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.国際  投稿日:2022/1/13

カザフスタン騒乱に震える独裁者ら


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2020#02」

2022年1月10-16日

【まとめ】

・年末年始は、米露電話首脳会談、カザフスタンでの反政府デモ、日米2+2会合などイベント相次いだ。

1月2日、カザフスタン西部で、燃料価格上昇の抗議デモが発生。

・独裁体制であっても、生活物資の価格急騰など経済状況が悪化すれば、民衆の抗議デモは何時でも起こり得る。

 

年末年始は予想以上に情報分析で忙しかった。米露電話首脳会談、カザフスタンでの反政府デモ、日米2+2会合など、年末から2週間、重要事件・イベントが相次いだからだ。これら一見相互に無関係にも思えるが、米中露・国際政治メジャーリーグの対抗戦という視点からは、現代史の大きな流れが見えてくるような気がする。

それにしても、プーチン大統領は何と傑出した政治指導者であることか。勿論悪い意味で、であるが・・・。このような人物は欧米は勿論、中国にもいない。冷酷な独裁者なら中国にも腐るほどいるが、プーチンのように若くして諜報員を志し、外国に住み、外国語(特にドイツ語)を操り、国際政治に精通した独裁者は中国にはいない。

そのプーチンにとって、1990年代以降のNATO東方拡大という「新常態」は、1941年にナチス・ドイツが西欧、東欧、北欧の各国とともにソ連(当時)に侵攻した「大祖国戦争」の再来と映るのではないか。この点については今週の日経ビジネスに小論を寄稿した。プーチンの野望は決してウクライナだけでは終わらないだろう。

先週筆者が最も驚いたのはカザフスタンでの騒乱事件の発生だった。1月2日、カザフスタン西部で、燃料価格上昇の抗議デモが始まり、その後、南部のアルマトイで治安当局とデモ隊の衝突が激化した。5日、カザフスタン政府は全土に非常事態宣言を発令、6日には同国大統領が「集団安全保障条約機構(CSTO)」に支援を要請した。

早速ロシア主導でCSTO加盟国部隊2500人が派遣されたが、今回の衝突で死者は160人、拘束者も8000人を超えたという。プーチン大統領は10日、CSTOの首脳会議で、「カザフスタンを外国が後ろ盾するテロリストから守ることができた」と勝利宣言、ご丁寧に「CSTOは他の旧ソ連諸国も守る」と表明した。

更に、「カザフスタンの国内状況の悪化を食い止め、テロリスト、犯罪者、略奪者などを阻止した」、「カザフスタンで発生した出来事は外部による内政干渉の試みだったと理解している」、「(外部による)国内情勢の動揺を容認しない、このことをCSTOは明確に示した」とも言い切ったそうだ。プーチンは武力の使い方を知っている。

それにしても、カザフスタンは同地域で最も豊か、かつ安定した独裁国家だと思っていた。まさか燃料価格引き上げ反対の抗議デモの一部がかくも暴徒化するとは思わなかった。2019年に前大統領による長期独裁政治は形式的に終わったが、その傀儡ともいわれる現大統領への権力移行は必ずしも盤石ではなかったようだ。

この状況を見て、中国ベラルーシ、ロシアの独裁者たちは、内心震え上がったのではないか。今回のカザフスタン騒乱は、如何に強固な独裁体制であっても、一度生活物資の価格急騰など経済状況が悪化すれば、民衆の抗議デモは何時でも起こり得ることを示したからだ。民衆の不満は如何に弾圧しても容易には鎮まらない。

▲写真 米露首脳会談 スイス・ジュネーブ(2021年6月16日) 出典:Photo by Peter Klaunzer – Pool/Keystone via Getty Images

〇アジア

中国でオミクロン株感染が急拡大しているようだ。これまで「ゼロコロナ」政策を喧伝してきたが、考えてみれば、効果が半分しかない中国製ワクチンと徹底的な管理手法だけで14億人の国民を「ゼロコロナ」にすることはそもそも無理だったのではないか。これからオリンピックを開催する北京の危機感は昨年夏の東京以上だろう。

〇欧州・ロシア

男子テニスのジョコビッチ選手がワクチン未接種を理由にオーストラリア当局から入国拒否されたが、その後同国裁判所は当局のビザ取消決定を無効としたそうだ。オーストラリアが再度ビザを取り消す可能性もあるらしいが、どうなるのだろう。ジャコビッチだから入国を認めれば、オーストラリアは法治国家ではなくなるのだが・・・。

〇中東

カザフスタン大統領がEU大統領に対し「一連の暴動にはアフガニスタンや中東などからの戦闘員が参加して」「権力の奪取を図った」、「暴動は周到に準備された組織的なテロ攻撃だった」などと説明したそうだ。おいおい、都合の良い時だけ「中東のテロリスト」はないだろう・・・。どうやら、カザフスタン内政の不安定は当分続きそうだ。

▲写真 第二次世界大戦勝利75周年記念パレードに出席するロシアプーチン大統領、ロシアセルゲイ・ショイグ国防相(左)、カザフスタンのカシム・ジョマート・トカエフ大統領(右)2020年6月24日、ロシア・モスクワ 出典:Photo by Kirill Kallinikov – Host Photo Agency via Getty Images

〇南北アメリカ

10日ジュネーブで米露政府高官による協議が行われた。露側がNATO東方不拡大を求めたのに対し、米側は譲歩せず、逆に緊張緩和を強く促したため、協議は平行線を辿ったという。でも、それって、米露双方とも想定内のはず。これから長く、長く続く米露協議の第一ラウンドが始まったに過ぎないのだから。

〇インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキャノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:年次記者会見に臨むプーチン大統領(2021年12月23日ロシア・モスクワ) 出典:Photo by Mikhail Svetlov/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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