無料会員募集中
.国際  投稿日:2017/5/2

いずれ第2次朝鮮戦争が起きる


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

 宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2017#18(2017年5月1-7日)

【まとめ】

・米国が北朝鮮に先制攻撃する可能性低い。

・北朝鮮の核兵器開発止まず、最悪、第2次朝鮮戦争起きる。

・トランプは「統治モード」にはならない。

今週日本はゴールデンウィークでお休み。しかし、主要省庁の閣僚、副大臣、政務官や国会議員は外遊で忙しいはずだ。それにしても、朝鮮半島で何が起きてもおかしくないと報じられている昨今、そんなに長く国を空けても良いのだろうか。ちょっと気になるところだ。恐らく彼らは、「今は何も起きない」と達観しているのだろう。さすがだ。

 

■中長期的には第2次朝鮮戦争の可能性

北朝鮮問題に関する筆者の見通しは簡単。短期的には楽観的だが、中長期的には悲観的である。現在米国が対北朝鮮先制攻撃を仕掛ける可能性は低い。だが、それをあまりはっきり言ってしまえば、対中国、対北朝鮮の抑止効果は大幅に相殺される。やはり、米国が何をするかは最後まで曖昧にしておくのが最も賢いやり方だろう。

一方、中長期的には気が滅入る。北朝鮮が核兵器開発を断念する可能性は殆どないし、中国には北を説得するだけの力も度胸もない。このまま北朝鮮が核弾頭を乗せたICBMの実戦配備に向け進めば進むほど、米国が北朝鮮に対し先制攻撃を行う可能性は高まる。問題は東アジアではなく、米本土の安全保障に関わるからだ。

その時、日中韓は最悪の場合、第二次朝鮮戦争を覚悟する必要がある。その時初めて、北朝鮮が土壇場で核開発を断念する可能性が出てくるからだ。しかし、現状ではそれも不可能。米中間には朝鮮半島の将来に関する最低限のコンセンサスすらないからだ。そのコンセンサスには日韓だけでなく、露も協議を求めてくるだろう。

朝鮮戦争休戦から64年。この古くて新しいクライシスが、若い三代目のリーダーの出現により、再始動する恐れが出てきた。これから朝鮮半島を米中露が獲り合う新たなゲームが始まる。日本は韓国とともに、このゲームに関与し、勝者として生き残らなければならない。されば、外遊するのも良いが、他にもっと考えることがあるだろう。

 

欧州・ロシア

今週末には大統領選の決戦投票がある。マクロン候補勝利が予測されているが、ルペン女史も反EUの姿勢を軟化させている。でも、まさかの結果となる可能性は低いだろう。一方、若輩のマクロンにフランスを今の惨状から救う力があるとも思えない。既存二大政党への不満が解消しない限り、フランス内政の混乱は続くだろう。

2日にドイツ首相がロシアを訪問する。メルケルはロシア語に堪能、プーチンもドイツ語が喋れるはずだ。主要国の中でもこれだけ突っ込んだ話ができそうな首脳同士は他にないだろうが、一体何を話すのか。ルペンがいてメルケルがいない(分裂含みの)EUはプーチンにとって夢であるはずなのだが・・・。

 

東アジア・大洋州

30日のCBSのFace The Nationとのインタビューでトランプ氏が中国について述べた部分が面白い。「中国が為替操作をやっていたのは明白」だが、「北朝鮮は貿易問題よりも重要」であり、「中国は究極的ではないにせよ、かなりの力を持っており、北朝鮮問題の解決に中国が助けになるなら、貿易問題で妥協も厭わない」と述べた。

何と単純な男なのだろう。このような大統領を相手に、中国の国家主席を含む各国の百戦錬磨の政治家たちは一体何を感じ取るのか。トランプ氏のような大統領でもビクともしない米国に対し、プーチンがいなければ恐らく二流国になり下がっていたかもしれないロシアと、そのどちらでもない習近平の中国がどう対応するのか興味深い。

 

中東・アフリカ

3日にロシア・トルコ首脳会談がソチで開かれる。同日、ワシントンでは米・パレスチナ首脳会談が開かれる。偶然の一致だろうが、このコントラストは興味深い。一時悪化したトルコとロシアの関係は最近改善しているという。この民主的選挙で選ばれた二人の独裁者がシリア問題で何を話すのだろうか。

一方、パレスチナ問題については何も期待していない。トランプ氏は米国が長年支持してきたユダヤ・パレスチナの「二国家論」について、「当事者が合意すれば、どちらでも良い」と突き放している。しかも、トランプ氏は娘婿をパレスチナ問題の仲介役にするつもりらしい。クシュナー氏には失礼だが、彼にそのような大役は無理である。

 

南北アメリカ

29日はトランプ氏の大統領就任100日目だったが、30日にトランプ氏はペンシルベニア州で開かれた集会に出席、恒例のホワイトハウス記者との夕食会を欠席した。トランプ政権が相変わらず「選挙・キャンペーン」を重視していることを象徴する出来事だ。トランプ氏は、歴代政権と比べても、「選挙・キャンペーン」モードのバージョン1.0と「統治」モードのバージョン2.0の混在が著しく顕著だが、これで本当に良いのか。

外交面ではシリアや北朝鮮など国際危機に対応する中、NSC(国家安全保障会議)は着実に2.0に移行しつつあるように見える。これに対し、内政面では「選挙」モード1.0のまま、イスラム系諸国からの入国制限やオバマケア代替法案などで失敗が続いている。彼が「選挙」モードを放棄し、バージョン2.0に移行することはないのだろう。

 

インド亜大陸

特記事項なし。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."