"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

訪日する比大統領、政治的演技かご乱心か

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(10月24-30日)」

今週日本のマスコミが最も注目するのは、例のフィリピン「暴言大統領」の訪日だが、へそ曲がりの筆者はイラク正規軍・シーア派ミリシア・ペシュメルガによる合同モスル奪還作戦の行方の方が気になる。長期戦は覚悟の上だが、これから「人間の盾」の犠牲が急増するだろう。イラク市街戦の恐ろしさは実際に経験してみないと判らない。

フィリピン大統領の訪日は、とにかく成功してほしい、ということに尽きる。それにしても、あの大統領がただの行儀悪い田舎政治家だとはどうしても思えない。恐らく、多くは政治的演技なのだろうが、彼の最大の問題は、どこからが政治的演技で、どこからがご乱心なのかが分からないことだ。これは当の本人も判らないのかもしれないが。

 

〇欧州・ロシア

今週は欧州各地で選挙がある。23日にはスペインの社会党が新政権参加の是非を議論するという24日からは国王が新政権樹立について15もの諸政党と協議を行うそうだ。上手くいけば26日には新首相選任の議論が始まり、27日には新内閣が発足するはずだが、29日にずれ込む可能性もあるという。何とメンドクサイことか。

同じく29日にはアイスランドが議会選挙を、30日にはモルドバが大統領選挙を実施する。何だかんだ言っても、欧州は選挙ができる。これって中東ではイスラエル以外、逆立ちしてもできない芸当だ。ここに欧州の底力があるのだろう。決して過小評価できないポイントである。

 

〇東アジア・大洋州

24日に中国とタジキスタンが合同軍事訓練を行う。中国側の関心はタジクの安全保障云々よりも、ずばりウイグル過激派の取り締まりだろう。この地域でも中国は着実にやるべきことを実施に移している。もっと日本がやれることはあると思うのだが、日本国内での関心は低いのがネックになっている。

24日からベトナムでカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの首脳会議が開かれ、ミャンマー大統領が参加する。中国が参加しない会議というのがミソだろうが、一体何を議論するのだろう。一方、国王が亡くなったタイでは、このところ大規模テロのうわさが流れているという。個人的にはフィリピンよりもタイの方が心配である。

 

〇中東・アフリカ

26日からトルコと米国の司法当局が例の「ギュレン師」の引き渡し問題で議論するという。だが、米国が引き渡しに応じる可能性は低いだろう。それにしても、エルドアン大統領は米国に亡命したこの宗教指導者をかくも恐れるのか。ギュレンが帰国すればかえって問題はこじれる。イラン革命はホメイニ帰国で拡大したのだから。

28日にはOPECの技術委員会がハイレベル会合を開く。この会議が注目されるのは、11月にも予定されるOPEC総会などで今後の減産の具体的量が決まるからだろうが、本当にOPECは結束できるのか。サウジアラビアの動きが注目される。それにしても、あの若い副皇太子は結構頑張っているようだ。本当にサウジは変わるのか?

 

○南北アメリカ

大統領選の趨勢は見えてきたのか。一部気の早いの関係者の関心は「トランプの負け方」に集まりつつある。コテンパンに負けるか、余力を残すかによって、共和党の、そして米保守陣営全体の将来が決まるかもしれない。個人的には上院がどうなるかが気になるが、ここでも共和党が負ければ、来年の米外交はどうなるのだろう。

 

〇インド亜大陸

特記事項はない。

今週はこのくらいにしておこう。

いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。