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.国際  投稿日:2023/4/4

試される「アメリカらしさ」


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#14

2023年4月3-9日

【まとめ】

・次の大統領選挙に向け、米国は再び大きな試練に直面し始めている。

・アメリカは「アメリカらしさ」を保ち続けるのか普通の国に変質していくのかの選択を迫られている。

・いずれは日本も「日本らしさ」を試されるときがくる。

 

先週は2泊3日でワシントンに出張してきた。会食やアポイントは最小限だったが、最も重要な出張目的は一応達成できたので安堵している。米国首都への出張は4カ月ぶりだったが、次の大統領選挙に向け、あの国は再び大きな試練に直面し始めているなと感じた。詳細は今週のJapanTimesコラムに書いたのでご一読願いたい。

簡単に言うと、「今アメリカはそのアメリカらしさが試されている」ということ。これに気付いたきっかけは、到着時に公共機関の国旗が全て半旗だったこと、滞在中に前大統領が30もの罪状によりニューヨーク州で起訴され、ロシアで米有力紙記者がスパイ容疑で拘束されたことだった。

僅か二泊の短い出張だったが、今回も多くのことを学んだ。今はアメリカの良心が試されている。そして、いずれは日本も日本らしさを試される時が来ると直感した。

日本ではあり得ないことだが、ナッシュビルの小学校で銃乱射事件が起き、9歳の小学生3人を含む6人が射殺されたのに、米議会が銃規制強化へ動く気配はない。マンハッタンの地方検事が明らかに政治的意図をもって前大統領を起訴したが、それが民主党にとって有利か不利かは正直現時点ではわからない。続いて、ロシアでウォールストリートジャーナルの若い記者がスパイ容疑で拘束され、アメリカ外交は再び、度重なるロシアの人質戦術に翻弄され始めたかのようである。

3つの事件が僅か数日の間に起きたこと自体は偶然だろうが、それが暗示する問いかけは明らか。要するに、これら3つの事件はアメリカの社会、内政、外交、究極的には、その「アメリカらしさ」そのものに対する重大なテスト、挑戦ではないのか、ということだ。アメリカは例外であり続けるのか、ごく普通の国に変質していくのか

これらの問いかけは実は今の日本にも言えること。第二次大戦後、日本は戦前の戦略的判断ミスを深く反省し、正しい同盟に復帰して、壊滅的打撃を受けた経済を再興し、民主主義を回復した。しかし、1990年代以降、日本社会は以前のような活力を失い始め、社会、内政、外交の各方面で大きな挑戦に直面しているのではないのか。

もう一つ、今週気になったのはAIソフトChatGPTの凄さである。昨日、米国に住む娘一家とチャットしていたら、IT専門家の夫君がネット上でこんなものを見付けた、といって以下の文章を送ってくれた。

●宮家邦彦氏は外交政策や安全保障問題に関する見解を提供しているものの、あくまで現実的な立場から分析を行っているようだ。そのため、左派や右派などの政治的イデオロギーに拠らず、日本の国益を重視し、国際社会における積極的な役割を果たすことを目指しているようである。

「誰がこんなことを書いたのか」と問うと、「宮家邦彦の政治的イデオロギーは?」なる問いへのChatGPTの答えだと言われ、文字通り、驚愕した。しかも、この無料ソフトはまだサービスを開始したばかり。ChatGPTがこれほどの実力であれば、将来のAIソフトの能力向上は末恐ろしいと思った。

他方、現時点ではChatGPTにコラムを書かせるのは無理だとも実感している。この顛末は今週の産経新聞WorldWatchに書いたのでご一読願いたいが、うーん、やっぱりエッセイやコラムは自分で書くしかないのかなぁ。執筆をAIに任せるのは当分無理、どうやらこれが結論のようである。

〇アジア 

林外相の訪中に関し、中国共産党系「環球時報」電子版が「悪人の手先となって悪事を働かないことが日本の対中外交の前提となるべきだ」「外交と軍事の面において、日本は中国への敵意をもはや隠すことも抑制することもしなくなった」などと報じているそうだ。これを「敵意」と見誤る判断ミスに中国側は未だ気付かないのだろうか。

〇欧州・ロシア

サンクトペテルブルクの「ワグネル系」のカフェで爆発があり、著名な軍事ブロガーが死亡した。直前にブロガーに贈られた置物が爆発したらしく、容疑者の女性が逮捕されたが、ロシア側はウクライナ黒幕説などを流している。ロシアでは米国とは別の理由で多くの人が亡くなっているようだ。

〇中東

「OPECプラス」が日量200万バレルの原油減産を維持する一方、サウジアラビアなど産油国の8カ国が5月から年末にかけて自主的に日量116万バレルを減産する方針を示した。サウジアラビアは本気でバイデンに喧嘩を売っているようだが、大丈夫なのか。MBSの若さが気になるところだが・・・。

〇南北アメリカ

ニューヨーク州で起訴されたトランプ前大統領がニューヨークに到着、4日、裁判所に出頭し罪状認否(arraignment)に臨むそうだ。「これほど悪質でおぞましい攻撃を受けた大統領はいない」と徹底抗戦する構えだが、「これほど悪質でおぞましい大統領はいない」と言うべきではないのかねぇ。

〇インド亜大陸 

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:大陪審によって起訴され、罪状認否するためにトランプタワーを訪れたアメリカ前大統領のトランプ氏(2023年4月3日アメリカ・ニューヨーク)出典:Photo by Michael M.Santiago / Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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