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.政治  投稿日:2023/8/19

「高岡発ニッポン再興」その97“ランドバンク”が想定外・・・次々賑わいスポットが


出町譲(高岡市議会議員・作家)

【まとめ】

山形県南東部上山市に、次々に賑わいのスポットができている。

NPO法人「かみのやまランドバンク」がミニ区画整理に取り組む。

・熱量のある住民と市職員がいれば、街は変わる。

 

4年で街は変化するのですね。空き家に悩む城下町が「起業・創業」の街に変わりつつあるのです。山形県南東部にある上山市(かみのやま)です。ワイナリー、カフェ、再生した共同浴場など、次々に賑わいのスポットができているのです。

仕掛け人は鏡昌博さんです。建設課エリアマネジメント推進係長。「熱量」という言葉を連発。公務員の枠を超えて、挑戦しています。

私は4年前に鏡さんを取材しました。空き家問題がテーマでした。上山市が「ランドバンク」に乗り出したからです。ランドバンクとは、単独では採算が見込めず、放置されてきた空き家や空き地、道路などを一体的に再編する手法です。

そして、2019年6月にNPO法人「かみのやまランドバンク」がスタートしました。上山市、宅地建物取引業協会、司法書士会、土地家屋調査士会などが構成メンバーです。NPO法人の会員である不動産業者が、安い土地を買い取り、建設業者らと一緒に再編。価値を上げて、売却することを想定していました。いわばミニ区画整理です。

それから4年たちました。その後、どうなっているのでしょうか。

鏡さんは開口一番、想定外の状況になったと語りました。私は落胆しているのかと思って身を乗り出しましたが、そうではありません。鏡さんは喜んでいるのです。

「単身高齢者の家はバラバラなところにあり、当初想定していたミニ区画整理は簡単ではありません。しかし、空き家のリノベーションが3倍に増えています。町は活気づいているのです」。

街では次々に、新たな動きが出ています。例えば、地元の組合が経営していた公衆浴場。2020年4月廃業しました。赤字体質だったのです。放置された建物。解体する流れだったのですが、地元住民はNPO法人に駆け込み、存続を訴えました。

NPO法人が共同浴場の建物所有権及び温泉権を買い取り、 建物の改修を行ったのです。そして、2022年5月にリニューアルオープンしました。子どもなども入りやすいように、お湯は42度前後に設定したり、新たなロゴで、ブランドイメージを変えました。NPO法人が経営しています。改修費1500万円ですが、国、市から1000万円の補助金を受けました。

また、街中に小さなワイナリーもできました。こちらは、映画館跡地です。建物は長く放置され、老朽化が進んでいたので、市は特定空き家に認定。NPO法人が解体しました。通常、特定空き家に認定された場合、所有者が解体するのですが、NPO法人の会員が立て替えました。返済が始まっているといいます。

ワイナリーを経営するのは、大阪府出身の若手醸造家です。この人を応援したいとして、NPO法人の理事長も務める山形第一不動産社長の渡辺秀賢さんが動きました。ワイナリーの建物を建設したのです。

昨年度だけでもNPO法人が関与して空き家や空き地を利用した店舗などは6件オープンしました。NPO法人「かみのやまランドバンク」は官民問わず、スペシャリスト集団なのです。空き家を使って何かをしたい人に、プロ集団がアドバイスしています。

また、実際の空き家を使えるレンタルスペースの貸し出しと、マルシェへの出店機会も展開しています。いきなり開業するのはためらう人もいるからです。「お試しで練習の場として使ってほしい」そうです。

上山市はNPO法人に対して、200万円ほど補助しています。しかし、鏡さんは「寄付なども増やして、行政の補助金を少しずつ減らしていきたい」と語ります。そして、上山市の理想像として、「リノベした個性ある店舗があって、平日でもふらっと歩ける街にしたい」と話します。ちなみに鏡さんはNPO法人「かみのやまランドバンク」の副理事長です。

鏡さんの話を聞いて、痛感しました。街は変わるんですよ。熱量のある住民と市職員がいれば、できないことはないのです。さて、我が町高岡市。空き店舗がずらりと並ぶ現状ですが、悲観することはありません。さまざまな知恵と工夫、そして熱量で、変わるのです。

トップ写真:山形県上山氏のリニューアルした共同浴場(筆者提供)




この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家

1964年富山県高岡市生まれ。

富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。


90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。


テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。


その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。


21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。

同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。

同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。

出町譲

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