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.国際  投稿日:2024/1/3

激変するグローバルパワーバランス Part1「どうなる中国!」Japan In-depth創刊10周年記念対談 ジャーナリスト古森義久


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・福島第一処理水を「汚染水」と呼ぶ中国。日本のやっていることは正しいと国際社会にアピールするチャンス。

・アメリカの抑止力弱体化で、「台湾有事」の可能性は高まっている。

・米中の対決状態が続く中、日本はどうするのか議論してほしい。

 

Japan In-depthはマスコミが報じないニュースの深堀りを発信し続けて10年目に入った。創刊10周年記念対談第1弾は、国際ジャーナリストであり産経新聞ワシントン駐在客員特派員古森義久氏と安倍編集長が、「激変するグローバルパワーバランス」をテーマに議論した。Part1は「どうなる中国!」。中国からの脅威を取り上げる。

・ 福島第1「汚染水」問題

安倍: 中国は、福島第一の「処理水」の問題に過剰に反応しています。どのようなバックグラウンドがあるのでしょうか?

古森氏: 中国共産党政権も愚かじゃないから福島から放出される処理水に害や放射能はないと国際原子力機関(IAEA)で証明されてることは分かっているはず。それでも汚染だという。それはなぜか?水そのものよりも日本全体に対して気に入らない。日本の立場を何とか弱めてやろう、というメッセージをあからさまに送りつける意図がある。

・次はアジアか!?台湾有事の可能性

安倍: 逆効果だと思う。日本は防衛費を倍増しようとしてる。

古森: アメリカの中国研究の専門家で、トシ・ヨシハラ氏(「戦略予算評価センター(CSBA)上級研究員)」が言っている。これは中国から日本へのギフト(贈り物)だと。これを機会に中国がいかに無法な言動をとっているか証明して日本のやっていることは正しいんだと国際社会にアピールする非常にいいチャンスだと言っている。

安倍: アメリカに言われているわけですか。

古森: ただ中国は日本と違って一貫性が強い。一度振り上げた拳はそう簡単に下ろさない。世界中があなた間違ってるよって言っても、正義はわれにありという態度を崩さない。それは中国の強み。日本はその点対極にある。すぐ変わっちゃう。日本も本腰を入れて処理水問題の中国の非を警鐘を鳴らして違うんだと言い続けなきゃいけない。

二階俊博さんは、引っ越しができない相手だから、向こうの立場を聞いて、向こうが嫌がることはやめてこっちが譲歩するべきだと言っている。世界中を見てきたけれど引っ越しができない相手こそ厳しくしなきゃいけない。隣同士の国というのは仲が悪い方が普通。北朝鮮と韓国、イスラエルとあの辺全部、アルゼンチンとブラジルは仲悪い、インドとパキスタンは宿敵です。引っ越しできないからこそ厳しく対応していかなきゃいけない。中国がいかに理不尽なことをいうか、今日本の中でそういう意識が深まってます。

安倍: そういう意識は浸透してきているとは思いますね。

古森: 岸田政権にとって、対中認識を改めて現実的にするための非常にいい機会です。

・米抑止力の弱体化

安倍: 古森さんに一番聞きたいのは、習近平が台湾を取りに来るかもしれないということ。なぜか?アメリカはアジア方面が手薄になってきています。そこを狙うんじゃないかと。

古森: すぐに習近平主席が台湾を攻めると決めるかどうかというと、問題が色々あって中国側もそう簡単にはいかない。アメリカの抑止力が減って危険になってきた。その影響がアジアにもあるとアメリカの識者も思っています。例えば日本でも人気のある「ウォルター・ラッセル・ミード」というウォールストリートジャーナルに書いてる戦略家が最近書いたのは抑止力のない世界の危険。アメリカの抑止力が減っちゃった。だからウクライナでロシアが出てきた。中東でもハマスが出てきた。

中国は、台湾情勢を考える時アメリカが抑止をどのくらい機能させるか、じーっと見ている。決定的な要因ですから。もう少し分かりやすい実例は、中東危機でイスラエルを支援するためにバイデン大統領はイスラエルに行った。また航空母艦を主体とする機動艦隊を二つ。最初にロナルドレーガンが行った横須賀を母港としてる東アジア・西太平洋で普段最大の目的は中国に対する抑止だったのが、中東に行っちゃった。日本のあたりが手薄になるという、客観的に見ればそういうこと。

アメリカに反対する側がバイデン政権下におけるアメリカの軍事抑止は弱くなったことを見てることは間違いない。

中東諸国でイスラエルの存在を認める国が圧倒的多数になってしまった。残されたのはイラン。イスラエル抹消と言うことを国是に掲げている。ハマスもイスラエル抹消。彼らはアメリカの動きを警戒している。

中国問題・台湾問題に関してもバイデン政権は国防予算を減らしている。中距離の核を運べる潜水艦発射の巡航ミサイル開発、バイデン政権はそれを辞めちゃった。

ウクライナをロシアが攻めるって前もって分かっていたのにバイデンさんは早い時期にアメリカは軍事的対応をしないと言った。そういう体質を今のバイデン政権は持っている。

・中国不動産不況 習近平が向かう先は?

安倍: 現状を軍事力を使ってでも変えようと思っている人たちにとっては、取り組みやすいというわけですね。そういう意味において習近平が、アメリカ与しやすしと考えて台湾にアプローチをしてもアメリカは軍事的なアプローチを取らないんじゃないか?思ってもおかしくないですね。もう一つ、中国は今経済が弱っている問題があります。中国が「台湾の方に向くかも」しれませんね。

古森: 重要なポイント。アメリカの中国研究学者の間でもいままさに議論が集中している。一つの考え方は、間違いなく中国経済は今衰退し始めている。内部の問題がいろいろあってこのまま行くと国民の大半が習近平政権に対して不信を深める。だから外に向かっていくゆとりがなくなるんじゃないか?という考え方が一つ。

一方、中国がずっと重ねてきた軍事力増強には勢いが付いている。アメリカ海軍を上回るだけの数の戦艦があるしミサイルもある。台湾を攻める能力はかなり持っている。このまま中国が衰えたら台湾を攻略できなくなっちゃう。台湾を中華人民共和国に組み込むと言うことは、中国共産党にとっては国是というか党是というか、自分たちの存在意義に関する最重要なこと。なら今やっちゃえ、そういう風に動くんじゃないか?と見る専門家もアメリカの中にいる。

ただし、アメリカの軍事力はまだ強い。中国が台湾を攻撃したらアメリカが必ず介入してくる。「台湾関係法」というのがあって介入するともしないとも言っていないが、中国側からすると(米が)介入するかもしれない。アメリカを敵とする正面からの米中戦争は中国は今できない。非常に複雑なパワーゲームの読みです。

・台湾有事 日本はどうする?

安倍: 日本において台湾有事にピンと来てない日本人がほとんどかと思う。ある専門家はもし中国が台湾を攻略する時に真っ先に何をするかといったら、日本にある米軍基地をたたくといっている。まず長距離ミサイルが飛んできて(米軍の戦闘機などを)出動させなくする。これはつまり日本が攻撃されるのと同じです。

古森: そうなれば日本は選択の余地がない。アメリカと一緒に闘うということになる。ところが中国は戦略としてアメリカをとにかく介入させないようにして台湾を攻めるために色んな事をやる。プーチンがやったように戦術核兵器の恫喝によって、アメリカが台湾有事に加わらないようにするオプションを当然中国は考える。

安倍: 言葉だけで十分な抑止力があるということですね。

古森: 中国は在日米軍基地をまずたたく。アメリカの専門家が言っているシナリオでも一番確率が高い。もしそうならなかった場合はどうするか。国政の場で議論さえない。

今のアメリカは日本に対して非常に期待と希望が高い。信頼も高い。それは岸田さん、安倍さんにさかのぼって、台湾有事があったら日本はアメリカと一緒になって軍事行動も含めてやるんだというような意味の発言を総理大臣はワシントンでやってるからです。防衛予算も増やす。アメリカと一体になってやるって見える。今のアメリカ側の日本に対する感じはいい。日本は本当にいい国で同盟国でありがたい(と思っている)。

今アメリカ議会で一番色々なことを発信しているのは「中国特別委員会」。日本という同盟国はアメリカにとって貴重なんだという認識が広まってきている。

しかし日本に帰ってきたら、有事になったとき日本はどうするのか何の議論もない。これは危険。何かあったときに、戦争は起こしちゃいけないけど、もし起きた時どうするかと言うことを決めといて準備をすることが相手に戦争を起こさせないのは抑止の基本。自民党内で議論されているのか。アメリカと中国の対決状態はそう簡単に消えない。その場合は日本はどうするんだっていうことを議論してほしい。

(Part2につづく)動画はこちら

参考記事:

米中関係はどうなるのか~トシ・ヨシハラ氏と語る その1 中国の日本への悪意の真の理由

米中関係はどうなるのか~トシ・ヨシハラ氏と語る その2 共産党の不器用なプロパガンダ

米中関係はどうなるのか~トシ・ヨシハラ氏と語る その3 中国は日米同盟の空洞化を意図する

米中関係はどうなるのか~トシ・ヨシハラ氏と語る その4 バイデン政権の対中政策「個室化」の欠陥

米中関係はどうなるのか~トシ・ヨシハラ氏と語る その5 中国の総合国力は弱くなる?

米議員たちが日本の水産物に舌つづみ

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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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