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.国際  投稿日:2021/4/21

日米共同声明、台湾問題に言及


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2021#16」

2021年4月19-25日

【まとめ】

・4月17日、バイデン大統領初の対面会談として日米首脳会談が実施された。

・日米共同声明は台湾問題に言及、中国は怒りを露わに。

・台湾関連で日本外交の正念場が近く到来するかもしれない。

 

筆者にとって怒涛のような週末が漸く終わった。バイデン大統領は、就任後初めて対面で会う外国首脳として、アジアの同盟国日本の菅義偉首相を選んだ。ある日本の世論調査では今回の首相訪米を成功と見る意見が約6割を占めた。国民の皆さんも見るべき所はしっかり見ているのだなぁ、と妙に感心した。

結局、過去4日間で関連記事を3本書き、TV出演が4回あったことになる。深夜ようやく帰宅したら、何と外交安保カレンダーを未だ書いていないことに気付いた。今日はTV出演が連続して2本あり、共同声明から台湾問題、更には米中関係まで、話すだけ話したので、声が枯れてしまった。でも、原稿ならまだ少し書けそうだ。

日米首脳会談関連では、毎日新聞政治プレミアに今回の日米共同声明の意義を、過去の例と比較しつつ書いた。今回は共同声明の他に、経済協力と気候変動のペーパーも作った。さぞ文書作成作業は大変だったに違いない。そうした文書を作るのも、あまり目立たないが、重要な外交である。皆さん、お疲れ様でした。

日経ビジネスオンラインには、中国側から見た日米共同声明の問題点について書いた。こともあろうに、菅・バイデン首脳会談後の共同声明で、中国側が一番触れて欲しくない台湾問題に言及したのだから、中国側は怒り心頭だろう。でも、台湾については3月の日米2+2会合文書で既に触れているのだから、想定内の筈だ。

今更、「強烈な不満と断固たる反対」と言われてもね、というのが率直な気持ち。それにしても、中国はこれからどうする積りだろう。強硬策に出れば、日米は益々結束し、台湾支援を本格的に始めるだろう。しかし、黙っていれば、米側は中国の反応がそれほど強烈でもないと考え、やはり台湾支援を強化するかもしれない。

されば、どちらに転んでも、中国の強硬姿勢は当分続くのだ。勿論、問題の真の解決策は中国の政策変更である。だが、1930年代の日本と同様、今の中国では、そのような「譲歩」は「弱腰外交」として徹底的に糾弾されるのがオチだろう。されば、台湾関連で日本外交の正念場が意外に早く到来するかもしれない。要注意である。

▲写真 日米首脳会談の様子(2021年4月16日 ホワイトハウス) 出典:Doug Mills-Pool/Getty Images

最後に、今回の総理訪米関連で一言。どんな世界でも同じだろうが、仕事ができる人間には、「無駄に喋って人々をかき回し成果を独り占めしようとする輩」もいれば、「必要にして十分な事しか言わないが、きっちり結果を出す人」もいる。もしなれるなら、私は後者になりたい。

なお、総理訪米中のワシントンの雰囲気については、今週の辰巳由紀さんのデュポン・サークル便りに書かれているので、是非ご一読願いたい。

〇アジア

中国の温家宝前国務院総理がマカオ紙への寄稿で「中国は『公平と正義に満ちた国』であるべきだ」「侮辱や抑圧に反対する」「永遠に人の心や人道、人の本質が尊重され、永遠に青春や自由の気概があるべきだ」などと述べたそうだ。素晴らしいと思うが、今これを言えるのが78歳の元国務院総理ぐらいしかいない点が気になる。

〇欧州・ロシア

健康状態が懸念されていたロシアの野党指導者ナワリヌイ氏は、刑務所内でハンガーストライキを続け、受刑者用の病院へ搬送されたそうだ。現時点で健康状態は「申し分ない」と発表されたが、本当だろうか。ロシアが人の命を何とも思わない国民ばかりでないことを祈ろう。

中東

英エコノミスト誌のコメントが面白い。「中東での中国の独特なアプローチ、即ち、価値観よりも利害に重きを置き、ほとんどの外国人はカネで動かせると想定するもの、は、中東の泥沼を回避する上で役立つと確信しているようだ。」中東だけでなく、世界にはカネで動かない国もある。ウイグル問題は中東で中国のアキレス腱となるだろう。

〇南北アメリカ

イヴァンカ・トランプが自身のコロナワクチン接種につきツイートしたら、反ワクチン派の共和党支持者らから批判されたそうだ。そもそもイヴァンカが表に出るのは3カ月ぶり。彼女は一族の中では「まとも」な方だが、その彼女が批判され、肝心の父親も今は影が薄い。「人の噂」も75日というが、トランプ家のカムバックはあるのかなぁ。

〇インド亜大陸

一時は「終盤」宣言まで出たインドのコロナ感染だが、最近再び感染者が急増し、今や過去最多を更新しているという。報道によれば、昨年9月に9万3000人だった一日当たりの新規感染者は2月中旬に1万1000人にまで減少。それが今や一日27万人を超えたというから、流石インド、スケールが違う。しかも、今インドの5州で行われている選挙では、マスク着用や社会的距離確保など感染防止対策があまり取られていないらしい。うーん、やっぱり民主主義インドは恐るべし、だ。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:共同声明を出す菅首相、バイデン大統領(2021年4月16日 ホワイトハウス) 出典:Doug Mills-Pool/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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