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.政治  投稿日:2023/11/9

「高岡発ニッポン再興」その109 住民のお叱り、いずれは収まる


出町譲(高岡市議会議員・作家)

【まとめ】

・鈴木直道氏、5年前夕張市長当時、「住民の声を聞く重要性を痛感した」と語る。

・痛みを伴う政策を実現するには、とにかく大事なのは住民との対話。

・人口減少が避けられない今、勇気をもって課題を克服する努力をしなければならない。

 

政治家にとって住民の話を聞くのは最も大事です。どんな政策を実現するにも、住民の理解が欠かせません。

夕張市長だった鈴木直道さん(現北海道知事)は5年前に取材した際、住民の声を聞く重要性を痛感したと語りました。前回お伝えした市営住宅の集約化のプロセスで改めて学んだといいます。人口減少に伴って市営住宅を集約したのです。

「当初、集約先の各戸にユニットバスをつくることを提案しました。しかし、住民は要らないと断りました。これまで共同浴場を使っており、お風呂上りのコミュニケーションの場だったのです。住民たちは、その代わり今の共同浴場をバリアフリーにして欲しいと言いました。こちらからの案の押しつけは、ダメなのです」。

痛みを伴う政策を実現するには、とにかく大事なのは、住民との対話です。鈴木さんはそんな思いから、5人以上が申し込めば、市長が年中無休で出向く制度を設けました。

「飲食店に呼び出され、3時間か4時間も住民からお叱りを受けることもあります。ただ、人はどんなに怒っていても、しばらくすれば収まってくるのです。最後には『お前もたいへんだな』という言葉が出てくるのです」。

日本は本格的な人口減少社会に突入しています。夕張市の高齢化率は全国トップで、50%を超えるが、日本全体がその水準に向かっています。

「多くの住民が市長にやってほしいことは、人口が増えるような対策です。夕張であれば、最盛期の人口11万に戻してもらうことです。かつて夕張市は観光でそれを実現しようとしました。コンパクトシティーはその真逆の政策です。つまり、人口は半減します。だから、あなたは住んでいる地域を離れ、こっちへ引っ越してください。そんな政策です。住民からは反発が出て当たり前です。それは選挙をしなければいけない市長にとっては大きなリスクがあるのです」。

その上で、鈴木さんは重要なメッセージを投げかける。「危機があっても、住民にそれを悟られないようにするのが、行政手腕という考え方があります。問題や課題を先送りした方が選挙にも通りやすいし、役所批判も少なくてすむ。しかし、本当は追い込まれているのです。先送りの結果、問題は深刻になるのです。夕張の場合は、誰が責任を取ったのでしょうか。先送りの意思決定をした市長などではなく、市民や職員です」。

私は今、高岡市議会議員ですが、5年前ジャーナリストでした。当時に比べて鈴木さんの言葉が胸にしみます。確かに政治家はバラ色の将来を語るほうが票を得やすいのは確かです。問題を先送りしたい気持ちも十分わかります。しかし、人口減少が避けられない今、勇気をもって課題を克服する努力をしなければなりません。高岡市、富山県、そして日本の未来の子供たちのために。

トップ写真:筆者と鈴木直道夕張市長(当時)1998年(筆者提供)




この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家

1964年富山県高岡市生まれ。

富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。


90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。


テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。


その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。


21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。

同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。

同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。

出町譲

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