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.政治  投稿日:2023/2/19

「公設民営バス」松本市が国を動かした 「高岡発ニッポン再興」その56


出町譲(高岡市議会議員・作家)

【まとめ】

・長野県松本市は、今年4月から行政が主体となる「公設民営バス」へと転換する。

・住民の意見を聞きながら政策を実現するまでわずか2年足らず。

・高岡市も行政が主導して公共交通を再構築するタイミングに来ている。

 

前回お伝えしたように、国土交通省の幹部が私に「やる気のある自治体」として、真っ先に挙げたのは、長野県松本市です。こちらは、高岡と同じように県内第2の都市です。松本城など歴史的な建造物も多い点も、高岡市と似ていますね。

さて松本市の公共交通です。現在、路線バスや市営バス、地域バスなど5つの種類バスが走っています。松本市は毎年、赤字を補てんしたりしているのですが、そのやり方をガラリと変えます。この4月から、バラバラのまま放置せず、バス路線網全体を再編するのです。市が路線や運賃などを決め、交通事業者に運行を任せるので、「公設民営バス」です。あくまで「公」、つまり、行政が主体なのです。

松本市は交通事業者に運行を委託する際、あらかじめ負担金額を設定し協定を締結します。負担金の額は、運送経費と料金収入などをベースに決めます。今まで市が毎年、赤字補てんなどに3億円ほどかけていましたが、その金額を上回らないよう検討を進めてきました。

事業者が効率的にバスを運行し、利益をあげれば、おカネが多く残ります。赤字が増えても、行政が補てんしてくれるという従来のやり方とは違うのです。「サービス向上や収支改善の意識を持ってもらうのが狙い」(公共交通課)です。利用者にとってもメリットがあります。通勤や通学の時間帯にバスが増えたり、交通空白地に新たにバス路線ができたりします。また、ルートが重複する路線は統合されます。

さらに公設民営バスで、大事なポイントは5年間の契約になることです。事業者にとっては、長期の見通しが立つので、銀行からの融資も受けやすくなります。新たなバスを購入するためのお金を借りやすくなります。

松本市の公設民営バスは今年、2段階に分けて動き出します。まず4月からは、市が運行主体となります。現在走っている5種類のバスがそのまま走りますが、運行形態ごとバラバラだったバス停を1つにして、統一したデザインにします。バスの車体やバス停には、公募によって決定したロゴマークと愛称を表示します。市民の皆さんだけでなく、多くの観光客にも親しみをもって利用してもらいたい、としています。

▲図 2023年4月、「公設民営」という新しい運行形態でスタートする「ぐるっとまつもとバス」のバス停デザイン(提供筆者)

その次のポイントは10月です。4月以降、1社に絞り込むため、入札を行った上で、10月に特定の事業者に一括して委託します。そこで5年契約となります。公設民営バスが本格的に動き出すのです。

精緻に練られている政策だなと感心していますが、それを実現するまでのスピードにも、私は驚きました。2年足らずなのです。

まずは、令和3年6月に、専門家を交えて「公設民営バス」の会議を立ち上げました。その後、市民を対象にアンケート調査を実施。専門家は11月に再編計画の中間報告を市長に提出しました。

それから、松本市は、市内全域で住民説明会を開きました。令和3年度と4年度、あわせて48回です。878人の人が参加しました。「住民の意見を聞いて、路線を変更したケースもあった」(公共交通課)。こうして市民との対話をベースに、市が新たにバスの路線網をつくったのです。

松本市がやろうとしている「公設民営バス」。国土交通省はそれを参考にして、運輸行政を転換しようとしています。赤字補てんからの決別です。地方から、国を動かしたのです。「松本発ニッポン再興」となったのです。私はこのコラムのタイトルのように「高岡発ニッポン再興」を掲げていますが、先を越されたと反省しています。

ただ、一方で痛感しました。高岡市も行政が主導して公共交通を再構築するタイミングに来ています。高齢化に伴う免許返納者の増加。さらには、一人一台の車による中心部の渋滞、排気ガスによる地球温暖化問題、厳しい経営状況の交通事業者・・・。

「公設民営バス」はさまざまな課題を解決してくれる可能性があるのです。国も後押ししてくれます。「公設民営バス」の可能性を探っていきたいですね。

トップ写真:現在松本市内を運行しているアルピコ交通株式会社の路線バス(提供筆者)




この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家

1964年富山県高岡市生まれ。

富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。


90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。


テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。


その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。


21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。

同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。

同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。

出町譲

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