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バイデン大統領をどう評価するか その1 任期中に戦争が起きた

KYIV, UKRAINE - FEBRUARY 20: In this handout photo issued by the Ukrainian Presidential Press Office, U.S. President Joe Biden meets with Ukrainian President Volodymyr Zelensky at the Ukrainian presidential palace on February 20, 2023 in Kyiv, Ukraine. The US President made his first visit to Kyiv since Russia's large-scale invasion last February 24. (Photo by Ukrainian Presidential Press Office via Getty Images)

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・就任2年のバイデン大統領は2月、2023年度一般教書演説を終えた。

・バイデン氏は9割ほど内政問題に当て、国際課題や外交政策への言及は驚くほど少なかった。

・最初から軍事的対応という選択肢を排除したことはロシアの侵略を結果として奨励したと批判されている。

 

アメリカの国政がさらに混迷をきわめてきた。国内政治では2024年の次回大統領選挙に向けての展望もまさに屈折し、錯綜を深めてきた。

そして日本側にとってはなによりも気になるアメリカの対外政策、国際情勢への動向が鈍く、弱くなる気配をみせてきたようなのである。

アメリカの政治全体のまず俯瞰図となれば、最初の基軸は現在の統治責任権者、民主党のジョセフ・バイデン大統領とその政権のあり方とするべきだろう。

バイデン大統領はこの1月20日、就任以来ちょうど2年の任期折り返し点を越えた。その直後といえる2月7日、同大統領は連邦議会上下合同会議で今2023年度の一般教書演説を終えた。

それから1ヵ月ほど後、この時点でのバイデン大統領の実績評価は時機としてまさに適切だろう。だが当然ながらその評価は容易ではない。その広範な軌跡に対して半分まで水の入ったコップの満ちた部分をみるか、それとも空の部分をみるか、によって見解はまるで異なってくる。

となれば、歴代の他の政権の実績とくらべれば、より客観的な評価が出てくるかもしれない。その比較では、まずバイデン氏のすぐ前任のトランプ前政権との対比がわかりやすいだろう。

トランプ政権とのその比較でもまず対外政策での実績にしぼって考察してみよう。アメリカの内政も重要だが、世界全体、あるいは日本をはじめとするアメリカとの絆の深い他の諸国からみれば、アメリカが超大国として対外的にどんな行動をとっていくかは最優先となる関心事だろう。

ちなみに前述の一般教書演説ではバイデン大統領はその内容の9割ほどを内政問題に当てた。国際課題や外交政策への言及は驚くほど少なかったのだ。この事実はバイデン政権が対外政策では誇れる実績をほとんど達成していないという自認とも受け取れる。

国際情勢に関してバイデン政権がトランプ政権と異なる特徴としてわかりやすい判断材料の一つは、それぞれの任期中に新たな戦争が起きたか否かである。アメリカの歴代大統領の対外実績の評価でこの基準はよく使われる。

たとえアメリカがその戦闘当事国でなくても、世界のどこかで新しい戦争の勃発を許したとすれば、超大国の元首のアメリカ大統領の責任にかかってくる、という判断が年来、存在してきた。

その点でまず第一に、ロシアのウクライナ侵略はまちがいなくバイデン大統領の任期中に起きた新たな戦争である。

ロシアが軍隊をウクライナ国境沿いに集結させ、侵略の準備を始めたことは国際的にも、そして当然ながらバイデン政権にも明白にわかっていた。それでもなおアメリカはその侵略を阻むことができなかった。阻もうとしなかったと総括する向きもある。

バイデン大統領自身はロシアのウクライナへの軍事攻撃に対して「アメリカは経済制裁で対応する」と断言し、軍事的な抑止の手段はとらないことを言明してしまった。プーチン大統領にとってはウクライナに軍事侵攻してもアメリカやその同盟相手の北大西洋条約機構(NATO)の諸国からは直接の軍事的反発は受けないという安全保証だった。

バイデン大統領はアメリカ国内では保守派、中道派からは「最初から軍事的対応という選択肢を排除したことはロシアの侵略を結果として奨励してしまった」と批判された。実際にトランプ前大統領は自分の任期4年間には新たな戦争はまったく起きなかったことを強調し、バイデン政権の態度を軟弱すぎると非難した。

**この記事は月刊雑誌『正論』2023年4月号に載った古森義久氏の論文「国際情勢乱す米国政治の混迷」の転載です。

(つづく)

トップ写真:ウクライナ ゼレンスキー大統領と会談するバイデン米国大統領  (2023年2月20日、ウクライナ・キーウ)出典:Photo by Ukrainian Presidential Press Office via Getty Images