台湾の獅子舞とシビックプライド 「高岡発ニッポン再興」その76
出町譲(高岡市議会議員・作家)
【まとめ】
・今年GW、獅子舞が盛んな高岡市に台湾の獅子舞がやってきた。
・仕掛け人は、「旅の人」李宗達さん。
・「旅の人」にまでシビックプライドが広がったとき地域は劇的に変わる。
このゴールデンウィークに台湾の獅子舞が高岡市にやってきました。獅子舞といっても、日本のものとは、違います。明るい色彩の衣装に身を包み、動きは実にアクロバティック。2人が獅子舞の中に入って歩き回り、時には後ろの人が獅子頭を被る人を肩車で担ぎます。獅子が立ち上がっているように見えます。
駅前の中心商店街はこの日、歩行者天国となり、大勢の人が詰めかました。熱心に鑑賞し、拍手が鳴りやみませんでした。住民の中では「高岡にいながら台湾に旅行しているようだ」「日本の獅子舞と違って興味深い」などの声が聞こえました。ポストコロナ、新しい時代を印象付けるシーンでした。
富山県は、獅子舞を継承する団体がおよそ1000あり、日本一の獅子舞が盛んな県です。こうしたことから、高岡市では毎年5月3日(祝)、中心市街地で高岡獅子舞大競演会を開いています。例年各地の獅子舞が舞うのですが、今年は、初めて海外の獅子舞が招待されました。
仕掛け人は、高岡市の建設会社、塩谷建設の社員、台湾の李宗達さん(41)。李さんは1年前から塩谷建設で働いています。
李さんは、日本に来て、祭りの多さに驚きました。そして、獅子舞大競演会に、ぜひとも故郷台湾の地元、台北市萬華区の獅子舞に参加してほしい。そう思って去年11月ごろに塩谷洋平社長に相談。塩谷社長も賛同し、今回、実現したのです。李さんは「高岡市の子どもたちを海外につなげたいのです。次世代の子どもたちのため、種をまきたいのです」と指摘。その上で、「高岡など県西部には文化も、自然も豊かですが、立山とか黒部などの県東部に旅行する人が多い。高岡など県西部をもっと知ってもらいたい」と話しています。
台湾からの訪問団は62人。私の近所の「角久旅館」などにも泊まって、砺波市や小矢部市でも、獅子舞を披露しました。地元のイルカ交通が大型バスを用意しました。行政からの補助金はもらわず、民間企業がタイアップして実現したのです。高岡市にも経済効果があったのです。
塩谷建設では柔道を通じて台湾の子どもたちと交流していましたが、コロナをきっかけに中断。しかし、今後、再開する予定です。塩谷社長は「富山には地元が大好きな若者がたくさんいる。だからこそ、海外を見て欲しい。茹でガエルにはなって欲しくない」としています。
それにしても、李さんの高岡愛には驚くばかりです。高岡市は閉鎖的な風土があると言われています。「旅の人」という言葉がありますが、それは「よそ者」という言葉を少し、柔らかく表現していますが、意味はほぼ同じです。
李さんは「旅の人」ですが、「シビックプライド」あふれた人物ですね。「シビックプライド」は、単なる郷土愛ではありません。当事者意識をもって郷土を良くする行動です。地元の人だけでなく、「旅の人」にまでシビックプライドが広がったとき、地域は劇的に変わると、私は確信しています。
トップ写真:李宗達さん(右)と筆者(筆者提供
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この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家
1964年富山県高岡市生まれ。
富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。
90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。
テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。
その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。
21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。
同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。
同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。