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トランプ政権「終わりの始まり」

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

 宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2017#20(2017年5月15-21日)

【まとめ】

・録音テープに言及するトランプ氏の不可思議な行動。

・北朝鮮のミサイル開発を過小評価するな。

・FBI長官更迭問題、トランプ氏の終わりの始まり。

 

■不可思議なトランプ氏のツイート

先週もトランプ氏は我々の期待を裏切らなかった。5月12日21時26分のTwitterで彼はこう呟いた。

James Comey better hope that there are no “tapes” of our conversations before he starts leaking to the press!

それにしても、なぜトランプ氏は頼まれもしないのに録音テープの存在を暗示したのだろう。

先日更迭したJ・コーミー元FBI長官の対メディア情報リークを牽制するためだったとしたら、彼は驚くべき「政治音痴」だ。ホワイトハウスでの録音テープといえば、誰だって1972年のウォーターゲート事件を思い出すだろう。1974年の夏にニクソンが辞任した時、偶然にも筆者は米国旅行中だった。

ある米共和党識者が、「あの録音テープがなかったら、ニクソンは辞任しなくても済んだかもしれない」とCNNで述べていた。当時の雰囲気を知る筆者もその通りだと思う。そんな微妙な情報が存在する可能性にトランプ氏はなぜ敢えて言及したのか。トランプ氏の側近は心の休まる暇がないのではないか。

■過小評価するな北朝鮮のミサイル開発

今週のもう一つの注目点は北朝鮮の新型ミサイルらしき飛翔体の発射だ。高度2000キロを超える「ロフテド」軌道というから、二つの意味で興味深い。第一は、「ロフテド」軌道のミサイルは迎撃が難しくなること。第二は、高高度からの大気圏再突入で、北朝鮮がICBM完成にまた一歩近づいた可能性だ。

タイミングも最悪だ。中国では「一帯一路」首脳会議の初日に当たり、韓国では文在寅新大統領が始動したばかり。明らかに北朝鮮は中韓をあざ笑うが如く、核ミサイル開発を進めているようだ。我々は北朝鮮の開発能力を過小評価しているのではないのか。

確かに、北朝鮮のミサイルは資金的にも技術的にも限界がある。だが、中国やイランがA2/AD技術開発の一環としてこの種のミサイル実験を行っている可能性は高い。されば、北朝鮮が「空母キラー」型ミサイル攻撃能力を手に入れるのも時間の問題だろう。いずれにせよ、あまり良いニュースではなさそうだ。

 

〇欧州・ロシア

14日にマクロンが仏大統領に正式に就任する。世論調査によれば、マクロンに投票した有権者の半分以上はユーロ圏離脱、保護貿易主義、移民流入阻止などの政策を主張したルペンの当選を阻止するために投票したと答えたそうだ。逆に言えば、マクロンに対する支持は未知数ということか。これでは先が思いやられる。

 

〇東アジア・大洋州

14-15日に北京で「一帯一路」首脳会議があり、ロシア、インドネシア、イタリア、フィリピンなど29カ国の首脳が参加したそうだ。だが、日本のメディアも、中国が力を入れている割には「一帯一路の投資は盛り上がらない」と報じている。ようやく、一帯一路政策の問題点が見えてきたようだ。

一帯一路は収益率が低い割りにリスクが高い。民間企業は二の足を踏み、大半は国有企業による投資だ。中国経済の構造矛盾は深まり、先行きが不安だ。更に、途上国インフラ投資で融資対象になり得る案件は非常に少ないというから、やや期待外れか。「一帯一路」政策は意外に早く萎むかもしれない。

 

〇中東・アフリカ

16日にシリア和平協議が再開されるが、事態が進展する見込みは全く立っていない。米国のトマホーク攻撃で事態が動くかと見る向きもあったようだが、結局は線香花火。トランプ政権が本気で地上軍を入れるなど軍事介入を強める兆候は見られない。どうやら、今年もシリアに和平は生まれそうにないということか。

 

南北アメリカ

コーミー元長官は大統領選でのトランプ陣営とロシア政府の接触・共謀疑惑につき、昨年7月に犯罪捜査に着手していたそうだ。トランプ氏は「どっちみち私はコーミーを更迭していた。彼は、目立ちたがり屋で、スタンドプレーヤーだ。FBIは混乱していた」と語ったそうだが、こうした説明はお粗末である。

トランプ氏によれば、「コーミーは良い仕事をしなかった」から解任されたという。12日朝、彼は大統領選へのロシアの干渉に関する捜査を「魔女狩り」と呼んだ。同時に、トランプ氏は今後記者会見を取りやめる可能性にも言及している。こうした混乱はトランプ政権の「終わりの始まり」を意味するのか。

 

〇インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。