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.国際  投稿日:2018/7/3

外交交渉には「修羅場」の経験不可欠


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2018#27

2018年7月2-8

まとめ

秋野豊元国連タジキスタン監視団政務官没後20年シンポジウムが開催される。

秋野氏は平和構築・国際貢献の分野では日本のパイオニアの一人。

本当の外交交渉には「修羅場」の経験が不可欠だと思う

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40822でお読み下さい。】

 

 今週7月3日に外務省主催で秋野豊・元国連タジキスタン監視団(UNMOT)政務官(元筑波大学助教授)没後20年シンポジウムが開かれる。秋野さんがタジキスタンで殉職されてから早くも20年が経った。同シンポジウムは中央アジアを含むユーラシア地域を広く研究しておられた秋野豊さんの功績を再評価するものだ。

 

 

 秋野さんのことはよく覚えている。当時筆者は外務省中東アフリカ局の中近東第一課長だった。直接の担当ではなかったが、中東と中央アジアはお隣さんだ。秋野さんは平和構築・国際貢献の分野では日本のパイオニアの一人。タジキスタン内戦の犠牲となった同氏の貢献の尊さを思い、改めて心から哀悼の意を表したい。

 

 秋野さんは北海道小樽市生まれ、北海道大学大学院法学研究科で第二次世界大戦中の英ソ関係を研究し、1983年に法学博士号を取得している。その後、秋野さんは在モスクワ日本大使館専門調査員を務めてから1986年から筑波大学で教えるようになったが、1998年に外務省に入り国連タジキスタン監視団に参加した行動派だ。

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写真)秋野豊氏

出典)筑波大学国際総合学類

 

 秋野さんが亡くなったのは同年7月20日、ドゥシャンベの東方の山岳地帯を走行中に武装集団による襲撃に遭い、同乗者とともに犠牲になった。もちろん、筆者も中東屋の端くれだから、彼の死は他人事ではない。実際に筆者もその6年後、イラクで犠牲となった故奥克彦大使の後任として、イラク戦争後のバグダッド勤務を経験した。

 

 中東にせよ、中央アジアにせよ、あの手の地域には絶対に安全な場所などない。商社マンだろうが、外交官だろうが、そもそも開発途上国勤務を経験したことのない輩を筆者は信用しないことにしている。先進国勤務ばかりのサラブレッドも良いが、駄馬には駄馬の良さがある。本当の外交交渉には「修羅場」の経験が不可欠だと思うからだ。

 

〇欧州・ロシア

 2-4日にイラン大統領がスイスとオーストリアを訪問する。当然議題はイラン核合意と原油生産量の行方だが、イランは核合意についてEUの支持を必要としている。トランプ政権とイランとの間では今後EUに対する働きかけをめぐる綱引きが激化するのだろうが、どうやら欧州に譲る気はなさそうだ。

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写真)イランのハサン・ロウハーニー大統領

出典)BotMultichillT

 

〇中東・アフリカ

 4日にヨルダン外相が訪露し、外相会談を行う。5日にはトルコが大統領選挙と議会総選挙の結果を発表し、8日には新議会の第一回会合が開かれるという。このところトルコからの選挙関連追加情報は乏しいが、エルドアン大統領は欧米諸国との関係をどうするつもりなのだろう。改善するなら今がベストだと思うのだが。

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写真)アンカラの首相官邸で記者会見をするエルドアン

出典)Minister-president Rutte from Nederland

 

〇東アジア・大洋州

 米有力紙が米専門家による衛星写真分析の結果、北朝鮮が北東部にあるミサイル製造施設の拡張工事を進めていると報じた。専門家によれば「北朝鮮が核開発やミサイル計画を廃棄する考えがないことを示している」のだそうだが、別に驚かない。そもそも北朝鮮がたった一回の首脳会談で核兵器廃棄を約束するはずがないからだ。

 

 もう一つ気になるニュースがある。米国務省が米国の対台湾窓口機関である「米国在台協会(AIT)」の事務所警護のため米海兵隊に要員派遣を要請したそうだ。海兵隊を派遣しても、それが直ちに「大使館」となる訳ではないが、これも米国の中国に対する意図的な揺さぶりなのだろう。米台・米中関係も要注意である。

 

〇南北アメリカ

 4日は米国独立記念日だが、6日に米国が追加関税賦課に踏み切れば、米中貿易戦争が本格化する。更に、来週9日には保守派最高裁判事の引退に伴う後任人事が発表される可能性もある。このようにして、トランプ氏は次から次へと新しい話題を提供し、辻褄の合わない話を過去のものにしていく。この能力は大したものだ。

 

 そういえば、先週トランプ氏はツイッターで

「サウジのサルマン国王とたった今、話をした。イランとベネズエラでの混乱のため、サウジアラビアには穴埋めとして最大200万バレル程度の原油増産を要請したいと説明した。原油価格は高すぎる!国王は同意した!」と述べた。ホワイトハウスは撤回したが、では一体何を信じれば良いのか。

出典)Donald J. Trump Twitter

 

〇インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ画像)タジキスタンの人達と秋野豊氏(中央) 出典)秋野豊ユーラシア基金アーカイブFacebook

 


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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