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空き家の優遇税制を見直しに高岡市は「高岡発ニッポン再興」その54

出町譲(高岡市議会議員・作家)

 

【まとめ】

・「管理不全空き家」は少なくとも全国に24万戸。

・固定資産税が減額される空き家優遇措置を見直すべき。

・空き家問題にどう向き合うのかが自治体経営の腕の見せ所。

 

私はおととし38年ぶりに故郷、高岡に戻ってきました。その時最も衝撃を受けたのは、空き家です。町中で見かける空き家の数は、半端ありません。古い雑草が生い茂り、窓ガラスが割れた古い空き家もそのままです。町の景観を壊しています。空き家ではないが、高齢者の一人暮らしの家も数多くあります。今後、ますます空き家は急増するでしょう。

高岡は県西部最大の商業都市でした。中心部はごった返していました。多くの人が歩き、子どもが遊んでいました。しかし、私がいない間に、状況は一変しました。空き家ばかり目立っています。高岡市が抱える大問題、どうすればいいのでしょうか。

ある地元の有力者はかつて、私に“秘策”があると語りました。

「空き家を壊すと、固定資産税が上がるのです。だから、多くの人が空き家を壊しません。空き家の優遇税制の見直し、つまり『空き家増税』をすればいいのです」。

 住宅が立つ土地には、固定資産税が6分の1に減額される優遇措置があります。どうしてこんな優遇措置があるのでしょうか。政府は、高度成長時代に、農地をどんどん宅地にするため、導入したのです。人口が増えているので、とにかく家をつくろう。そんな時代の雰囲気を象徴しているのです。

  日本は今、本格的な人口減少に直面しています。高岡でも人口減少は深刻です。人口増加時代の優遇税制は、時代遅れなのです。その有力者は、この優遇税制の見直しこそが“秘策”だというのです。

この問題意識はどうやら国土交通省も共有しているようです。“秘策”ではなく、れっきとした国の政策になろうとしています。国土交通省は今年に入って動き始めました。「空き家対策特別措置法」改正法案を今の通常国会へ提出します。

新たなキーワードは「管理不全空き家」です。窓が壊れていたり、雑草が生えている空き家を想定しています。新たに「管理不全空き家」を認定警告、改善されない場合はペナルティーとして空き家の固定資産税の優遇措置を見直す方針なのです。

空き家対策特措法は2015年に施行されました。そこで規定されたのは、「特定空き家」です。倒壊や屋根の落下などの恐れがある空き家です。修繕や取り壊しの指導を行い、従わない所有者に対し、ペナルティーを課せます。税の優遇措置をなくしたり、行政代執行で解体することも可能にしました。空き家が行政代執行で、取り壊されるシーンを見た人は多いでしょう。

今回の「管理不全空き家」は、「特定空き家」のいわば予備軍です。倒壊するほどではないが、窓が割れていたり、雑草が生えていたりする場合、認定されます。こうした空き家は、全国で少なくともおよそ24万戸あるといわれています。改正法案では、特定空き家と同じように、行政に強い権限が与えられます。指導、勧告に従わない場合、固定資産税は実質、4倍程度に増える見込みです。

実はいくつかの自治体ではすでに、空き家に対して優遇税制の見直しに踏み切っています。そのうちの一つは、神戸市です。20年度に税優遇を見直しし、40ほどの物件が対象となりました。所有者は、解体や修繕に応じたりするケースも出ているといいます。

きっかけは、総務省通達です。自治体は、裁量で空き家に関しては、住宅に該当しないと判断し、優遇措置の見直しができるようになったのです。神戸市は、今回のような国土交通省の「管理不全空き家」の制度を待たずに、総務省の通達で動いているのです。空き家に対する危機感はそれだけ強いと言えます。

国土交通省によりますと、「特定空き家」にしても「管理不全空き家」にしても、自治体に大きな裁量を与えています。空き家にどのように向き合うのか。自治体経営の腕の見せ所なのです。高岡が空き家問題で、全国をリードする存在になって欲しい。私も一市議会議員として、非力ながら、全力を尽くしたいですね。

トップ写真:瓦が落ちた空き家 富山県高岡市福岡町(筆者提供