in the region. China has been conducting live-fire drills in waters close to those claimed by Taiwan in response. (Photo by Annabelle Chih/Getty Images)

澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

 

【まとめ】

・ハーバード大教授、米国が台湾をめぐり中国と局地戦を戦えば、米大統領は敗北するか、より広範な戦争にエスカレートするか、との選択に直面するとの論考発表。

・中国ネットメディア、この論考は中国軍の実力、中国経済の停滞を考慮に入れていないと批判。

・「中台統一」が達成できない場合、今度はこの感情が逆襲し、中国共産党政権に打撃を与えるだろうと予測。

 

今年(2022年)8月2日、ナンシー・ペロシ米下院議長が台湾を訪問した。それが原因で、中国軍は台湾周辺で軍事演習を実施している。

ペロシ議長の訪台は、米民主党に近い主要メディアから鋭い批判にさらされた。しかし、米在住の中国研究者、何清漣は次のように指摘している(a)。

欧米メディアはペロシ訪台について、中国共産党を刺激し台湾に危機をもたらすので、ダメだと言っている。これは半分真実だが、もしペロシ議長が台湾を訪問しなければ、北京は台湾を放置するのだろうか。無論、そんなことはない。ただ、(台湾侵攻の)ペースが遅くなるだけである。このように何清漣は喝破した。

依然、台湾海峡が不安定な中、米議会議員5人が台湾を訪問(b)している。台湾政府関係者は民主党上院議員、エド・マーキー(マサチューセッツ州選出)率いる超党派代表団を歓迎した。そして、同関係者らは、北京との緊張が高まっている中での議員団訪台に感謝の意を示した。

今度の米議員団訪台は、米国が中国軍の出方を読み切っている(第20回党大会前、習近平政権は動かない)観がある。そうでなければ、北京を刺激するような、度重なる米議員団の訪台は考えにくい。

写真)インド太平洋地域を訪れた議会代表団と共に議会で会見するナンシー・ペロシ下院議長 2022年8月10日 米国・ワシントンDC

出典)Photo by Anna Moneymaker/Getty Images

さて、「ツキディデスの罠」で有名なハーバード大学教授、グレアム・アリソンが、8月5日付『ナショナル・インタレスト』台湾、ツキディデス、米中戦争」という論考(c)を発表した。

まず、アリソンの言う「ツキディデスの罠」とは、『デジタル大辞泉』によれば、「新興勢力が台頭し、既存勢力の不安が増大すると、しばしば戦争が起こる」という意味である。

アリソンは、次のように指摘した。

歴史という大きなキャンバスの中で、急浮上する権力が現勢力を脅かす場合、その競争は、たいてい戦争で終わる。過去500年の間に、このようなツキディデスの対立が16例あった。そのうち12件は戦争に発展している。

どのケースでも、戦争の近因として、事故、錯誤、(不可避な選択による)意図しない結果などが挙げられる。

今日の台湾をめぐる米中対決に関しては、3つの冷徹な事実がある。

第1に、習主席だけでなく、中国指導部と国民全体は、台湾が独立国家になるのを明確に阻止しようとしている。もし、「台湾独立」を受け入れるか、中台戦争かの選択を迫られたら、習主席たちは後者を選ぶだろう。

第2に、現在、ウィンストン・チャーチルの言う内政の「致命的流れ」が、米中両国で猛威を振っている。とりわけ、米国の共和党と民主党の政治家たちは、中国に対して他の誰よりも強硬になり得るかを示すために奔走している。

第3に、多くの米国政治家は未だ認識していないが、前回の台湾危機(1995年~96年)から四半世紀経ち、台湾海峡の軍事バランスは一変した。米国は台湾をめぐる戦争に負ける可能性がある。

仮に、米国が台湾をめぐり局地戦を戦うことになれば、米大統領は敗北するか、米国が優位に立つため、より広範な戦争にエスカレートするかという選択に直面することになるだろう。

以上が、論考の骨子である。

早速、アリソンに対する反論が現れた。8月14日、『中国瞭望』に掲載された「米中はいずれ戦わなければならないのか?」(d)である。

同論文は、次のように反駁した。

第1に、米中央情報局(CIA)が中国軍の「台湾侵攻」時期を2037年以降としている理由は、今から15年後、ようやく中国軍が台湾へ上陸できる実力を持つようになるからである。

過去に中国軍が海峡をまたぐ戦争をしたことはないし、実際、軍が台湾に上陸しなければ、中国が台湾を占領した事にならないだろう。

第2に、アリソンの理論的問題は、貿易戦争等で中国経済が停滞しているのを予測していない点にある。今のように中国の不動産、金融、失業、流動資金に問題が生じれば、共産党政権が崩壊するかもしれない。

第3に、ナショナリズムは“両刃の剣”である。

中国共産党は、長い間、愛国心を利用して人々を扇動している。もし、「中台統一」が達成できない場合、今度はこの感情が逆襲し、中国共産党政権に打撃を与えるだろう。

その時、例えば、台湾を恫喝するなどして、国内の未熟な共産主義者(「ピンクちゃん」)のため(軍事演習等の)“ドラマ”を演じる必要がある。そうしなければ、国内の不満を和らげることはできない。

至極、真っ当な反論である。

〔注〕

(a)『中国瞭望』

「何清漣:米軍、台湾に『ヤマアラシ戦略』を仕立てる」

(2022年8月11日付)

(https://news.creaders.net/us/2022/08/11/2514130.html)。

(b)『ニューヨーク・タイムズ(中文網)』

「ペロシ議長に続き、5人の米連邦議会議員が台湾を訪問」

(2022年8月15日付)

(https://cn.nytimes.com/asia-pacific/20220815/taiwan-congressional-delegation-visit/)。

(c)

(https://nationalinterest.org/feature/taiwan-thucydides-and-us-china-war-204060)。今週、民主党の外交委員長であるロバート・メネンデス上院議員と共和党の国防問題リーダーであるリンゼー・グラハム上院議員は、台湾を「非NATO主要同盟国」に指定し、45億米ドル(約6030億円)の軍事援助を約束する「台湾政策法案」を提出した。

(d)(https://news.creaders.net/us/2022/08/14/2514962.html)。

 

トップ写真:台湾の基隆市にて海軍軍艦が停留。

出典:Photo by Annabelle Chih/Getty Images