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.国際  投稿日:2022/8/16

習主席のジレンマを鋭く指摘した中国系ブロガー


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・中国系ブロガー「施化」が中国共産党の不完全な習家党化について論考を公開した。

・ペロシ訪台の前後で習氏の態度は一変し、習氏の再選論に反していた。

・対外ソフト路線、ゼロコロナ政策軟化からわかるように、習氏の10年に及ぶ工作もむなしく、中国共産党は統合されていない。

 

今年(2022年) 8月12日、施化という中国系ブロガーが『施化ブログ』「中国共産党は未だ習家党にはなっていない」という興味深い論考(a)を公開した。

以下は、その概略である。

現在、中国共産党体制の内外、国内外を問わず、多くの論者が、秋の第20回党大会で、習近平主席の再選は確実で、5年以上、権力を維持すると信じている。なぜなら、軍や公安が習主席の側近に交代したからである。

私(施化)は常々、共産党は極めて複雑で緩やかな結合体であり、画一的で強固な組織ではないと考えている。

習主席が次期党大会の進路を決定するためには、まず党全体が「習家党」になければならない。だが、まだ「習家党」とはなっていないので、これは虚構である。

最近の出来事から話そう。

ペロシ訪台の前後で北京の態度は一変した。これは、習主席の負けを認めない、いつもの性格とはかけ離れている

▲写真 台湾の蔡英文総統(右)から台湾の文民最高栄誉である特級大綬章を授与され、スピーチをする米国下院のナンシー・ペロシ議長(2022年8月3日) 出典:Getty Images News

7月下旬、バイデン習近平会談が終わり、中国の対米強硬姿勢がピークに達した(b)。解放軍も弱みを見せなかった。軍は、ペロシ訪台を阻止するため強力な手段を講じる、火遊びは自らやけどする、等と米台に脅しをかけていた。

未熟な共産主義者(いわゆる「ピンクちゃん」)は、中国軍が台湾海峡へ急派され、この機に台湾を一気に「武力統一」すると確信していた。だが、この“ドラマ”は失敗に終わった。

習主席は自らの面子を保つため、台湾周辺の6つの海域で実戦演習を展開した。けれども、この“ドラマ”もわずか数時間のミサイル発射で終了している。「台湾封鎖」は“空砲”に等しかった。

その後、習主席は、海軍と空軍に命じて、台湾海峡「中心線」付近で挑発し続けた。中台約20隻の軍艦が「中心線」あたりで睨み合ったが、2日も持たずに幕引きとなっている。

8月10日、解放軍東部戦区は、台湾周辺の共同軍事作戦の諸課題を“無事”終了したと発表した。そして、今後も台湾海峡で軍事訓練等を行い、定期的に戦闘態勢のパトロールを行うとしている。

同日、国務院台湾事務弁公室は「台湾白書」で、台湾との「平和統一」に向けて誠心誠意努力すると強調した。「武力統一」は、あくまでも最後の手段だという。台湾海峡の緊張を和らげようという意図があるだろう。

これら北京の行動は、明らかに習主席の再選論、すなわち「三段論法」に反していた。「三段論法」とは、「習家軍」(「習派」)が一貫して「毛沢東は中国を立ち上がらせ、鄧小平は中国を豊かにし、習近平は中国を強くする」と主張してきた。

そこで、「中国が強くなった」という証しがあってこそ、習再選の必要性を立証することができるだろう。

対外強硬姿勢は、再選を目指す習主席の“切り札”である。「中国が強くなる」ことで、10年間にわたる内外の“包括的失敗”を隠蔽できる。したがって、習主席としては、この大事な時期に弱気になってはまずい。

ところが、最近の10日間で、それまでの「強硬路線」から「ソフト路線」へと、180度、舵を切った。これは、台湾海峡危機の際、江沢民が「時はまだ来ていない。チャンスを待つ」という言葉に応えたものだという。ただ、かつて習主席が江沢民の忠告に耳を傾けたことがあっただろうか。

もう一つの“譲歩”は、「ゼロコロナ政策」である。

5月6日の政治局会議では、習主席は「ゼロコロナの一般方針を歪め、疑い、否定するあらゆる言動に対して、断固として戦う」と、トーンを高めたのである。

しかし、6月28日、習主席は、中国には老人人口が多く、「ゼロコロナ政策」の結果が予測できないとして、同政策の“軟化”をメディアに語っている。更に1ヶ月後の7月28日、決起集会は跡形もなく終わった。本来、「一尊」(独裁者)である以上、中途半端な“譲歩”は許されないだろう。

中国共産党は、習主席による過去10年間の工作でも、まだ“統合”されていない。それどころか、「反習勢力」(「反習派」)は10年前よりも強くなっている。

以前、党のリーダーが、党をどこそこへ導くと主張すれば、8000万人の党員は迷わずそれに従うと考えられていた。

しかし、現在、カナダ在住の「老灯」が推進している「習下李上」(習主席の退位、李首相の総書記就任)運動は、大多数の中国共産党員と少数の熱狂的な「習家軍」が決して“運命共同体”ではないという事を物語る。

習再選案に反対意見があるかどうかは不明だが、支持するメッセージが出回っていない(すなわち「反対」)ことは確かだ。

 

〔注〕

(a)(https://blog.creaders.net/u/4339/202208/441698.html)。

(b)なお、『ウォール・ストリート・ジャーナル』「習主席がバイデン大統領に台湾に関するメッセージを送ろうと模索:今は危機に瀕する時ではない―ペロシ下院議長の訪問を前にした両首脳の電話で、中国指導者は戦争するつもりはないことを示唆した、と同国の意思決定に近い人々が示唆した―」(2022年8月11日付、https://www.wsj.com/articles/xi-sought-to-send-message-to-biden-on-taiwan-now-is-no-time-for-a-crisis-11660240698)と伝えている。

トップ写真:中国・上海で、COVID-19サンプリングチューブを運ぶ保健員(2022年7月8日) 出典:Photo by Hugo Hu / Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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