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トランプ政権外交安保チームの惨状

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2018#29

2018年7月16-22日

【まとめ】

・トランプ氏は北米・欧州同盟の機能維持に殆ど関心を有していない。

・トランプ政権外交安全保障チームの惨状は目を覆わんばかり。

・米国外交は誤った方向に動き始め、後戻り出来なくなる恐れあり。

 

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今週は内容を急遽変更したため掲載が遅れてしまった。心からお詫び申し上げたい。理由は簡単、昨晩というか、今朝未明にあった米露首脳会談の共同記者会見を見て考えを変え、全文を書き直したためである。先週はポンペイオ米国務長官の話を取り上げたが、今週はそれより酷い話を取り上げざるを得ないだろう。ちなみに今週は札幌行き全日空便から送っている。便利になったものだ。

昨夜から今朝未明に至るCNNの報道は常軌を逸していた。トランプ氏のパーフォーマンスはdisastrous、史上最悪、disgraceful、米大統領プーチンの軍門に下る、などといった煽情的報道ばかり。トランプ氏が2016年の大統領選挙でロシアが介入したとの米情報機関の判断を無視し、プーチンに強く抗議しなかったというのが理由だ。

今回のトランプ氏の言動は信じ難いものが少なくなかった。ブラッセルでNATO年次首脳会議直前にNATOの要であるドイツ首相を辱め、イギリスでは反トランプデモの嵐が吹き荒れるロンドンを意図的に回避し、フィンランドで米露首脳会談で多くの欧州同盟国首脳を立腹させたのは、他ならぬトランプ氏自身だったのだから。

▲写真 メルケル独首相と話すメラニア米大統領夫人  2018年7月11日 出典:facebook  The White House

確かに、今回ほど米国の現職大統領がお粗末に見えたことはちょっと記憶にない。昔日本にも「宇宙から来た」内閣総理大臣がおられたが、彼を100倍悪くして米国大統領にしたのがトランプ氏だといえば、米国エリート層の何ともやり切れない気持ちがご理解いただけるかもしれない。

とにかく今回明らかになったことは、今更ではあるが、トランプ氏が少なくとも北米・欧州同盟の機能維持に殆ど関心を有していないという事実だ。トランプ氏の米国はこれまで欧州主要国の指導者が慣れ親しんできた、「アロガントだが、普遍的価値については妥協しない、頼もしい」米国ではない。彼らの恐れは今回的中したのである。

トランプ氏の米国は最早、現状維持勢力ではない。現状破壊者とまではいわないが、これまで欧米のエリート層が育て守ってきた「自由で開かれた国際・国内秩序」(トランプ陣営ではこれを『ディープステート』と呼ぶ)を忌み嫌い、これに常に反発するという意味では、むしろ中露の発想に近いのかもしれない。

筆者が最も残念に思うことは、トランプ政権の外交安全保障チームの惨状だ。先週はポンペイオ氏を「本来保守強硬派ながら、北朝鮮の理不尽な態度に席を立つことも出来ない哀れな国務長官」などと失礼なことを書いたが、今週はトランプ氏の「殿ご乱心」を諫め修正すべき彼ら全員に、「君たちは一体何をしているのか」と言いたい。

▲写真 フィンランドを訪問するトランプ米大統領、ポンペイオ国務長官ら 2018年7月16日 出典:twitter @SecPompeo

これまで多くの前任者が正論を吐いて更迭されてきたことは事実だ。しかし、今彼ら、すなわちポンペイオ国務長官、ボルトンNSC補佐官、マティス国防長官以下、が声を上げなかったら、米国外交は間違いなく誤った方向に動き始め、後戻りが出来なくなる恐れがある。心ある識者であれば十分ご理解いただけるだろう。

もちろん、彼らからすれば、「そんなことは判っている」のだが、それを言ってしまえば、「いずれ更迭される」という恐ろしいジレンマがある。さて、読者の皆さんがポンペイオ、ボルトン、マティス各氏だったら、如何に振舞うだろうか。そもそも、こんな仕事を受けたのが間違いだったのではないか。やはり筆者はまっぴらご免である。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ画像:米露首脳会談 2018年7月16日 出典 ロシア大統領府