"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

活況を呈する沖縄経済の背景

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2018#31

2018年7月30-8月5日

【まとめ】

・経済情勢、安保バランスの安定維持が”好景気”沖縄の大戦略。

・外相専用機検討は当然。“田舎議会”の国会改革こそ必要。

・シリア情勢でロシア動く。米・トランプ氏に戦略性なし。

 

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今週は那覇でこの原稿を書いている。今年沖縄に来るのは3月以来二度目、今回は地元経済団体の集まりで話す機会を頂いたのだ。これまでは普天間や名護といった在沖米軍関係施設やリゾート施設を訪れる機会が多かったが、今回は那覇市内で沖縄経済界トップから直接話を聞くことができた。

沖縄経済は好調だ。成長率は高く、人口も140万に増えている。東京、大阪、名古屋といった大都市圏以外ではダントツだ。最近九州のある銀行が沖縄に支店を二つも作ったそうだ。本土の地方で人口が減少する中、沖縄で優良な顧客を集めようとしているという。実に象徴的な話ではないか。

▲沖縄県内主要経済指標 出典:沖縄県HP「平成30年沖縄県内経済の見通し」

理由は幾つかある。知りたければ那覇市中心部の国際通りを歩けばよい。筆者が外務省を辞めた13年前、当時の那覇は日米安保条約課長だった20年前とあまり変わらなかったが、今や沖縄は外国人旅行者で溢れている。昔県庁は外国人旅行者10万人誘致を計画したそうだが、今は一年に300万人来るだそうだ。

確かに空港から市内に入る際、港に大型客船が停泊しているのが見えた。過去5年ほどはこうした客船と格安航空便と円安が追い風となり、県内では観光を中心にサービス産業が活況を呈している。しかも、沖縄ではIT産業も成長している。そういえば、那覇中心部の地価上昇率が日本一という話を思い出した。

沖縄に思い入れの強い筆者にはこれほど嬉しいことはない。講演では今日の沖縄経済の発展は沖縄県民の努力に加え、日本を取り巻く経済情勢、中国経済の発展、地域の安保バランスなど全ての環境が安定するからこそ実現したものであり、今後も安定した環境を維持することが沖縄の「大戦略」だと述べた。

今週は欧米諸国が夏休みに入ったのか、あまり大きなイベントがないので、久しぶりに日本外交に焦点を当てたい。7月30日から8月8日までの10日間、河野太郎外相が長期出張するという。訪問先はモスクワ、シンガポール、ミャンマーのネーピードー、バングラデシュのダッカだそうだ。ご苦労様である。

モスクワでは目玉は日露外務・防衛閣僚協議(「2+2」)、シンガポールでは日・ASEAN外相会議ASEAN+3(日中韓)外相会議東アジア首脳会議(EAS)参加国外相会議ASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会合に出席する。ミャンマーではスー・チー国家最高顧問兼外相と、ダッカではバングラ外相と会談する。

河野外相といえば、外遊用に「外相専用機」を「おねだり」したなどと揶揄されたが、筆者は同情的だ。G7など主要国の外相なら専用機を持っても決して不思議ではない。しかも日本のように閣僚を「安売りする」国では、外相の外国出張に使える時間が極端に少なくなる。専用機を考えるのは当然だろう。

確かにカネはかかる。それが駄目というなら、総理大臣以下閣僚の「働き方」改革が必要だ。そもそも、今の国会審議は何だ。50年前とちっとも変っていない。予算委員会の総括(的)質疑では質問の有無にかかわらず全閣僚が出席を強いられる。こんな「田舎議会」の風習を改めない国会こそ改革が必要だ。

 

〇 欧州・ロシア

どうやら西欧は本格的夏休みに入ったようだ。特記すべき事項はない。

 

〇 中東・アフリカ

欧州方面ではロシアだけが仕事をしている。今週ソチでイランとトルコの代表を集め会談を行うらしい。当然議題はシリアだ。同国をめぐるイスラエルとイランとの対立が更にエスカレートしており、協議が必要になったのかもしれない。これに比べると米国の動きには戦略性が感じられない。まあ、トランプ政権では無理なのだろうが。

 

〇 東アジア・大洋州

今週は日露2+2がモスクワで、ASEAN外相関係の一連の会議がシンガポールでそれぞれ開かれるのが目玉だ。これ以外では、31日に朝鮮半島で南北軍当局が将軍レベルの会合を行うという。先週23日の南北朝鮮卓球・射撃競技会閉幕、24日の南北鉄道線路共同検査に続き、南北接触だけが続いている。不思議な世界だ。

▲写真 南北鉄道線路共同検査 出典:Korea,net

 

〇 南北アメリカ

先週もトランプ氏の元個人弁護士がCNNなど「フェイクニュース」の話題を独占している。先々週この弁護士はトランプ氏との会話の録音テープの内容を暴露したが、先週は更に、トランプ氏が「20166月のトランプタワーでの息子や義理の息子のロシア人弁護士との会合の内容を事前に承知・承認していた」と言い出したのだ。

この話が本当だとすれば、トランプ氏が繰り返し「ロシアとの共謀はない」と主張してきた根拠が根底から崩れることになる。トランプ氏にとっては大きな痛手となる可能性が高い。当然、トランプ陣営は全面否定だが、元個人弁護士はモラー特別検察官に証言するとまで言っている。ますますウォータゲート事件に似てきた気がするが・・・。

▲写真 モラー特別検察官 出典:Federal Bureau of Investigation

 

〇 インド亜大陸

パキスタンの総選挙で野党第2党だったパキスタン正義運動(PTI)が115議席を獲得し第1党となった。与党パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML-N)が64議席だから大勝利だ。今後連立工作を急ぎ早期の政権発足をめざすという。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ画像:沖縄県国際通り Photo by Makoto Nakashima