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石炭から原子力へのリプレース「C2N」、そして核融合へ 米エネルギー省報告 地球温暖化問題の現実的解決策

BERLIN, GERMANY - AUGUST 02: In this aerial view the Klingenberg natural gas-powered thermal power station stands on August 02, 2022 in Berlin, Germany. The German government, in a bid to raise its reserves of natural gas ahead of the coming winter, is turning to coal among alternatives for electricity production. Germany produces approximately 15% of its electricity with natural gas and is seeking to reduce its consumption due to ongoing tensions with Russia, from which it still imports large quantities of gas. Russia has reduced gas flows to Germany as a consequence of Germany's support for Ukraine against Russia's ongoing military invasion. (Photo by Sean Gallup/Getty Images)

杉山大志(キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹)

「杉山大志の合理的な環境主義」

 

【まとめ】

・「石炭から原子力へ(C2N)」は単なる理論上のアイデアではなく、すでに米国では革新型原子炉を用いた計画が発表されている。

・米国以外にも、石炭火力発電大国の中国、インド、ロシアなどの国で「C2N」が実現してゆけば、急速にCO2が減ってゆく可能性がある。

・核融合炉で世界中の火力発電所をリプレースしてゆけば、地球温暖化問題もエネルギー問題も解決できる。

 

思わずハタと膝を打った。これは妙案だ。

「既存の石炭火力発電所が退役したら、原子力発電でリプレースしてゆく」というもの。

ただこれだけなのだが、実にうまいアイデアなのだ。というのは、以下の4つの問題を、一挙に解決できるからだ。

1 再生可能エネルギーではコストが高く、じつは景観問題などで環境にも優しいとはいえず、しかも中国製品だらけになってしまう。新しい送電線を引くにも反対運動が起きたりコストがかかったりする。

2 石炭火力発電所を廃止すると、それに依存してきた地域経済が傾いてしまう。

3 安全性や経済性を高めた革新型原子炉(その中には小型モジュール炉=SMRも含まれる)が様々に開発されているが、どこに立地したら政治的サポートが得られるかよく分からない。

4 地球温暖化問題を(見せかけでなく)本当に解決するようなスケールの政策がなかなか見当たらない。

以下、米国エネルギー省(DOE)が9月14日に発表した報告書を紹介しよう。

この報告書では、3つの質問に焦点を当てている。

1 米国にある石炭火力のうち、原子力でリプレースできる候補となる場所はどれくらいあるか?

2 リプレースによるメリットと課題は何か?

3 リプレースは地域社会にどのような影響を与えるか?

以下は、それぞれの質問に対する同報告書の結論だ。

1 米国のすべての火力発電地点をスクリーニングして、157の退役済み地点と237の稼働中地点からなる候補地を選定した。この候補地のうち、80%の地点において、100万キロワット規模よりも小さい革新的原子炉が設置可能と評価された。また、22%の地点においては、従来型の大型の軽水炉が設置可能と評価された。

2 石炭火力発電所のインフラを流用することで、原子力発電所建設のための費用が15%ないし35%も節約できる。原子炉は既存の石炭火力発電所の敷地内に設置することができ、既存の取水設備、排水処理設備、輸送、送電、オフィスビルなどのインフラを活用することができるからだ。再生可能エネルギーが直面している立地の問題からも解放される。

3  原子炉の設計によっては、地域の新規雇用が増加し、最大で650人増え  る。更に、2億7000万ドル近くの経済価値が生まれる。また地方自治体の温室効果ガス排出が最大で86%減少しうる。

この報告書を受けて、ロジャー・ピールキー・ジュニアは、かりに前述の候補地すべてが原子力に転換されるならば、3,400テラワット時以上の電力を供給できると試算している。これは、2021年の米国全体の発電量の約70%に相当する。これが完全に実現することはまずないが、いずれにせよ、機会の規模は大きい。

この「石炭から原子力へ(C2N)」は単なる理論上のアイデアではなく、すでに革新型原子炉を用いた計画が発表されている。今後の有力な選択肢であることが、事例を以て示されているということだ:

テラパワー社は2021年にワイオミング州の石炭発電所跡地にナトリウム冷却高速炉の実証機を建設する計画を発表した。

・今年初め、メリーランド州エネルギー局は、石炭火力発電所をX-エナジー社の小型モジュール炉Xe-100でリプレースする実施可能性評価を支援すると発表した。

ホルテックインターナショナル社は最近、SMR-160の候補地として石炭火力発電所を検討しており、早ければ2029年に最初のユニットが稼働する計画だと述べた。

・ポーランドでは、ニュースケール社が、エネルギー企業のユニモット社、銅・銀生産企業のKGHM社と共同で、同社の原子炉が石炭火力を代替する可能性を探っている。

上述の報告書は米国についてだけのものだが、世界的には、より大きな機会がある。石炭火力発電大国といえば、中国、インド、ロシアなどだが、これらの国でも「C2N」が実現してゆけば、案外と急速にCO2が減ってゆくかもしれない。

米国エネルギー省での評価では、既存の大型軽水炉だけでなく、より規模の小さい革新型原子炉がさまざまに開発されてきたことで、C2Nの機会が大きく膨らんでいるようだ。

日本でもC2Nは有望かもしれない。既存の火力発電所を、原子力発電所でリプレースするのだ。地震や津波などの災害があるので日本での敷居は高くはなるが、外部電源を必要としないパッシブ冷却技術などによって安全性を高めた革新型原子炉が、この担い手になるかもしれない。メーカー、電気事業者、規制当局、政治の創造性に期待したい。

そしてその先には、核融合炉の立地地点としても、火力発電所のリプレースを進めればよいのではないか。このメリットは革新型原子炉によるリプレースとまったく同じことだ。

写真)建設中のITER(国際熱核融合実験炉) 航空写真 2022年4月22日 フランス、サン・ポール・レ・デュランス

出典)ITER

核融合というと夢物語のように思われがちだが、じつはもう手の届く所にある。要素となる技術はすでに出来ていて、あとは実証を積み重ねれば実現できる。革新型原子炉はよきライバルだが、それを上回る経済性、安全性を達成し、無尽蔵のエネルギー源になる。核融合炉で世界中の火力発電所をリプレースしてゆけば、地球温暖化問題もエネルギー問題も解決してしまう。

図)中露の環境問題工作に 騙されるな! 「脱炭素」で高笑いする独裁者た

著者 渡邉哲也 / 杉山大志、出版社 かや書房

 

 

 

 

図)「脱炭素」は嘘だらけ 杉本大志著:産経新聞出版

トップ写真:クリンゲンベルク天然ガス火力発電所 2022年 ドイツ・ベルリン

出典)Photo by Sean Gallup/Getty Images