"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

アメリカの対中強固政策いつまで?

WASHINGTON, DC - NOVEMBER 15: U.S. President Joe Biden participates in a virtual meeting with Chinese President Xi Jinping at the Roosevelt Room of the White House November 15, 2021 in Washington, DC. President Biden met with his Chinese counterpart to discuss bilateral issues. (Photo by Alex Wong/Getty Images)

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

 

【まとめ】

・バイデン政権が中国への半導体先端技術の輸出規制を強化。官民、議会が一致して中国を長期の脅威とみなし、対抗や抑止の政策を求める。

・17年の国家安全保障戦略で、中国は米の基本的な国益を侵し、同盟国との離反を図り、グローバルな脅威だと初めて明記。

・専門家は米の対中強固策は「ワシントン・コンセンサス」で「全・国政的対応」、当面揺るがないと指摘。

 

アメリカの首都ワシントンではバイデン政権が10月7日、中国への半導体の先端技術の輸出を厳しく規制する指令を出した。アメリカがハイテク分野でも中国に対する制約をさらに増す姿勢を明確にしたわけだ。だがアメリカのこの中国に対する強硬な態度はずっと続くのだろうか。対中強固姿勢の持続性はどうなのか。

この点は日本にとっても超重要である。アメリカは中国に対する強固な政策では日本にも同調を期待する場合が多い。日本側もそれでなくても安全保障上などの理由から中国への経済や政治での態度は強固になってきた。だが同盟国のアメリカの対中強硬姿勢に同調して同じ方向へ動くという部分も大きい。

だが万が一、その同盟国のアメリカがいまの対中強硬姿勢を突然、変えたらどうなるのか。日本はハシゴを外された状態ともなりかねない。となると重要になるのは、いまのアメリカの対中強硬姿勢にどれほどの耐久性、持続性があるのか、という読みである。

 

ワシントンでは中国論議がますます過密かつ熱気を高めてきた。戦争が続くウクライナについてよりも中国への対応が頻繁かつ熱心に語られるようなのである。私自身がそのワシントンで日本への影響も大きい、その種の中国論議を追い、耳を傾けた。

連邦議会では上下両院がともに台湾政策法案という中国への対抗を前面に出した法案を審議していた。民間のハドソン研究所ではジョン・リー研究員が「対中経済デカップリング(切り離し)」を語った。

同様の民間の大手研究機関AEI(アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート)ではジョンズホプキンス大学院のハル・ブランズ教授らが米中戦争の危険性を論じていた。中国にはどちらかといえばソフトだとされてきたブルッキングス研究所も「中国の独裁者はより独裁的になるか」と題する討論を催していた。

要するに官民ともに中国をアメリカへの長期の脅威とみなす、という前提なのだ。そのうえで中国への対抗や抑止の政策を探索するのである。連邦議会の上下両院でも日ごろは激突する民主、共和両党が中国に対してだけは手を握り、中国への敵対性をもこめた政策を求める、という光景なのだ。

バイデン政権もトランプ前政権の主要政策はほぼすべて逆転してきたが、対中政策だけは例外となった。当初はトランプ前政権が安倍晋三首相の発案を容れて看板政策とした自由で開かれたインド太平洋という表現を「安全で繁栄したインド太平洋」と替えていたが、すぐにトランプ政権の標語を踏襲してしまった。以来、バイデン政権も一貫して「自由で開かれたインド太平洋」という政策標語を大々的に掲げ続けている。

この超党派の中国への強固な姿勢はなぜ生まれたのか。そしてこれからはどのように続いていくのか。このあたりの疑問への答えは日本の針路にとっても大きな意味を持つ。そこをアメリカの民主、共和の歴代政権で対中政策を担当してきた現ジョージワシントン大学教授のロバート・サタ―氏に尋ねてみた。

サタ―氏は国務省、国家情報会議、中央情報局(CIA)などの中国担当部門で通算30年以上、専門官として在勤してきた。その経験を基にいまのワシントンでの中国への認識や政策を説明してくれた。

サタ―氏はまずいまのワシントンの対中態度を「ワシントン・コンセンサス(政策一致)」と特徴づけた。行政と立法が団結した「全・国政的対応」とも評する。国政全体の機能が中国への姿勢では一致する、というわけだ。そして強固で鋭利な対中政策はこんごも揺らがないと明言したのだった。

ではこの対中ワシントン・コンセンサスはどう始まり、定着したのだろうか。

サタ―氏はこの点の解説をすでに複数の外交雑誌で発表してきたが、改めて問いただしてみた。同氏の見解は以下の骨子だった。

▽現在のアメリカの中国への強固な全・国政的対応はトランプ政権が2017年12月に発表した国家安全保障戦略が出発点だといえる。同戦略は中国がアメリカの基本的な国益を侵し、同盟国との離反を図り、グローバルな脅威であることを初めて明記した。

▽だがトランプ大統領はその後、対中関税問題に過剰に踏み込む一方、習近平主席への個人的な親近感を表明して、対中政策が揺らいだ。この状況に対してアメリカ議会の民主、共和両党の有力議員たちが共同で強固な対中政策の堅持と強化を推した。

▽議会超党派の中国抑止の姿勢は2020年冒頭からのコロナ大感染でのアメリカ国民の中国非難の激化でさらに堅固となった。超党派の対中連帯はバイデン政権下でも保たれ、同政権が今年夏に成立させたインフレ削減法などの中国抑止部分に共和党議員の相当数が賛成した。

サタ―氏は以上のようにとくにいまのアメリカの対中強固策の耐久性、持続性を強調するのだった。つまりアメリカの中国に対する強硬で頑固な姿勢は当面、変わる気配はない、という趣旨である。

この点は日本側の一部の「アメリカが突然、対中和解に変わり、ハシゴを外されたらどうするのか」という懸念を解消させるかもしれない。

トップ写真:オンラインで会談するバイデン大統領と習近平国家主席(2021年11月15日 ホワイトハウス)

出典:Photo by Alex Wong/Getty Images