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「高岡発ニッポン再興」その117 JR城端・氷見線の経営移管で、生活変わる

出町譲(高岡市議会議員・作家)

【まとめ】

・赤字で苦しむ全国の地方鉄道は「JR頼り」の状況。

・JR西日本が城端線と氷見線を富山県の3セク「あいの風とやま鉄道」に経営移管。

・高岡市だけでなく、氷見市、砺波市、南砺市の人々の生活を変えるかもしれない。

 

赤字で苦しむ全国の地方鉄道は「JR頼り」の状況となっています。自治体がJR側に路線を維持するよう求めているのです。そんな中、注目されているのは、富山県西部を走るJR城端線と氷見線です。JR西日本が富山県の第3セクターに経営を移管することになったのです。新しくできた国の法律をつかっての全国初の取り組みとなりそうです。

JR城端線・氷見線の経営移管は7月、富山県、沿線4市、JR西など会議の場で、急きょ浮上しました。当初は「なぜ」と私は不思議でした。JR西日本は赤字路線を手放したがっているかもしれませんが、JR城端線・氷見線は赤字といっても、全国の赤字路線に比べると、まだましです。どれだけお客が乗っているかの指標があります。キロメートルあたりの1日平均利用者数(輸送密度)です。城端線・氷見線はともに2000人を上回っています。中国地方では1000人を下回る路線も数多くあります。

中国地方のある新聞記者は、私に「城端線・氷見線はパンドラの箱を開けた。JRは今後、中国地方の鉄道をどんどん切り離していくだろう」と懸念を示しました。

JR城端線・氷見線の経営をJRから引き継ぐのは、富山県の第3セクター、あいの風とやま鉄道です。その背景には、国の法律改正があります。経営を刷新する鉄道会社に対して、かかった費用の3分の1を出す仕組みがつくられたのです。今回、城端線・氷見線はその第1号になります。

先日まとまった事業計画によれば、本数が1・5倍の60本に増えます。日中は、等間隔で発着するパターンダイヤを導入します。車両は現在より10両多い34車両となります。ICカードの導入、さらには両線の直通化も実施します。城端線・氷見線の経営移管は29年度がめどです。便利になり、喜ばしいことですね。

ある行政関係者はこう言いました。「JRのままでは便数がますます減っていきます。そうなると、ますます不便になり、地域から人口が減ります。そうなってからでは遅いのです。まだ元気なうちにJRから譲り受け、攻めの鉄道にしなければなりません」。

そうなんですね。どんどん人口が減る前に、抜本的な改革に踏み切るというのは、十分理解できます。ただ、気になるのは、費用です。事業費は382億円に上ります。私が驚いたのは、JR西の拠出金です。実に150億円も出すというのです。私はかねがね、JR側により多くお金を出すよう交渉して欲しいと主張していましたので、ほっとしています。

城端線・氷見線は乗客が増えれば、新しい駅ができる可能性があります。今回の国の制度では、駅舎の建設にもお金がでるのです。そうすれば、駅の周辺に住宅地ができるかもしれません。免許返納者が増える中、電車という移動手段は極めて大事なのです。

私がお手本としているのは、富山市です。JR西が廃線を決めたローカル線を譲り受け、低床の次世代型路面電車(LRTとして再生しました。その際、JRから10億円の拠出金を得ました。

1日の運行本数を34本から最大60本に増やしました。市が負担したのです。その結果、乗客が急増し、初年度の2006年度から黒字に転換したのです。

さらに、多くの通勤客がマイカーからLRTにシフトしたのです。渋滞ラッシュの緩和にもつながりました。また、繁華街の賑わいも下支えしました。地価も上昇しました。

LRT化を推し進めた富山市の森雅志前市長はJRに頼るだけではダメだと指摘。市が負担するのは当然との認識を示しています。

私もその考えに賛成します。クルマ一辺倒からの脱却。大きな目標に向けて進まなければなりません。あいの風への経営移管は、高岡市だけでなく、氷見市、砺波市、南砺市の人々の生活を変えるかもしれません。

トップ写真:雨晴海岸 氷見線 

出典:Ⓒsai10