"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

日本は中国に誤ったメッセージ送るな

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2020#49」

2021年12月6-12日

【まとめ】

・今週は、米ロ首脳会談、民主主義サミットが開催される。

・米国、正式に北京冬季オリンピック開会式の「外交ボイコット」発表。

・日本は、米国と全く同じである必要はないが、決して中国に誤ったメッセージを送ってはならない。

 

今週のハイライトは二つ、第一は12月9~10日に米国がバーチャルで主催する民主主義サミットであり、第二が、順序は逆だが、7日に予定される、これまたバーチャルの、米露首脳会談である。更に、この原稿を書いている最中に米国が正式に北京冬季オリンピック開会式の「外交ボイコット」を発表した。今週は盛り沢山だ。

まずは民主主義サミットから始めよう。目的は「国内の民主主義を刷新し、海外の独裁国家に立ち向かうため」であり、テーマは「権威主義からの防衛」「汚職への対処と戦い」「人権尊重の推進」の3つなのだそうだ。108の国・地域が参加するというが、国際的には批判も多く、「盛り上がっていない」といった酷評すらある。

盛り上がるかどうかは別として、中露が招かれないのは当然としても、招待の仕方に一貫性がないとの批判は少なくない。だが、このサミット、正式名称はThe Summit for Democracyだから、必ずしも民主主義国家・地域の首脳が参加する会議ではないようだ。例えば、中東からはイスラエルが出席し、同盟国トルコは呼ばれていない。

一方、アラブ諸国の中では唯一イラクが呼ばれている。イラクが民主主義なら、チュニジアはどうなのか?こんなことを言いだしたら、キリがない。批判は結構だが、あまり議論しても仕方がない。どうせバイデン政権内のリベラル知恵者が考え出したのだろうが、要はバイデン政権の政治ショーだと割り切れば良いのではないか。

続いて、米露首脳会談だが、これの方が実質的意味はありそうだ。最近ロシア軍がウクライナとの国境付近に大軍を終結させており、来年早々にも侵攻するかもしれないという情報が流れたからだ。プーチンは再びウクライナに干渉するのか、それとも単なるデモンストレーションなのか。会談後のバイデンの発言が注目される。

しかし、筆者の見立てはどちらでもない。プーチン大統領は無駄なことをする男ではない。では彼は今一体何を考えているのか。筆者は諸外国の出方を見極める「テスト」をしているのだと考える。残念ながらロシアはもはや超大国ではない。現下の国際情勢は米中の覇権争いであり、ロシアの出番は以前ほどないのが実態だろう。

それでも、プーチンはロシアの国益を最大化することに拘っている。ウクライナの動きも、中国と日本を一周する共同訓練を行ったのも、基本的には、米中対立の下で、日米欧各国がどのように動くかを探り、相手にスキがあれば、直ちにロシアの国益を最大化するため武力を含む具体的措置をとることを躊躇しないのだろうと思う。

さて、最後は北京冬季五輪の「外交的ボイコット」であるが、米国が正式に決定した以上、問題は他のどの国が米国と歩調を合わせるかとなるだろう。結論から言えば、日本がすべきことは、日本の国益の最大化と正しい対中メッセージを送ることの二つである。選択肢の幅はかなり広いので具体的には言及したくない。

▲写真 米国の北京冬季五輪の「外交的ボイコット」を表明するサキ報道官 (2021年12月6日) 出典:Photo by Chip Somodevilla/Getty Images

要するに、米国と全く同じである必要はないが、決して中国に誤ったメッセージを送ってはならないということだ。中国は表向き「気にしていない」フリをしているが、内心は気になって仕方がないはずだ。そうであれば、中国に正しいメッセージを送るチャンスは今である。現時点で日本がその具体的内容を決める必要はないだろう。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:11月の雇用報告について会見するバイデン米大統領(2021年12月3日、ホワイトハウスにて) 出典:Photo by Anna Moneymaker/Getty Images