激変するグローバルパワーバランスPart2「どうなるアメリカ!?」Japan In-depth創刊10周年記念対談 ジャーナリスト古森義久
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・トランプ元大統領を支持する人の中には、無条件に支持するのではなく、彼が体現するような価値観を有している人が多くいる。
・米民主党と共和党の間で、日米同盟を堅持するという部分に変わりはない。
・日本独自で中国の力を抑える方法を考えなければいけない。
Japan In-depth創刊10周年記念の動画配信。ジャーナリスト古森義久氏との対談Part2は「どうなるアメリカ!?」として、日米関係に焦点を当てた。
・米大統領選の争点ー違法入国者問題
安倍: 日米関係は日本の安全保障の根幹であり、避けては通れないものです。近々行われる米大統領選ですが、主な争点は移民問題と外交問題です。外交問題はウクライナ紛争や中東紛争、台湾の問題などですね。このような米の内憂外患が外交に影響を与えると言われていますが、その点どのようにお考えですか?
古森: 一般市民にとって外交と内政なら、まずは内政優先です。また、LGBT問題に象徴されるような、社会規範に直結する教育も大きな課題です。
オバマ政権時代には、公立中学校でお手洗いを男女別にしないという大統領令が出されましたが、これは大きな反感を買いました。その1つの理由は、リベラル派(民主党)がアメリカ全体の社会規範を左寄りにしていたために、左右の対立が先鋭化していたからです。
古森: 1100万人の違法入国者がやって来たことを踏まえ、トランプ元大統領はメキシコの壁を建設しました。しかしバイデン大統領はそれを中止し、全移民を受け入れる方針を立てました。結果、ここ3年で1000万人が入国し、北部に移動しています。
安倍: この間テレビでシカゴの映像を見ましたが、街の中に沢山のテントがあって、違法入国者が寝泊まりしていたのにはびっくりしました。
古森: そうですね。アメリカではオバマ政権時代、「サンクチュアリ」を宣言した地域は、外国人に対して取り締まりをしないという風習が広がりました。違法か合法か問い詰めてはならないということですね。それに対し、トランプ元大統領が抵抗する構図になっています。現在でも、ニューヨークやシカゴなど民主党が強い地域はサンクチュアリーシティーですね。
これは物凄く大きな選挙課題です。バイデン氏は入国者政策に失敗しました。今度はやはり壁を建てると言いましたね。
安倍:既に決まったことだから自分には変えられないとか言ってましたが。
古森: やはり彼の敗北です。実際に社会では、合法で入国し働いている中南米の人は違法入国者に厳しいです。
安倍: たしかに、彼らもTVインタビューで、税金は違法入国者ではなく自分たちに還元して欲しいと言っていました。これは国家の分断に繋がりますね。
古森: どのような社会規範を作るかという点にも繋がります。他にも性教育の問題がありますね。
・性教育問題
古森: 性教育問題は、子供に何をどこまで教えるかという問題です。テキサス、フロリダ州知事のロン・デサンティスという共和党議員は、トランプ氏より保守的であり、公立学校における性教育の全面廃止を求めています。一方、リベラル派の議員は性教育を推進する方向性です。
安倍: アメリカでも共和党と民主党、保守とリベラルで全く異なる方向性になるんですね。
古森: ご存じのように、そうした違いは昔からあります。ですが、今はその対立が先鋭化している気がしますね。
安倍: その状況下で、今回はどうやらトランプ氏が再選しそうです。私も古森さんも幾度となく大統領選を取材してきましたが、大体最後の最後まで分からないんですよね。
古森: 私も元々トランプ氏が勝つとは思っていなかったのですが、現在はアメリカの9割以上の人が彼が勝つと予想していますね。
・日本の報道
安倍: しかし、日本の新聞やテレビを見ているとトランプが劣勢という報道が多いですね。
古森: それは日本メディアの情報源が民主党寄りの米メディアに極端に偏っているからです。これを頭に入れておかないと選挙を大きく見誤ってしまう可能性があります。
安倍: そういう指摘をしているのはJapan In-depthだけと言っても過言ではないかと思いますが、大統領選がどうなるかは本当に分かりませんね。過去を見ると共和党と民主党が順番に入れ替わってます。
・日米関係の行方と安倍晋三
古森: 日本はアメリカ大統領選の結果がどちらに転んでも気に病む必要はないと思います。民主党と共和党の方針の間で、日米同盟の堅持の仕方や度合いに違いはありますが、堅持するという部分には変わりはないですから。トランプ政権になったら日米同盟がなくなるという声もありますが、その可能性は低いです。トランプ政権時代の日米関係は非常に良好でした。
安倍: その件について、アメリカは安倍晋三をなぜ賞賛したのかという古森さんの本を拝読しましたが、日本人が思っている以上に安倍氏はアメリカで良く知られているんですね。
古森: 当初は慰安婦問題などで関係がぎくしゃくしていましたが、戦争をせず前進するという非常に前向きな言葉が評価され、最後には超党派で賞賛されていましたね。
安倍: だから安倍首相は不幸にして暗殺されましたけども、死後に再評価された面もありますね。安倍首相がやってきたことで日米関係が強固になったんだと、そういう見方もあるってことですよね。
古森: そうだから、この間キャンプデイビッドで韓国のユン大統領が来て、岸田さんが行ってバイデン大統領と3人で米日韓首脳会談をやった。これは今までなかったですよね。ムンジェイン(文在寅前韓国大統領)の時にはもうとんでもない。
安倍: アンチ日本でしたから。
古森: だから3国が、特に日本と韓国が安全保障面でも協力するのは新しいことだと。その後、Part1で話した米国の国会議員の寿司パーティーで、マイク・マッコールという下院の外交委員長と話したら、「この間のあれ(日米韓首脳会談)は良かった。やっぱり安倍晋三がやったようなことになってるんだな」と言うわけですよ。「安倍晋三が築いた地平線に向かって3国が動いてるのは良いことじゃないか」と話していたんです。安倍晋三って名前がやっぱり出てくるんですよ。ちゃんとわかってるんですね。
安倍: それはすごいことですね。
古森: そういう政治家はあんまり日本で今までいないですよね。首相が1年ごとに替わるような時代が続いたじゃないですか。
安倍: この間ある新聞が、アメリカの大統領が変わってもどちらの政権でも日米関係は等しく堅持しなきゃいけないんだ、とか書いてありましたけども当たり前のことじゃないですか。
古森: 当たり前ですね。
安倍: 新聞に言われることじゃないと思ったんですが、先ほどの話は共和党政権だろうが民主党政権だろうが、日米関係は変わらないし、変わっちゃいけないんだってことですよね。
・日本の核武装論
古森: ただね、もっと長期的に考えた時に安全保障面で全くアメリカに依存しきっている日本の戦後の大多数の日本国民がそれでいいんだってことで来たわけです。振り返ってみれば正しい選択だっただろうけれども、このままずっといくとは思えない。
中国の軍事的脅威っていうのは、間違いなく日本に対してあるわけだから、それに対して日本独自にもうちょっといろいろやらなきゃいけない。アメリカにばかり全面的に頼り切っていくと、アメリカも民主主義の国だから国民世論がもう日本をこれほど助ける必要はない、というふうになるかもしれない。今度初めてね。
これはポリティカルインコレクトかもしれないけども、日本もやがては核武装した方がいいっていうことを、政権の中枢にいた人が初めてぐらいに言ったんですよ。アメリカは普通、一般の政策は強要しないですよ。日本は核拡散防止条約に入ってるわけだし。その時の彼の理屈は、そうすれば、アメリカが日本に在日米軍をあれだけ多くずっと駐留して日本のためにやってる防衛負担が減ると言ってました。
安倍: それ、トランプと同じ考えですね。
古森: そうかもしれない。でもね、それは日米関係をもう30年ぐらい担当してきた政府の人物がそう言ったんですよ。
安倍: 日本人が誰もが知ってるような人ですね。
古森: 名前言えばわかるだけどね。それは言わないっていうことで僕は聞いたからね。また彼は日本の核武装を奨励したと言われたら困るが、でもそうなってもいいと俺は思ってるって言ったよね。
安倍: 明言したわけですね。だから、やっぱりそういうことを考えざるを得ない時期がもうすでに来てるのかもしれないし、これから来るかもしれないですね。
古森: そうですね。一切考えちゃいけない、語っちゃいけないっていうんじゃね。
安倍: それはまさしく悪い意味での思考停止ですよね。
古森: そうですよね。
・多極世界と日本の覚悟
安倍: 自分たちが習近平の気持ちになってみればですよ。アメリカは、北米南米はやってください。アジアは中国に任せてくださいって思っててもおかしくないと思うんですよ。ということはですよ、自分のお膝元にある日本は自分たちの一部なんであると思っていたって、全然おかしくないですよね。
古森: まさにそういうことをアメリカの複数の中国の専門家が言っています。新しい国際秩序っていうのは「多極世界」だと。今まではなんとなくアメリカ主導の国際秩序があったが、それが今少し崩れて中国が出てくるロシアが出てくる。その後ろにイランがくっついて、北朝鮮がいるっていう。これ、みんなアメリカに対して反対の勢力ですよね。
多極世界がどういう形をとるかっていうと、中国はアジアで覇権を求める。その覇権が確立された時に日本はどうなるかといったら、やっぱり朝貢国みたいに中国の言うことを基本的に聞く国になっちゃうと。それでもいいんだと思う日本国民はやっぱり少ないでしょう?って言うわけですよ。アメリカの人たちがね。
安倍: それは誰も思わないでしょう。
古森: だったらやっぱり中国を警戒して中国をなんとか抑えるような措置をとると。そのためにアメリカの力に当面依存するっていうのはしょうがないかもしれないけども、長期の展望を見た時は、やっぱり日本独自で中国の力を抑えるっていう方法を考えなきゃいけないんだと私はそう思ってます。
安倍: 日本人の胆力が試されるというか、言ってみれば日本は今、明治維新前みたいな状況にあるんじゃないかと。
古森: そう思えてきますね。これまでも、日本って大きく変わったのはみんな外からの波じゃないですか。黒船が来て開国し、明治維新が起きた。2番目に第二次世界大戦でアメリカに負けて占領された。そして今、第三の国難なのかな、荒波ですよね、外からの。
安倍: 日本は、減税がどうのとか今話してますが、もうちょっと外を見た方がいいんじゃないかと思いますね。
古森: 北朝鮮がこれだけ日本にとって危険な行動をとっているわけです。日本なんか、核で海の底に沈めちゃえばいいんだなんて国家の通信社が論評出している。中国だって人民解放軍の幹部が軍事論文で、日本なんか、大阪に核兵器一発撃ったら終わりだってことを堂々と書いてるわけですよ。それはアメリカの方で見つけてきてね。「これいいの?」って聞かれるんだけど
安倍:「いいの?」ってアメリカにいわれてもね(苦笑)。
古森: 日本は中国の軍事を研究してる人、民間ではほとんどいないじゃないですか。これで大丈夫かなと思いますね。ワシントンから日本を見てると、ギャップというか、これでいいのかと心配は多いですよね。
安倍: こちらの本でアメリカがどういうふうに日本を見てるのか書いてありますので、ぜひ読んでもらいたいなと思います。今後も、国際情勢をどう読み解いたらいいのか発信していきたいと思いますので、よろしくお願いします。
▲写真「アメリカはなぜ安倍晋三を賞賛したのか」著者:古森義久(産経新聞出版)
(了)
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。