"Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

戦車に匹敵する攻撃力を持つ装輪偵察車AMX10-RC

 

清谷信一(防衛ジャーナリスト)

【まとめ】

・仏政府はウクライナに対し装輪偵察車AMX10-RCを供与することを決定。

・AMX10-RCは偵察だけでなく、火力支援、対戦車戦闘も行える。

・砲塔左にはEADS製の赤外線ミサイル攪乱装置EIRELを搭載していて生存性を高めている。

 

 フランス政府はウクライナに対して装輪偵察車AMX10-RCを供与することを決定した。AMX10-RCは現在進められている仏陸軍のスコーピオン計画でEBMR(Engin Blindé Multi Rôles:medium-weight component)と位置づけられた車輌ジャガーで更新される。これは既存の装甲偵察車輌であるAMX-10、ERC90サゲー、HOT搭載型VAB、メフィストの3車種偵察車輌の後継となる。このため不要となる車輌だが、現在の戦闘車両として依然高い戦闘力を維持している。

戦後フランスは多くの海外植民地を失ったが、それでも北アフリカや中東などの旧植民地を中心に、軍事拠点を維持し、また兵力の投射能力を保有している。その装甲車輛中心となるのは調達・維持費が安く、兵站がコンパクトな装輪装甲車だ。フランスは独自の核武装を行っており、国防費の少なくないパーセンテージを核戦力の維持に宛てる必要がある。その文、通常兵力は圧迫されることになる。しかもGNPは60年代に我が国に追い抜かれており、長年にわたって我が国よりもかなり少ない国防予算の下で海外展開兵力とその装備を維持しなければかった。装輪装甲車が主力となったのは必然とも言える。

AMX10-RCはフランス陸軍が採用していたEBR8×8装甲車の後継として、1970年からジアット(現ネクセター)社が開発してきた偵察用6×6装甲車である。仏国防省DGA(装備調達庁)はトライアルを経て76年に525輛を発注したが、その後追加発注が行われて最終的には94年までに337輛が発注され、外人部隊の第1外人騎兵連隊 (1REC) や海兵隊の陸軍の海軍歩兵戦車連隊などに配属されている。

フランスには海軍に所属する海兵隊(Force maritime des fusiliers marins et commando)と陸軍の海兵隊(Troupes de marine)があるが、後者は植民地の警備などを担当する部隊で1967年に陸軍に移管されたもので、現在は第9海兵軽機甲旅団を中心に陸軍の緊急展開部隊の一翼を担っているが、水陸両用戦部隊ではない。水陸両用作戦が可能な本来の意味の海兵隊は海軍の部隊のみである。

AMX10-RCの車体は開発当時流行したアルミニウム合金の全溶接で全周的に小銃弾や砲弾の破片などに耐えられるが、湾岸戦争参戦を期に増加装甲が付加されている。

写真:側面の増加装甲を外したAMX10-RC。砲塔の低さがよくわかる。

提供:筆者より

注目すべきはジアット(現ネクセター)の48口径105ミリF2ライフル砲という、戦後第二世代の戦車に匹敵する戦車砲を搭載していることだ。

写真:長砲身の48口径105ミリF2ライフル砲と先進的な火器管制装置は第二世代の戦車を凌駕する攻撃力を与えている。砲塔上部には車長用のパノラマスコープが装備されている。

提供:筆者より

弾種はHE、HEAT、APFSDS、発煙弾などが使用できる。また火器管制装置には高度な性能をもつCOTACが採用され、トムソンCSF(現タレス)社の低光量TVシステム、DIVT13を搭載するなど夜間戦闘能力も充実している。このため威力偵察を含めた偵察だけではなく、火力支援、限定的ながら対戦車戦闘も行える(無論装甲が薄いので戦車とまともに撃ち合うことは不可能であるが)。

特に、途上国で多いT-55など旧式な戦車相手に対してはかなり戦えるだろう。かなわなければ高速を活かして戦場を離脱すればよい。携行弾数は砲塔内に12発、26発が車体に収納されており、計38発となっている。また同軸機銃と車長用として2丁の7.62ミリ機銃が搭載されている。これらの携行弾数は4000発となっている。

エンジンは当初ルノーの260馬力のディーゼルエンジン、HS115が採用されたが、出力が不足ということで83年からより出力の高い280馬力のディーゼルエンジン6F11SRXに換装されており、95年までにすべてのAMX10-RCのエンジンが換装されている。駆動系は同時期に開発されていた装軌装甲車のAMX10-Pと共用となっており、片側の車輪の回転速度を落とすことによって、装軌車輛のような超信地旋回が可能なスキッド・ステアリング方式を採用している。このあたりのギミックは如何にもフランス的である。またウォータージェットを装備しており、水上を浮上航行が可能である。C130輸送機による空輸も可能である。

AMX10-RCはフランスの他に、モロッコやカタールの陸軍が採用している。

ジアット(現ネクセター)はAMX10-RCの近代化案として新開発の105ミリ砲G2、スタビライザー、デジタル式の火器管制装置を搭載した電気駆動方式の砲塔、TML105を提案したがこれは採用されなかった。

写真:ジアット社が提案した近代化用に提案したTML105砲塔。同社が開発した次世代の歩兵戦闘車ベクストラにも搭載されたが、ベクストラは採用されず、フランス陸軍はより手堅い設計のVBCIを選定した。

提供:筆者より

 だがDGAもAMX10-RCの近代化は検討してきており、06年にパリで行われた見本市、ユーロサトリでネクセター社がその近代化案を発表した。砲塔はオリジナルのものを使用しているが、砲塔および車体側面はスペースド・アーマーによって強化されている。

写真:砲塔側面と車長用のキューポラ周囲にはスペースド・アーマーが装着されている。また砲塔後部にはカーゴスペースが設けられ、装備などの搭載スペースが拡大している。

提供:筆者より

またバトル・マネジメント・システムにはフランス軍の新型歩兵戦闘車、VBCIと同じSIT-V1を採用、データバス、GPSなどが搭載され、ネットワーク化に対応している。

砲塔左にはEADS製の赤外線ミサイル攪乱装置EIRELを搭載していて生存性を高めている。本来砲塔上部に装備した方が、より有効なのだが、場所を確保できなく、砲塔左側装備したとのことである。運転席のハッチはスライド式ビジョンブロックを搭載したものに替えられている。

写真:近代化に伴い、砲塔後部に装備されていた4連装発煙弾発射機は砲塔前部に移された。また砲塔左にはEADS社が開発した赤外線ミサイル攪乱装置、EIRELが搭載されている。

提供:筆者より

写真:運転手用のハッチは箱形のペリスコープ付きのスライド式のものに替えられている。ペリスコープの位置を上げることによってより、良好な視界を確保するためだろう。

提供:筆者より

都市戦や平和維持活動に対応するために発煙筒は発煙弾だけではなく、暴徒鎮圧用の催涙ガス、閃光弾、サーマル・イメージャー攪乱用の金属粉弾が用意されている。

スペック(オリジナル型)

全長6.357m(車体のみ) 

全幅:2.95m

全高:2.66m 

戦闘重量:15.8t 

乗員:4名

路上最高速度:85km/h

最大航続距離1000km

登坂力:50% 

超提高0.8m 

超壕幅1.65m

エンジン:6F11SRX ディーゼル280HP 

[武装]

105mm砲48口径×1 

7.62mm機関銃×2   

4連装発煙弾発射機×2

トップ写真:砂埃を上げて疾走する最新型のAMX10-RC。車体周囲にはモジュラー式のスペースド・アーマーがU字型に装着されている。湾岸戦争時は前部から側面前部と側面後方に分割された増加装甲が採用されていた。

提供:筆者より