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赤ちゃんへの絵本とシビックプライド「高岡発ニッポン再興」その73

出町譲(高岡市議会議員・作家)

【まとめ】

・「高岡らっこ会」は、3カ月健診で赤ちゃんに絵本のプレゼントと読み聞かせを行っている。

・ゼロ歳児に本を読み聞かせプレゼントする、英「ブックスタート」運動がモデル。

・市民が当事者意識を持った誇りである「シビックプライド」を高めてほしい。

 

私は毎朝、古城公園でラジオ体操をしていますが、先日はいい話をお聞きしました。顔なじみの津幡敬子さんからです。我が故郷、高岡に対する誇り、「シビックプライド」を感じました。

体操が終わって、津幡さんは私に話しかけました。「高岡で生まれる赤ちゃん全員に絵本をプレゼントしています。知っていますか」。

津幡さんによれば、高岡市の保健センターでの3カ月健診の際に、プレゼントしているのです。実施しているのは、「高岡らっこの会」というボランティア団体です。メンバーはおよそ40人。もちろん報酬はありません。この方々は、母親らの前で、絵本の読み聞かせもしています。

これまで22年間、高岡市で生まれた全ての赤ちゃんは絵本1冊以上持っていることになります。つまり、現在11歳の人も、3カ月健診の際に、絵本をもらっているのです。驚きですね。私は東京で2人の男の子を育てましたが、絵本をもらったことはありません。この団体は、幼稚園や保育園でも、読み聞かせを行っています。

▲写真 高岡市の「ブックスタート」の取り組みに尽力した津幡敬子さん(筆者提供)

なぜ、こんな活動をするようになったのでしょうか。きっかけは2000年。この年は、「子ども読書年」でした。子どもに読書に親しんでもらおうと、国会で決議した年です。この年、「ブックスタート」が上陸しました。イギリスで始まった試みで、ゼロ歳児に、本を読み聞かせ、プレゼントするものです。

地域に誕生した「すべて」の赤ちゃんを対象とし、まさに誰一人取り残さない活動です。2000年の11月に日本で試験的に始めたのが杉並区です。当時、新聞にも取り上げられました。それに反応したのは、地元で書店を経営する文苑堂の社長(当時)、吉岡隆一郎さんです。市役所にも掛け合いましたが、相手にしてもらえません。

当時、高岡市で一年間に生まれる赤ちゃんの数は1500人ほど。それだけの絵本を用意するお金はないというのが、市役所の言い分です。そこで吉岡さんは身銭を切って、動きます。その時、相談した相手が、津幡さんだったのです。市の担当者の言葉は、冷ややかでした。「絵本に興味のない親はたくさんいます。絵本をもらっても、捨てられるかもしれません」。津幡さんは「要らない人もいるかもしれないので、絵本を回収する箱を用意しました。でも絵本を返した人は誰もいませんでした」と笑顔で振り返ります。

そして、翌2001年、ブックスタートが動きました。高岡含めて全国で12市町村です。日本は世界ではイギリスに次いで2番目となったのです。その先進的な取り組みに高岡がいち早く関与。誇らしいですね。しかも、行政のお金をあてにせず、民間だけでやったのは、高岡市だけです。文苑堂はその後15年間、絵本を提供しました。1人2冊です。書店といえども相当な出費があったはずです。地域に貢献する姿勢には、頭が下がります。現在は高岡市が1冊の絵本を用意しています。

この「高岡らっこの会」のメンバー、中川加津代市議によれば、3カ月健診の際には、若い母親から、育児の悩みなども聞いていたといいます。中川さんも、成人した2人の息子を育てています。先輩ママとして相談相手になったそうです。

このブックスタート運動、世界に広がっています。また、日本では現在、1102の自治体が参加。全自治体の63%に達しています。

私は津幡さんの話を聞きながら、「シビックプライド」という言葉を思い出しました。それは、単なる郷土愛ではありません。シビックプライドとは、当事者意識を持った誇りです。「高岡をよりいい場所にする。高岡市民をより豊かにしたい」。津幡さんのような思いを込めた誇りです。また、絵本をもらった子どもたちは将来、Uターンするかもしれません。お世話になった高岡への恩返しという気持ちがうまれるかもしれません。

ブックスタート、もっと高岡市民が認知し、シビックプライドを高めるきっかけになった欲しいですね。

トップ写真:全国ブックスタートデーに行われた子ども達への読み聞かせの様子 (英国・ロンドン) 出典:Photo by John Phillips/UK Press via Getty Images