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.国際  投稿日:2018/7/25

習近平氏失脚を論じる愚


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2018#30

2018年7月23-29日

【まとめ】

・中国内政の噂が氾濫している。

内政分析には公開情報をじっくりと読み込む努力が不可欠。

・イランと米国が公開舌戦。米国はイランに対する攻勢を強めている。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイト https://japan-indepth.jp/?p=41189 でお読み下さい。】

 

 

 今週は、このコラムにしては珍しく、中国内政に関する「噂話」を真正面から取り上げる。理由は、ゴシップの中身もさることながら、この程度のことを大々的に報じるいい加減な中国関連記事が日本は勿論、世界にも少なくないからだ。最近はトランプ氏、金正恩氏、プーチン氏による田舎芝居の影で中国の出番がなかったからだろうか。まずは事実関係と噂の内容のみを可能な限り客観的に述べよう。

 

・7月4日朝、上海で若い女性が「習近平の独裁的専制的暴政に反対する」などと述べながら、市内の看板上の習近平の顔に墨汁をかけ、その後拘束された。

写真)習近平の顔に墨汁をかける動画をTwitterに投稿した董瑶琼さん
出典)Twitter華龍

 

・7月9日と15日付人民日報の一面に習近平」の文字がなかった。12日には北京の警察が「習近平の写真・画像やポスターおよび宣伝品」を撤去するよう通知した。

 

・最近、党内序列五位の王滬寧政治局常務委員・党中央書記処常務書記の動静が確認できなくなり、失脚が噂されている。 

写真)王滬寧政治局常務委員
出典)白桦, Voice of America

 

・香港メディアによれば、江沢民・胡錦濤・朱鎔基ら党長老が習近平への個人崇拝に不満を抱き、政治局拡大会議を開いて習近平を失脚させる動きがある。

写真)江沢民
出典)Presidential Press and Information Office

写真)胡錦濤
出典)Dilma Rousseff from Brasil

写真)朱鎔基
出典)Presidential Press and Information Office

 

 他にもあるが、もう十分だろう。これだけの事実と噂話だけで中国専門家の一部は実に尤もらしい解説をやってのける。大したものだ。習近平氏の権力集中と個人崇拝に対する不満が、民主活動家だけでなく、党長老や国営メディア関係者の間にも高まりつつあり、習近平派の要人や習近平氏自身も失脚した可能性があるのだという。

 

 本当かね?確か習近平氏は現在外遊中、帰国後は避暑地・北戴河で毎年恒例の共産党幹部非公式会議に臨むはずだ。よく考えてみたら、毎年「北戴河会議」の前後はこの種の面白可笑しい噂が氾濫する時期でもある。中国に限らないことだが、ある国の内政分析には公開情報をじっくりと読み込む努力が不可欠だと痛感する。

 

 公開情報という点なら、今週は次の誇り高き男同士の(およそ大人気ない)公開舌戦も実に興味深かった。主役はトランプ氏とイランのロウハニ大統領。現在米国はイランに対する攻勢を強めており、22日にはポンペイオ国務長官が亡命イラン人の前で政治・経済面などで対イラン圧力を強化すると演説している。ここからが面白い。

写真)イランのロウハニ大統領
出典)Mojtaba Salimi

 

  同日、ロウハニ大統領は「米国は・・・イランとの戦争があらゆる戦争の母となることを知るべきだ。君らはイランの安全と利益に反してイラン国民を扇動する立場にはない。

 

”America should know that …war with Iran is the mother of all wars. 

You are not in a position to incite the Iranian nation against

 Iran’s security and interests。”

 

などと述べ、「虎の尾を踏むな」と米国を強く批判、ホルムズ海峡の封鎖まで示唆した。

 

 これに対し、トランプ氏はこうツイートした。「イランのロウハニ大統領へ:努々(ゆめゆめ)米国を再び脅迫などするなよ。さもないと歴史上殆ど誰も被ったことのない結果になるぞ・・・。気を付けろ!

 

”To Iranian President Rouhani: 
NEVER, EVER THREATEN THE UNITED STATES AGAIN OR YOU WILL 
SUFFER CONSEQUENCES THE LIKES OF WHICH FEW THROUGHOUT
 HISTORY HAVE EVER SUFFERED BEFORE……BE CAUTIOUS!”

 

△トランプ大統領Twitter(2018年7月23日)

 

 実に品のない言葉の応酬だが、下品な米国人と誇り高きイラン人による「言葉のボクシング」、皆さんはどちらがのパンチがより優れていると思われるだろうか。個人的に筆者はwar with Iran is the mother of all wars という表現が気に入っている。恐らくペルシャ語の慣用句なのだろう。流石はイラン、ではないだろうか。

 

欧州・ロシア

 

 どうやら西欧は夏休みに入りつつあるようだ。目ぼしいところでは26日に仏大統領がスペインを訪問することと、同日にドイツで欧州各国中央銀行の会議が予定されていることぐらい。東欧もほぼ同様で、例外は28日から8月11日までロシア、中国、イランなどが主催する国際陸軍ゲーム大会、今年は27カ国が参加するという。

 

〇 中東・アフリカ

 

 シリアをめぐりイスラエルとイランとの対立が顕在化しつつあるが、24日には国連安保理でパレスチナ問題の公開討論が行われる。但し、中東現地では、冒頭ご紹介したイランと米国間の舌戦以外にあまり大きなニュースがない。一方、アフリカでは、今週韓国首相のタンザニア訪問とインド首相のルワンダ、ウガンダ訪問が予定され、25-27日にはBRICS首脳会議が南アフリカのハネスブルクで開催される。

写真)ルワンダを訪問したナレンドラ・モディ インド首相(左)と ポール・カガメ ルワンダ大統領(右)(2018年7月24日)
出典)ナレンドラモディTwitter

 

〇 東アジア・大洋州

 

 23日に南北朝鮮の卓球・射撃競技会が閉幕し、24日には南北で鉄道線路の共同検査を行うという。北朝鮮が非核化問題で全く動きを見せない中で、南北だけが動いているのは異様に見えるのだが、ご本人たちはそう思っていないようだ。27日に本来なら北朝鮮が米兵の遺体を返還する予定だったが、一体どうなるのだろう。

 

〇 南北アメリカ

 

 今米国でちょっとした騒ぎになっているのはトランプ氏の元個人弁護士の動きだ。この弁護士はトランプ氏と例のポルノ女優や元プレイメイトとの情事に関する口止め料支払いを仕切った男だ。3月初頭に事務所が家宅捜索されたのだが、何とそこでトランプ氏との電話会話の録音テープが出てきたのだという。これは面白い。

 

 ウォータゲート事件とは異なり、これまでトランプ氏のスキャンダルでは録音テープがなかったので、ようやく出てきたかという感じだ。トランプ氏は「彼が録音するとは思いもしなかった」と述べたそうだが、筆者だったら必ず録音するだろう。トランプ氏の朝令暮改は有名だから、録音でもしておかないと大火傷しかねないからだ。

写真)マイケルコーエン弁護士

出典)IowaPolitics.com

 

〇 インド亜大陸

 

 25日にパキスタンで総選挙がある。内容次第では来週取り上げよう。今週はこのくらいにしておこう。

 

いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

写真)習近平の肖像画前を行進する儀仗兵(2015年8月22日)
出典)美国之音


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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