"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

対中国、米海兵隊組織大改革

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の安保カレンダー【速報版】2020#21」

2020年5月18-25日

【まとめ】

・米海兵隊は東アジア海域での新任務に向け組織大改革を始めた。

・従来の米海兵隊の部隊編成から戦い方までを根本から大胆に変更。

・米海兵隊大改革の成否が東アジア洋上での対中抑止のカギを握る。

 

先週も、夕方になると東京都と日本全国の毎日の新規感染者数を聞いては一喜一憂する摩訶不思議な生活が続いた。実は筆者、意外に出不精でこんな単調な生活でも結構満喫してきた。しかし、さすがにこれだけ在宅生活が続くとフラストが溜まってくる。若い人たちが外出の欲望を抑えきれないのも理解できない訳ではない。

それはともかく、最近久しぶりで米上院軍事委員会の予算審議の模様をネットで詳しく見る機会があった。特に、3月5日の審議記録と3月20日に発表された「2030年の戦力設計Force Design 2030」と題する米海兵隊総司令官David Berger大将署名入りの文書は精読に値すると感じた。今週のハイライトは米海兵隊の進化だ。

長い話を短くすれば、本来水陸両用部隊として発足・進化してきた米海兵隊は、1991年の同時多発テロ以来、過去30年間、水陸両用戦闘とは異なる中東の砂漠・土漠での過激派武装勢力との戦闘の明け暮れてきた。しかし、大国間競争の時代に入った今、海兵隊は東アジア海域での新任務に向け組織大改革を始めたという。

この件について日本の大手マスコミの注目は未だないが、Wall Street Journal日本語版がかなり詳しい記事を書いている。また、日本の一部の軍事オタクも関心を示し、「海兵隊の大改革は海兵隊の地対艦ミサイル部隊化、すなわち地対艦ミサイルを装備して中国海軍と戦う、というのが骨子だ」などと要約する向きもある。

それ自体間違いではないのだが、実はこの大改革、そんな単純なものではない。従来の米海兵隊の部隊編成から戦い方までを根本から大胆に変えようとしている。例えば、これまで7個もあった戦車中隊を全廃するというのだから、半端ではない。この点については外務省時代筆者の同僚でもあった渡部悦和氏の小論がお勧めだ。

なぜ筆者は海兵隊に拘るのか。それは、この大改革の成否が東アジア洋上での対中抑止のカギを握るとともに、在沖海兵隊の活動の変化、具体的には、今後海兵隊がいかなる新戦略・戦術を採用するかが、沖縄における基地問題や日米共同行動の行方に大きな影響を与えるに違いないと思うからだ。極めて要注意である。

▲写真 米海兵隊基地キャンプ・キンザー(浦添市) 出典:在日米海兵隊

アジア

18日夕のWHO総会TV会議に台湾は招待されず。当然呼ばれるべきだろうが、今やコロナ問題を政治化しているのは米中両大国というお粗末。台湾が可哀そうだ。

 

〇欧州・ロシア

欧州は夏のバカンスに向け動き始めた。、イタリアがEU諸国からの出入国を自由化すれば、フランスがそれに噛みついている。バカンスで第二波なんて縁起でもない。

 

中東

もうすぐラマダン(断食)月が明け、イード休みが始まる。普通ならモスクは人で埋まり、民族大移動となるのだが、これまた、第二波の原因にもなりかねないので、心配だ。

 

〇南北アメリカ

激戦州の米共和党元知事が「トランプのバイデン叩きは効果なし」「大統領選はコロナと経済に関するトランプの信任投票となる」と言い出した。無視できない発言だろう。

 

〇インド亜大陸

インドはコロナ対策ロックダウンの期間を三度延長し、5月末まで続けるという。17日の新規感染者が5000人弱というのだから恐れ入る。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:米国海兵隊C-130Tヘラクレス航空機の飛行 出典:Flickr; U.S. Department of Defense Current Photos