サミット成功もたらした岸田首相の強運
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#21
2023年5月22-28日
【まとめ】
・広島G7サミットほどglobalで、substantive、かつconsequentialな首脳会合は開かれないのでは。
・中国、ロシア、北朝鮮など武力による勢力の国際秩序への挑戦が本格的に始まった。
・岸田首相以下、日本政府の努力は称賛に値する。
今週は何と言っても、広島サミットだろう。外務省入省直後の1979年東京サミット以来、40年以上G7首脳会合をフォローしてきたが、今回ばかりは脱帽だ。こんなことが日本で起こるなんて想像もしなかった。今年の広島G7サミットほどglobalで、substantive、かつconsequentialな首脳会合は、当分開かれないのではないか。
今や新たな国際・国内政治環境が生まれつつあることを実感する。ウクライナ戦争が長期化する中、中国、ロシア、北朝鮮など武力による現状変更を試みる勢力の、国際秩序への挑戦が本格的に始まった。そうした中、アジアで開催されたのが広島G7サミットだ。お世辞抜きで、岸田首相以下日本政府の努力は称賛に値する。
勿論、これを批判する人々はいる。偶然も重なり、米大統領帰国が早まってQUAD(日米豪印)首脳会議が広島開催となり、ウクライナ大統領訪日まであった。普通なら記念写真と共同文書発表で終わるサミットが、何とリアルタイムの政治決断の場となった。岸田首相は「強運の持ち主」ともいわれたが、政治では運も実力のうちである。
続いて、欧米から見た今週の世界の動きを書こう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを選んでご紹介する。欧米の国際問題専門家たちの今週の関心は以下のとおりだ。
5月23日火曜日 起訴されたパキスタン前首相が出廷予定、EU国防大臣会合開催、ロシア首相訪中(24日まで)
【パキスタンの混乱が止まらないのは年中行事だが、EU国防相会合と中露ハイレベル会談は、広島サミットで動き始めた新たな国際政治の潮流の中でその意味を考える必要があるだろう。ウクライナ戦争はまだ終わりそうもない、ということだ。】
5月24日水曜日 ロシア大統領がベラルーシ大統領と会談、エクアドルが大統領選と議会選挙の早期実施を発表、インド首相が豪州訪問し首脳会談へ
【やはりエクアドルでは選挙が早まるようだ。大統領弾劾の動きへの対抗措置だろうが、どうなることやら。ロシアとベラルーシの動きも、上記と同様、ロシア側の態勢立て直しの一環だろう。インド首相の訪豪は当初予定通りか。せっかくQUAD主催となったのに、豪首相にとっては残念だっただろうな。】
5月25日木曜日 ロシアがthe Supreme Eurasian Economic Council(最高ユーラシア経済評議会)を主催
【なぜこの名称に「最高」が付くのか分からないが、ソ連時代を思い出すのは筆者だけか。これも、これまで述べてきた広島サミット後の一連の潮流の一環と見るべきだ。】
5月28日日曜日 トルコ大統領選挙の決選投票
【何度も書いているが、選挙結果は欧州と中東で大きな意味を持つ。要注目だ。】
G7広島サミットについては、今週Japan Times、日経ビジネスなどにも詳しく書くので、お時間があれば、ご一読願いたい。通常ならネタ切れで、同じ題材で何本も原稿を書くのは難しいのだが、今回のサミットばかりはテンコ盛りの話題満載で、ネタが途切れることはなかった。その意味でも今回のサミットは大成功だったと思う。
〇アジア
中国外務省が日本大使を呼びつけ、「日本はG7の議長国として関係国とともに中国を中傷、攻撃し、内政に乱暴に干渉」しており強烈な不満と断固たる反対を伝えたという。これに対し日本大使は「中国が行動を改めないかぎり、懸念事項への言及は当然、まずは中国側が前向き対応すべし」と反論したそうだ。良く言った!
〇欧州・ロシア
ウクライナ大統領が広島でイメージを重ねたバフムートでの戦闘につき、完全掌握を発表したロシアと、それを否定するウクライナの主張が食い違っている。ロシア軍は市街地を掌握しつつあるが、ウクライナ軍はそれを包囲する形で戦闘が続いているらしい。ロシア軍の消耗が増えるだけとの見方は、贔屓目過ぎるのかもしれないが。
〇中東
レバノン紙のコラムは、サウジがアラブ連盟首脳会議にシリアとウクライナの大統領を招いたのは、「ゼレンスキーを招くことでバランスを取った」「米露どちらにも肩入れせず、調停者の地位を追求している」などと書いたそうだが、おいおい、サウジにそんな力はないだろう。それでも、サウジ皇太子の動きからは目が離せない。
〇南北アメリカ
ブラジル大統領が「ウクライナ大統領が約束の場所に来なかった」ため広島で首脳会談が実現しなかったと述べた。ゼレンスキーはドタキャンし、ベトナム首相と会ったらしい。ブラジル大統領の態度が煮え切らなかったためかな?ブラジルでは「対ロシア圧力から距離を置いた」と評価されたそうだ。うーん、それなりに筋は通っているが・・・。
〇インド亜大陸
広島でインド首相は独特の存在感を示していたが、これについては別途書きたい。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:広島G7サミットの最終日にG7世界首脳に加わるウクライナのゼレンスキー大統領(2023年5月21日 日本・広島)
出典:Photo by WPA Pool / プール/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。