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.国際  投稿日:2018/9/13

トランプ政権暴露本に食傷気味


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2018#37 2018年9月10-16日 

 

【まとめ】

・トランプ政権匿名高官、ニューヨークタイムズ紙に寄稿事。

・WP紙ボブ・ウッドワード記者、トランプ政権暴露本書く。

・この手の書籍、既に数冊発売済。中身は概ね「似たり寄ったり」。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=41975でお読み下さい。】

 

 

先週は様々なことが起きた。例えば、新たなトランプ政権の暴露本出版大坂なおみ選手のUSオープン優勝北朝鮮でのICBM抜き軍事パレードの実施北海道地震。どれも重要に思えるが、筆者が最も関心を持ったのはトランプ政権の匿名高官によるニューヨークタイムズ紙への寄稿事件だった。
 

 この匿名高官寄稿事件については今週のJapan Timesと産経新聞にコラムを書いたので、ここでは繰り返さない。本稿ではワシントンポスト紙ボブ・ウッドワード記者が書いた「Fear」なるトランプ・ホワイトハウスの暴露本から始めよう。同書は9月11日に発売されるそうだが、正直言って、筆者はもう食傷気味である。何故かって?

写真)ボブ・ウッドワード記者
出典)パブリックドメイン

 この手の書籍は既に数冊発売されているのだが、中身は概ね「似たり寄ったり」だからだ。これまでの暴露本の著者はいずれも無名だったが、今回の著者は1972年のウォーターゲート事件の際に有名になったウッドワード記者だから本物、読む価値があるなどと言われるが、○○記者だから信用できるというのも変な議論ではないか。

 続いて、大坂なおみ選手の快挙について。米国の観客がウイリアムズ選手を贔屓していたことは理解できる。だが、彼女が主審の判断を不服とし、かっとなって暴言を吐き、ラケットをコートにたたきつけ、喚き散らしたことが「性差別に反対する女性の行為」とは思えない。ウイリアムズ選手は何か勘違いをしているのではないか。

 なおみ選手は幼少からフロリダで育ち、日本語より英語が達者の米国人に近い人物かと思っていたが、授賞式での「こんな終わり方ですいません」という発言を聞いて、彼女はやっぱり日本人だと確信した。米国人ならあの場であのような発想の発言はしない。日本語は達者でなくても、彼女の勝利は間違いなく「日本人初」である。

写真)大坂なおみ選手(2014年東レ パン・パシフィックオープン)
出典)Tatiana from Moscow, Russia
 

 続いて、ICBMのない北朝鮮の軍事パレードだが、これも大騒ぎする方がおかしいだろう。「非核化」に関する北朝鮮の立場は変わっていない。ICBM参加の有無にかかわらず変わらない。それより、あの「超アナログ」の巨大マスゲームだが、あれこそ国連の世界文化遺産に指定すべきだ。あんなことができる国は北朝鮮が最後だろう。

写真)世界最大のマスゲーム。後方の背景は人文字。(アリラン祭)
Photo taken by Gilad Rom

 
 欧州・ロシア

 10日から米国の通商特別代表がベルギーを訪問し、EU側と協議を行う。今度のUSTRは手強いから、ブラッセルでは再び火花が散るだろう。それにしても、西欧はどうなっていくのか。あのスウェーデンでも極右勢力が支持を伸ばしているという。数カ月前に訪れたストックホルムの郊外はまるで中東の中規模都市のようだった。

 案の定、9日投開票のスウェーデン議会選挙では、「反移民」を掲げて、一時は第1党をうかがう勢いを見せた極右・民主党が改選前の42議席から62議席へ勢力を伸ばしたという。結果的には改選前と同じく第3党にとどまったが、これからの連立工作は難航しそうだ。スウェーデンよ、あなたもか!と言いたいところだ。
 

写真)スウェーデン民主党 ジミーオケーソン党首(2018年9月9日)
出典)国民主義政党 SD ウェブページ

〇 中東・アフリカ


 シリア情勢が緊張しつつある。北西部イドリブに対する総攻撃が迫っているからだ。このままでは多数の犠牲者と最大数百万の難民が生まれる。米露両国は化学兵器を巡り相互批判を強めており、今後直接衝突はないものの、両国軍が直接対立する事態の中で緊張が続く可能性もある。今週はシリアに注目する必要がありそうだ。
 
 東アジア・大洋州

 

 金正恩がロシア訪問を計画しているという。ロシアの報道では、11日からのウラジオストク・東方経済フォーラムには出席できないが、プーチン大統領の招待を受けロシア訪問の準備を進めていると述べたそうだ。露朝首脳会談が開かれれば、再び北朝鮮の得点となるだろう。一方、安倍首相は同地で再び日露首脳会議を行う。
 
〇 南北アメリカ

 今週ホワイトハウスでは「魔女狩り」が続く。「匿名トランプ政権高官」探しは今や数人に絞られたとも報じられたが、そんなに簡単に見つかるだろうか。ウォーターゲート事件の「ディープスロート」はFBIの副長官だったが、それが明らかになったのは事件から30年後のことだ。犯人捜しするエネルギーがあるなら別のことをやったらどうか。
 
〇 インド亜大陸


 特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真)”Fear” by Bob Woodward
出典)amazon


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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