"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

ドイツ最大の“難題”はトランプ氏

嶌信彦(ジャーナリスト)

「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」

まとめ】

・世論調査でドイツ人が選んだ最大の恐怖は「トランプ氏」。

・トランプ氏の「米国第一主義」が世界秩序を壊し始めている。

・米欧亀裂に中露が介入。冷戦期と異なる危険をはらむ。

 

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ドイツ人が恐れる最大の脅威は、アメリカのトランプ大統領だ」――ドイツが毎年行なっている世論調査「ドイツ人の最大の恐怖」の18年版にこんな結果が出て、EUの人々を驚かせている(ニューズウィーク誌9月18日号等)。

2400人を対象にしたR+V Versicherungenの世論調査の結果で、過去2年間トップだった「移民流入(63%)」「ユーロ圏の債務危機(58%)」「テロ(59%)」などを抑えて69%となり、1位となったのだ。トランプが1位になったきっかけは、リーマン・ショックだったようだ。そんな時期に何をするかわからないトランプ大統領が登場し、ますます先が読めなくなったと感じたのではないか。

▲写真 Lehman Brothers Asia headquarters(2008年4月1日 撮影地:東京)出典:frickr

リーマン・ショックはアメリカの大手証券「リーマン・ブラザーズ」が10年前に破綻して世界中の景気が「100年に一度の危機」といわれるほどおかしくなった事件だった。当時のアメリカは好況で低所得者層も「サブプライムローン」という高金利の住宅ローンを借りて住宅価格の高騰を期待し、多くの人が借りた。

しかし、住宅価格は期待以上に上昇せずローンを返せない人が続出した。しかもその住宅ローンを世界中の金融機関も「将来はトクする」と購入していたが、結局当てがはずれ住宅ローンを返せなくなる人が続出。その結果、世界中の住宅バブルの崩壊でリーマンが破綻しただけでなく、他の金融機関も巨額の損失を抱え込んだ。米のGMが破綻したばかりでなく、リーマンは世界不況に広がり人々の夢と暮らしが次々と崩壊し、再び失われた10年に脅える結果となる。

幸い日本は他国ほど資産の余剰がなかったため、他国に比べ比較的軽度の損害で済んだ。しかしアメリカでは派遣社員の雇用を打切る「派遣切り」で失業者が増大し、各国政府も派遣切り競争に走ったのだ。この結果、アメリカでは多くの失業者を生み、低所得者向けのフードスタンプ(食料費補助)まで発行されたほどだった。

その後は世界的な超低金利政策、雇用対策などで徐々に世界景気は回復してきたが、トランプ米大統領の登場でEUとの関係がガラリと変わった。ドイツの経済政策を名指しで批判し、ドイツの防衛費負担の増大やアメリカの貿易赤字削減への協力を強く要請して米独関係を一挙に悪化させた。

▲写真 NATO(北大西洋条約機構)首脳会議(於:ブリュッセル)に出席したメルケル独首相とトランプ米大統領(2018年7月12日)出典:メルケル独首相のインスタグラム

ロシアからガスを輸入するドイツのパイプライン計画に対しても“ドイツはロシアの捕虜”だと主張。米国製の防衛装備品の購入を求めGDP比4%の国防費増大を迫った(日本は0.9%)。それが出来ないなら安全保障上の脅威をタテに自動車への高関税をかけると脅しているのが実情なのである。トランプ氏のアメリカ第一主義が世界秩序を壊し始めているといえよう。

ただマクロン仏大統領やイタリアのコンテ首相らは、NATOの会議で新たな合意などはなかったと証言している。もし、アメリカの要求が事実なら日本の防衛費のメドはGDP比1%で、2017年度は0.9%にすぎなかったから、4%を求められているドイツとの差は大きく、今後日本に購入増大を迫る可能性が強い。通商と安保を絡ませてくるトランプの手法には批判は強いが、TPPや環境のパリ協定からも次々と離脱するアメリカのやり方に各国とも頭を痛めている。

その割れ目に入り込んできているのがロシアと中国で、7090年代の冷戦とはまた違った危険をはらんできたとみることもできる。

トップ画像:先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)2018年6月9日 於:カナダ・シャルルポワ 出典 メルケル独首相のインスタグラム