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.国際  投稿日:2018/7/2

増大する日本への脅威 米朝首脳会談総括 その5(最終回)


古森義久 (ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・米朝会談後の日本の安全保障環境はより厳しいものに

・反日・核武装の統一朝鮮の悪夢と、主導権握る中国軍

・日米同盟と日本の防衛力強化が必要。憲法9条問題も課題

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40770でお読み下さい。】

 

米朝首脳会談の結果について論じてきた。まずこの会談が開かれた経緯の意味、主題となった北朝鮮の非核化の展望、そしてこうした動きが東アジア全体の安全保障情勢をどう変えていくのか、という予測などを述べてきた。

ここで当然ながら気になるのは、今回の首脳会談で起きた複雑多岐な変革のうねりがわが日本にどんな影響を及ぼすか、である。より具体的には日本の国家安全保障をどう変えていくのか、という課題だといえる。

ではこの連載の最終回ではその日本への影響について論じることとする。

 

(3)日本の安全保障への影響

日本は米朝首脳会談が象徴する変化の数々によって厳しい安全保障政策の調整を迫られるだろう。その新しい状況は日本にとってきわめて厳しい国難とさえ呼べるチャレンジともなろう。あるいは脅威とも、危機とも呼べるだろう。この点での新たな課題は二つに区分できる。北朝鮮の脅威と中国の脅威である。それらの日本に対する脅威が米朝首脳会談以後の世界では、いずれも増大する見通しが強いのだ。

北朝鮮が長年の宿敵ともいえるアメリカや韓国に対してこれほどの友好や融和のジェスチュアをみせているときに、日本への北朝鮮の脅威が増すというのは矛盾としてひびくかもしれない。だが北朝鮮当局は現実に日本に対しては米朝首脳会談後も悪口雑言に近い言辞で非難を浴びせているのだ。北朝鮮が日本を敵視して、自国にとっての脅威としての扱いをしているのだ。

北朝鮮はアメリカにも韓国にも和平や和解の姿勢を誇示しながらも、日本に対しては敵視の構えを変えていない。いやむしろ日本に対しては従来の敵対姿勢を強めているようなのだ。

北朝鮮はたとえアメリカの要求による非核化を果たしても、さらに長距離の弾道ミサイルの削減までを実行したとしてもなお、日本にとっての脅威である中距離、短距離のミサイルは撤去するような気配はツユほどもみせていない。日本人拉致事件についても、トランプ大統領から全員一括解放の要求を受けながら、明確な態度は遅々としてみせないのだ。

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▲写真 北朝鮮の弾道ミサイル 火星15号 出典:Missile Threat CSIS

日本にとっての北朝鮮という存在は、こうした諸点をみただけでも、そもそも対立案件が厳存する敵性の強い相手なのである。

韓国も日本にとって安全保障面で頼れる相手ではない。文在寅政権下ではこんご親北朝鮮、反日本の傾向が一段と強まる気配もある。もし韓国と北朝鮮との南北統一に向けての動きが本格化する場合、北朝鮮がすでに保持している核兵器の一部をアメリカの目からはうまく隠しとおすことも考えられる。そうなると、悪夢中のまた悪夢として反日で核武装した新統一朝鮮が日本の脇腹にナイフを突きつけた構図で誕生することもありうることとなる。少なくとも絶対に否定できるシナリオではない。

日本にとってのさらなる軍事脅威は中国である。この点は改めて議論をする余地もないだろう。中国は日本の固有領土の尖閣諸島周辺の日本領海に毎月3回ほどの頻度で武装艦艇を侵入させてくる。尖閣諸島を軍事力を使ってでも奪取しようとする構えを固めている。

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▲写真 杭州湾の中国艦隊 出典:パブリックドメイン

その中国は米朝会談の結果、東アジア全般での軍事がらみの影響力を拡大することになる。日本への軍事的な威圧もその結果、強まることとなる。

前記のアメリカの陸軍大学教授ラリー・ウォーツエル氏は在韓米軍の一部の機能縮小、一部の撤退だけでも、在韓米軍の抑止力減少となり、アジアでの中国の安保面での主導権を強めるようになる、と指摘していた。中国は在韓米軍の土台となる米韓同盟も長年、反対してきたのだ。

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▲写真 ラリー・ウォーツエル氏 出典:ECONOMIC and SECURITY REVIEW COMISSION

その中国は日本に対しては敵対性のにじむ安保政策をとっている。前述のように日本の固有領土の尖閣諸島を武力ででも奪取しようという構えを変えていない。中国の国内では「抗日の歴史」の名の下に過激な反日教育や抗日戦争記念日の国家最高行事へのレベルアップを続けている。米朝会談での新展開はその中国の対日活動にも勢いを与えかねない要因を示しているのだ。

では日本はこの新たな安全保障環境に対してなにをすべきか。

どうみてもまずは日米同盟の堅持と強化だろう。幸いにしてトランプ政権は中国の軍拡や無法な行動に警戒と対決を強めている。その結果、日米同盟の重視を一段と深めるにいたった。

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▲写真 日米首脳会談 安倍晋三首相とトランプ米大統領 2018年6月7日 出典:facebook  White House (Official White House Photo by Joyce N. Boghosian)

日本の安全保障の強化となれば、日米同盟の枠内でも、あるいは自主的な方向ででも、日本独自の防衛能力、抑止力の構築を一段と進めることも欠かせない。その背後には日本の防衛努力に対して自縄自縛のような制約をかける日本国憲法第9も多くの課題を抱えたまま、静かに立っているのだ。

米朝首脳会談はこのように多様な警告や教訓をもさし示しているのである。

(終わり。その1その2その3その4。全5回。)

トップ画像/金正恩北朝鮮委員長とトランプ米大統領 出典:facebook White House (Official White House Photo by Shealah Craighead)


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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