朝韓中が画策「米朝終戦宣言」(下)
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
【まとめ】
・「終戦宣言」は準平和協定に同じ。韓米連合体制瓦解もたらす。
・「非核化前の終戦宣言」なら南北による「対トランプ欺瞞策」は成功。
・「非核化先行」の原則をトランプ大統領が守り通せるかが焦点。
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■ 「非核化交渉」に「米朝終戦宣言」を絡める南北首脳
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は9月7日、インドネシア紙「コンパス」に掲載された書面インタビューで「韓半島の非核化と平和定着について、年末までに後戻りできないほど進めることが目標」と明らかにし、そのために年内の終戦宣言採択に向けた戦略推進を本格化する構えを見せた。
通常「終戦」が「戦争による征服」の方法で終わる場合は、「戦争の終結」と「平和の回復」は「戦勝国」が一方的に「終戦を宣言」する方法で行われる。この場合の代表的な事例としては、第二次世界大戦や太平洋戦争の終戦処理過程がある。
しかし、フランスのパリで、1968年5月13日から北ベトナムと米国の間で始まり、1969年1月25日からは南ベトナム政府と南ベトナム解放民族戦線が加わって、4者による会談となった「ベトナム戦争終結のための交渉」は、過去とは異なる新しい形態の「終戦」、すなわち「戦勝国」も「敗戦国」もない「終戦」をもたらした。
そしてそれは、1973年1月27日に「ベトナムでの戦争終結と平和回復のための協定」(Agreementon Ending the War and Restoring Peace in Vietnam)へとつながり、アメリカは南ベトナムから全軍隊を撤収した。戦争の早期終結による「ベトナム脱出」を急いだ米国が、過去の終戦方式を放棄して、共産主義陣営の主導した方式で戦争を終わらせたのである。
▲写真 1973年1月27日、協定調印の様子 出典:Knudsen, Robert L.
その結果、武力による南北ベトナムの統一がもたらされたが、43年が経過した今、朝鮮半島で「パリ和平交渉」の焼き直しともいえる「米朝終戦宣言」が持ち出されている。金正恩政権と文在寅政権はいま共同作業によって「米朝終戦宣言」→米朝平和協定→在韓米軍の撤退とのプロセスを「朝鮮半島非核化交渉」に絡めて進めているのである。
■ 終戦宣言の危険性
こうした視点から専門家は「米朝終戦宣言」がもたらす危険な結果を次のように指摘している。まず、終戦宣言は文在寅大統領の解釈のように単純な政治的宣言でなく、客観的には準平和協定である。平和協定の効果をもたらすという点だ。
ソウル大ロースクールのイ・グングァン教授は「(終戦宣言が)地球上最後の冷戦地域と呼ばれる韓半島(朝鮮半島)の戦争状態を終了させる政治的・外交的・軍事的意味を持つ」とし「戦争の終了、平和条約の締結など国際法上の重要な範ちゅう」と主張した(『韓半島終戦宣言と平和体制樹立の国際法的含意』)。
▲写真 イ・グングァン教授 出典:ソウル国立大学公式HP
ドイツ駐在韓国武官だったキム・ドンミョン氏は、平和協定が締結されるには韓半島(朝鮮半島)に戦争が再発する危険があってはならないと主張した。そのためには南北間の戦争の根源である核が、終戦宣言や平和協定の前に除去されなければいけないということだ。
ところが米情報当局を引用した海外の報道によると、北朝鮮は現在60個ほど核弾頭を保有し、さらに生産中だ。戦争の要因が除去されるどころか、むしろ大きくなっているという。したがって彼は、韓国政府は終戦宣言を急ぐ前に北朝鮮に非核化を先に促す必要があると主張する。
準平和協定の意味を持つ終戦宣言は、韓米連合体制の瓦解をもたらす。まず、在韓米軍の撤収と国連司令部の解体だ。
この2つは北朝鮮が1975年に国連総会で主張して以来、常に言及してきた。北朝鮮は終戦宣言と共に平和協定の議論が本格化すれば在韓米軍と国連司令部の問題をまた持ち出すというのが専門家らの予想だ。もちろん在韓米軍は韓米相互防衛条約に基づいた韓米同盟レベルで駐留していて、終戦宣言や平和協定とは関係がない。国連司令部の解体も米国の所管というのがガリ元国連事務総長の北朝鮮に対する公式答弁だった。
▲写真 在韓米軍の様子 出典:U.S Forces Korea
そうであっても問題は、終戦宣言をすれば在韓米軍と国連司令部の存続に影響が及ぶという点だ。さらに韓国政府があいまいな態度を見せて反米世論を動員すれば韓米同盟は打撃を受ける。
2つ目は、終戦宣言をすれば、韓米連合訓練が中断せざるえないことになる点だ。南北と米国が戦争終了を宣言すれば、北朝鮮の挑発に備えた連合訓練をする名分はなくなる。在韓米軍が韓国軍と訓練をしなければ駐留自体が難しくなる。訓練しない軍隊は存在理由がないからだ。
▲写真 米韓の軍人が合同演習で火を消す様子 出典 U.S Forces Korea
3つ目は、西海(ソヘ、黄海)北方限界線(NLL)の消滅だ。
NLLは韓国戦争(朝鮮戦争)後にクラーク国連軍司令官が南北間の衝突を防ぐために設定した。したがって終戦宣言をすればNLLはもはや有効でないというのが韓国元外交部当局者の解釈だ。問題はNLLがなくなれば南北間には領海(12海里)だけが認められる。領海の外側の公海で北朝鮮の出入りが自由になる。北朝鮮の海軍がペクリョン島や延坪島(ヨンピョンド)の後ろを通過し、仁川(インチョン)沖まで接近することもあるということだ。この場合、西海平和水域は容易に形成されるが、北朝鮮はいつでも奇襲攻撃ができる。南北間の海上衝突の可能性がさらに高まるという逆説が生じる。
▲写真 NLLのイメージ画像 出典:Midway
4つ目は韓国の軍事作戦計画の弱化だ。終戦した以上、北朝鮮の挑発はないという仮定のもとで作戦計画の全般的修正が避けられない。したがって作戦計画は守勢的になるのが明らかだ。作戦計画が守勢的に変われば、対応態勢も弱まり、軍は弛緩する可能性がある。
すでに今年の国防白書で「北朝鮮軍=主敵」概念を削除し、大量反撃報復戦略で「斬首」という用語も使っていない。さらに韓国軍の攻撃的で威力が大きい武器体系の確保は制限されるだろう。しかし北朝鮮の核兵器は増え、2020年には最大140-150個になるという計算が現在の現実だ。それだけに北朝鮮の非核化において挑発要因を完全に除去しない状態での終戦宣言は、我々が自ら武装解除する姿になるしかない(「中央日報」日本語版2018年08月24日)
■ 「米朝終戦宣言」は盧武鉉政権時代にも持ち出された
朝鮮半島の終戦宣言は4・27板門店(パンムンジョム)首脳会談で南北が合意した事案だが、過去盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領当時にも推進された。2006年11月にハノイで開催された韓米首脳会談で、ブッシュ米大統領は北朝鮮が核開発を放棄する場合の「韓国戦争(朝鮮戦争)終了宣言」を提示した。この提案は盧政権で終戦宣言と平和協定の段階的推進という構想に発展した。首脳らが会って終戦宣言を発表して北朝鮮核廃棄の動力を確保した後、北の核が完全に廃棄される時期に恒久的な平和協定を締結するという2段階プロセスだ。こうした盧政権の構想は1年後、第2回南北首脳会談で発表された「10.4宣言」(2007年10月)で「終戦宣言の推進に協力する」という形で整理された。しかし終戦宣言の推進は北朝鮮の2回目の核実験(2009年5月)で消え去った。
▲写真 2006年11月、ハノイで三者協議を行うブッシュ大統領、安倍首相、盧武鉉大統領 出典:The White House photo by Eric Draper
文政権に入っていままた推進されている終戦宣言は、10年前と似ている。盧政権当時も今も終戦宣言と北の核問題をめぐる南北と米国の立場はほとんど同じ構造だ。米国は「北朝鮮非核化→終戦宣言」という立場だが、韓国政府は「終戦宣言→北朝鮮非核化→平和協定」だ。この立場は金正恩委員長の主張と一致している。南・北の政府は終戦宣言を催促するが、米国は非核化が前提条件だとしその立場を譲っていない。
米中間選挙を前にして、金委員長の新たな「親書」がポンペオ国務長官を通じてトランプ大統領に渡されたというが、この状況下でトランプ大統領がこの原則を守り通すか否かが注目されている。もしもこの原則が崩され、北朝鮮の完全な非核化前に終戦宣言が行われれば、文・金両首脳の仕掛けた「対トランプ欺瞞策」はほぼ成功したと見ることができるだろう。
トップ画像:2018年6月12日に開催された米朝首脳会談 出典 The White House facebook
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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統