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.国際  投稿日:2023/1/24

LA郊外銃乱射、容疑者の男とは


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#4」

2023年1月23-29日

【まとめ】

・春節大晦日にロス郊外でアジア系男女11人がアジア系の72歳男性に銃殺された。

・容疑者もアジア系と判明したことで、人種差別問題よりも犯人の動機に関心集まる。

・日本の宗教団体が沈黙を守る中、ユダヤ教ラビばかりが人権侵害について声をあげている現状は情けない。

 

先週は「大きな国際ニュース」のない「比較的平和な週」と書いた。ところが先週末の旧正月・春節大晦日の夜、実にショッキングな事件が米国ロサンゼルス郊外のアジア系住民が人口の6割を超える地区にあるダンススタジオで起きた。新年お祭り気分の中で銃乱射事件が起き、アジア系男女11人が殺害されたのだ。

逃走の末に自殺した容疑者も同じアジア系の72歳の男だったという。当初、米マスコミの関心は事件が「ヘイト犯罪」か否かだった。ところが、容疑者と被害者の多くがアジア系と判明してからは、人種差別問題というよりも、容疑者個人の動機に関心が移りつつあるようだ。

それでも日本での関心は案の定低い。NHKは事件の背景について「容疑者は72歳のアジア系の男で、今後事件の動機について捜査を進めることにしています。乱射事件の現場は、アジア系の住民が多く暮らす地域で、事件の発生を受けて旧正月を祝うイベントが打ち切られるなど、地域に不安が広がりました。」としか報じていない。

一方、現地での報道によれば、自殺した容疑者は1950年生まれのベトナム系米国人Huu Can Tranで、1990年代に米国に帰化した後、事件が起きたダンススタジオに通うようになり、時々ダンスを教えていたらしい。そこで知り合った女性と結婚したがその後離婚して現在は独身だが、自宅には大量の武器弾薬があったという。

現場付近の住人は圧倒的に中国系が多いため、当初はアジア系コミュニティを狙った反アジア・人種差別犯罪かと心配された。だが、今は離婚した女性をめぐる事件か、ベトナム系と中国系の軋轢なのか等の噂が流れている。今米国のアジア系社会で何が起きているのか。その動向は日本にも影響があるだけに気になるところだ。

偶然だが先週、そのロサンゼルスからサイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)のユダヤ教ラビであるA・クーパー師が来日していた。久しぶりの再会であり、キヤノングローバル戦略研究所の外交安保TVに出演してもらった。2月にはウェブサイトに上がると思うので、ご視聴くだされば幸いである。

ちなみに、SWCといえば1995年2月に「マルコポーロ事件」で某大手出版社が自主廃刊に追い込まれた事件を思い出す。しかし、SWCは決して政治的圧力団体ではない。今回もクーパー師は信仰の自由の観点から、中国によるウイグル弾圧を厳しく批判しているが、これは設立以来SWCの一貫した姿勢である。

ユダヤ教のラビが中国のイスラム教徒の信仰の自由を守ろうとしている。日本内外の宗教団体の多くが沈黙を守る中、SWCの行動には一本筋が通っていると思う。人権擁護、人種・宗教等による差別を声高に批判するのがユダヤ系団体ばかりというのでは、あまりに情けない話ではないか。

〇アジア 

中国疾病予防コントロールセンターは、1月13-19日にコロナ関連の死者が1万2658人、今回の感染拡大で全人口の約80%がコロナに感染したとの見方を示したそうだ。ええっ、ゼロコロナじゃなかったの?人口の8割といえば12億人が感染したというのかね?中国はいつも極端から極端に振れる国、どちらも全く信用できない。

〇欧州・ロシア

ドイツは最新鋭戦車の対ウクライナ供与の判断を先延ばししたが、これって、ドイツ国防相が交代したことと関係があるのだろうか。確かポーランドはドイツ製同型戦車をウクライナに供与したいけれど、ドイツの了解が必要という話もあったと記憶する。ドイツの国内は相当混乱しているのだろうか。気になるところだ。

〇中東

昨年末に連立政権が発足し首相に返り咲いたばかりのネタニヤフ・イスラエル首相が内相を解任したそうだ。最高裁の罷免要求に抗し切れなかったという話だが、イスラエルの民主主義は本当に大丈夫なのか。この戦いはイスラエルの超保守派と比較的穏健な法曹界との争いであり、これで終わることとは到底思えない。

〇南北アメリカ

 バイデン大統領の私邸や事務所を捜索して機密文書が見つかった件で、ホワイトハウスはバイデン氏の個人弁護士が司法省に「自発的かつ積極的な申し出」を行った結果だと述べたそうだ。リベラルメディアはトランプ氏が機密文書を持っていたケースとは質的に違うと大統領を擁護しているが、「どっちもどっち」ではないのかね。

〇インド亜大陸 

 特記事項なし。今年はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真:NYマンハッタンで、65歳のアジア系アメリカ人女性がヘイトクライムの被害に遭ったことについて抗議する親子。(アメリカ・ニューヨーク、2021年3月30日)

出典:Photo by Michael M. Santiago/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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