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金沢市「100円バス」に1億4000万円 「高岡発ニッポン再興」その32

出町譲(高岡市議会議員・作家)

【まとめ】

・金沢市が運営するコミュニティバス「金沢ふらっとバス」が目を引く。

・市はこのコミュニティバスの運行や修繕に年間1億4000万円を投じている。

・公共交通は都市計画など大きな構想の下で考えるべき。赤字が問題だとして廃止に踏み切るのは短絡的。

 

前回に引き続き、金沢視察についてお伝えします。空き校舎の利活用以外に、金沢でもう一つ目を引いたのは、コミュニティバスの存在です。街中でとにかく、頻繁に見かけました。高岡市では2018年、コミュニティバス「こみち」が赤字垂れ流しと批判され廃止となりました。市は9月議会で、私の質問に対して、「コミュニティバスを検討する予定はない」と明言しました。今後も高岡市ではコミュニティバスを望めない環境なのです。このため、私は他の市の動向に注目しています。

金沢市のコミュニティバスは、市が運営する「金沢ふらっとバス」です。車体は、通常のマイクロバスに比べると小ぶりです。驚いたのは、料金100円です。金沢の中心街の住宅地と商店街などを結んでいます。「ふらっと」というのは、2つの意味を掛け合わせています。床がフラットで段差がないことと、料金はどこまで乗っても同じ料金だということです。

街中エリアを4ルート走っています。それぞれのルート、1日29便です。20分ごとにバスが来ます。バス停に「20分間隔で循環、毎時04、24、44分」と表示されています。利用者にとって覚えやすいですね。ふらっとバスは金沢市が運営していますが、北陸鉄道と西日本ジェイアールバスに業務委託しています。

「本数が多く、便利だな」と思いました。しかし、去年まではもっと便利でした。バスの運行間隔は15分に1本だったのです。1ルート当たりの運転本数は実に、39便あったのです。去年4月に29便に減便になりました。理由は、運転手不足です。

支払いも簡単です。すべてのルートで運賃支払い用のキャッシュレスシステム導入しているのです。

どうしてこのコミュニティバスが生まれたのか。金沢市内は、加賀藩のころの街路が残り、狭くて細い道が数多くあります。路線バスが通れない道もあります。こうした公共交通の不便さを解消するために、平成11年、「金沢ふらっとバス」が誕生しました。路線バスの便数が少なくなったことも、影響しています。

利用者にとっては、100円で回れるのは、大きなメリットですが、どれぐらいのコストがかかるのでしょうか。運賃収入は5000万円です。コロナの影響で利用者が減少しているのですが、ピークは8000万円です。ただ、それだけでは運行できません。金沢市ではこのコミュニティバスの運行や修繕のため、年間1億4000万円投じています。

このバス事業を担当しているのは「歩ける環境推進課」です。私はそのネーミングに驚きました。金沢市は、山出保元市長時代から、歩けるまちづくりを推進しているのです。安全、安心して歩けるようにするためには、中心部でのマイカーの利用を減らす。コミュニティバスはこの目標達成のための手段なのです。公共交通は、都市計画にも直結しているのです。

公共交通はそれだけでは赤字は当たり前だと言われています。しかし、それだけで一喜一憂していてはいけません。もっと俯瞰して考える必要があります。どんな都市にしたいのか。そのためどんな都市計画をつくるのか。そんな大きな構想の下で、公共交通を考えるべきなのです。赤字が問題だとして、廃止に踏み切るのは、短絡的です。

(続く)

トップ写真:金沢市内コミュニティバス「ふらっとバス」 出典:ttn3 / PIXTA(ピクスタ)