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装輪155mmりゅう弾砲は必要か 上

清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】

「装輪155mmりゅう弾砲」の採用には賛成できない。

・現有「FH-70の寿命」は「装輪155mmりゅう弾砲」導入理由にならない。

「装輪155mmりゅう弾砲」調達は次期大綱の火砲数とMLRS更新を決定後に決めても良いのでは。

 

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防衛省は来年度予算の概算要求で、現用の牽引式155mm榴弾砲、FH70の後継として「装輪155mmりゅう弾砲」を7輛48億円(単価6.9億円)、初度費17億円を要求している。

本年5月末に防衛装備庁はホームページで、開発中の「装輪155mmりゅう弾砲」の情報を公開し、以下のように述べている。

装輪155mmりゅう弾砲」は、現有の牽引式榴弾砲(FH-70)の減勢に対応するものであり、射撃・陣地変換の迅速化、戦略機動性の向上及びネットワーク化を図った装輪自走砲として、開発中である。

平成30年5月31日までに試作車両計5両が株式会社日本製鋼所から納入され、その後防衛装備庁において評価・試験を行う。仕様は主砲が155mm/52口径、全長約11.4m、全幅約2.5m、全高約3.4m、乗員定数5名となっている。

▲写真 FH-70 出典:著者撮影

このようなトラックの車体をベースにした簡易型の自走砲は路上走行能力が優れ、また牽引砲に比べて展開や撤収が容易であり、また運用人員が少なく、運用コストは装軌型の自走砲よりも安価である。このため今世紀に入って多くの国で採用されている。だが筆者はこの「装輪155mmりゅう弾砲」の採用は賛成できない。

まずは開発に至るまでの経緯が胡乱である。「装輪155mmりゅう弾砲」は当初は「火力戦闘車」と呼ばれて24年度に開発予算が要求されたが事前の海外製品などの調査が不十分であり、始めに国産開発ありだとして財務省が認めなかった。

このため25年度に再度要求され、認められた。試作が平成25~28年度。同じく技術・実用試験が平成25~28年度となっており、平成25年度の「ライフサイクルコスト年次報告」では200輌の調達を前提とした上で、総予算が1,746億円で、開発試験費用が181億円、量産に関しては初度費が12億円、生産費が959億円、よって調達単価は4.86億円となる。だが24年度の政策評価では開発費が100億円となっている。防衛装備全体にそうだが、政策評価では試験費などを含めておらず、納税者に対して低めに開発を見せている。これは大きな問題だ。また、先述のように来年度概算要求では調達単価は約1.4倍に高騰している。これについての説明もない。

更に問題なのはライフサイクルコスト年次報告」には構想研究費や技術研究費が全く計上されていない。つまり財務省に指摘された始めに国産開発ありき、という批判を全く無視したことになる。諸外国でどのような簡易型自走榴弾砲が開発、運用され、我が国にはどのようなものが必要かということが全く検討されなかった。

当初車体は三菱重工製が陸自向けに生産している重装輪回収車を、主砲は99式のものを流用することが決定されていた。だが、その後、重装輪回収車は重量が重すぎ、また機動力に欠け、採用後のコンポーネントの供給にも難があることからドイツのMAN社の8輪トラック、HX 8×8に変更された。重装輪回収車は重量が24.8トンであり、クレーンを除いた車体だけでも20トン前後はあり、当初のもくろみのペイロード28トンのC-2輸送機に搭載することは不可能だっただろう。この車体の変更は評価ができる。駄目な車体をそのまま採用するよりはマシだ。

だが「現有の牽引式りゅう弾砲(FH-70)の減勢に対応するため」というのも事実ではない。FH-70の寿命は十分にある。FH-70の砲身は射撃機会が少ないために寿命が十分にある。我が国では射場が狭く、最大射程での射撃は不可能なために、米国ヤキマの演習場で行われる演習で年に2門程度が派遣され、その時に撃つ程度だ。国内での実弾射撃は射程が短いため砲身に掛かる圧力も少ない。しかも回数も少ないので砲身の摩耗が少ない。

ピーク時、陸自は400門のF-70を保有しており、世界最大のFH-70のユーザーであった。防衛大綱によって、火砲の数が減じられているのでローテーションで使用しているのであれば尚更摩耗は少ない。

問題はスバルがライセンス生産していたガソリンエンジンのAPU(補助動力装置)だが、これはイタリア製のディーゼルのAPUが存在し、換装できる。それに加えて足回りなど含めてオーバーホールしてもコストは1門あたり3千万円ほどにしか過ぎない。APUが寿命だから、砲が寿命で用途廃止するというのは納税者の理解を得られない。率直に申し上げて防衛省の説明は虚偽である

「装輪155mmりゅう弾砲」を導入するということはまだ使用が可能なFH-70を廃棄することを意味する。そうであれば納税者が納得できる理由を述べる必要があるはずだ。装備が寿命だと嘘をつくのは納税者に対して誠実な態度とはいえない。更新の理由を述べるのであれば、ドクトリンや運用構想の変更であるはずであり、それを説明すべきだ。

▲写真 FH-70は補助動力装置がついており、ある程度自走が可能だ。 出典:筆者撮影

また調達数も問題だ。現大綱下において火砲の数は300門とされている。このうち99式が136輌でMLRSが約60輌、必要となる「装輪155mmりゅう弾砲」の調達数は100輌程度に過ぎない。教育所用を足しても120輌程だろう。MLRSも導入されてかなりの時間が経過している。これの更新も必要だ。

仮に米陸軍のHIMARS(High Mobility Artillery Rocket System)のような装輪タイプを採用するならば、ランチャーの数は現用の装軌式の半分になる。火力が半分になっても誘導式のロケット弾を導入しているので、火力に問題は無い、戦略機動力が増し、運用コストが下がるというベネフィットがあるから良し、とするのか、現在と同じ火力を維持するのか明らかにしておくべきだ。

▲写真 MLRS 出典:筆者撮影

後者であればMLRSは、120輌は必要ということになり、その場合「装輪155mmりゅう弾砲」の必要調達数は40~50輌程度になってしまう。これでは生産するには少なすぎ、調達単価は跳ね上がるだろう。また近く改訂される防衛大綱では火砲の数の上下することも想定される。「装輪155mmりゅう弾砲」の調達は次期大綱の火砲の数と、さらにMLRSの更新を決定してから決断してもいいのでは無いだろうか。

先述のように調達期間も不明だ。「99式自走りゅう弾砲」は1999年に採用され本年度まで調達が続いた。そもそもソ連崩壊が起こった10年後から、装軌式で重たく、維持費も高い99式を調達する必要があったか大変疑問である。フランス陸軍は「装輪155mmりゅう弾砲」トラック搭載型の簡易型を2000年から、つまり99式とほぼ同じタイミングで調達し始めていた。ソ連崩壊以前に計画された装備をその後漫然と30年近くも調達を続けるというのはあまりにも怠惰だろう。

しかも99式の調達単価は11億円ほどであり、「装輪155mmりゅう弾砲」と比較しても1.6倍だ。しかも履帯を採用しているために、整備費も格段に高い。途中からでも簡易型自走砲に切り替えるべきだった。そうすれば調達単価も、維持運用費も大幅に低減できただろう。

しかも「装輪155mmりゅう弾砲」は富士学校や開発実験隊において、性能などに大きな不満が有るようだ。特に射撃時の安定にも問題があるようだ。写真のように後方には車体を固定する駐鋤が装備されているが、それだけでは安定性が十分ではなく、車体左右にも駐鋤(チュウジョ)を装備するべきだという意見があるという。そうなれば重量は更に増大しC-2での空有が不可能になるかもしれない。このため富士学校の一部では予算化に慎重な意見もあるという。

(下に続く。全2回)

トップ画像:99式自走りゅう弾砲 出典:著者撮影